招かれざる客に歌のプレゼント!

 叩き潰すようなモーションで、ムロがヘルハウンドを切る。 


 クルッとターンしつつ、ナオが火球を口から吐き出した。


 ナオのブレスで、三体のトロルが黒焦げになる。


 踊るセラの周りに、スライムが寄ってきた。セラに向かって、粘液を飛ばす。ネバネバした物体が、セラの衣装にへばりついた。


「ひい!」


 セラの衣装が、ドロドロに溶けていく。


「大丈夫か、セラ!」


 丸裸にされそうになったところで、ナオの火球が飛ぶ。


 スライムが、ナオの攻撃魔法によってチリとなる。


「ありがとうございますぅ!」 

「今、対処するから待ってろセラ! 【コールドバリア】ぁ~♪」


 ささやくような冷たい吐息でつぶやき、歌とともにセラへ投げキッスした。


 セラの周辺に、氷のドームができあがる。


「その中に入ってて。絶対に出ちゃダメ」

「わかりました。この中で踊っていたらいいんですね?」


 一心不乱に、セラはメスの香りをダンジョンじゅうに振りまく。涼しいドームの中でオ度ているため、まったく汗をかかない。


 セラが踊るたびに、モンスターが続々と集結する。


「こりゃ稼げるなぁ、ナオよ!」

「街からモンスターを遠ざけるためだ。できるだけ潰す」

「あいよ」


 ムロも、ナオの提案に応えるためか、一体一体を確実に仕留めていく。


「サポートするわ」


 レティもドーム内に入り、戦局を見極めた。彼女だって、回復と攻撃の魔法を両方扱える。ピンチになっているメンバーに、魔法を放つ。


 特に危なげなく、稼ぎは続いた。


 しかし、雲行きが怪しくなっていく。ズシンズシンと、何者かが近づいていた。なんだろう?「どーせ大トカゲだろ? こんなところにドラゴンなんていねえはずだぞー」


 楽観的なムロは、そう分析する。


 だが、とんでもない相手が。足跡の主は、フンババだった。尖った耳を持つ大型の二足歩行魔獣である。


「あなたは呼んでませえん!」


 こんな巨大生物が相手では、全滅してしまう。そう感じたセラは、踊りをやめようとした。


「踊り続けろ、セラ! ウチらがなんとかする!」


 ナオは、この巨獣と見えようとしている。


 大型の魔獣が、軽く腕をふるった。それだけで、洞窟の外壁がえぐれている。


「ヤバいって、ナオ! とっととずらかろうぜ!」


 ムロはかろうじて、化け物の爪をかわしていた。


「ウチの歌、こいつに通じるのか?」


 渾身の魔力を込めて、ナオが歌う。必死のメロディは、炎の槍を呼んだ。


 だが、召喚できただけ。怪物の腕で、槍はあっさりと叩き壊された。


 魔獣の手は、セラのドームに近づく。二、三発殴っただけで、ドームが破壊されてしまう。


「セラ!? くそ!」


 ナオが火球の雨を、フンババに叩き込む。


 ムロも、魔獣の背中に、なんとか刃を突き刺そうとした。


 だが、歯が立たない。


 これは、死んだか?


 いや、自分にはまだ【アレ】がある。


「皆さん、耳をふさいでいてください!」


 大きく息を吸い込んで、セラは覚えている限りの歌をでたらめに歌い始めた。


「あぁいことばはぁ~、フラ~ッシュ! 青春が爆発ぅ、フラ~シュ!」


 このまま、食べられたくない。他のメンバーも自分が守らなくては。そんな気持ちを込めて、ヘタなりに歌う。


 フンババが、その場で嘔吐した。普通の魔物より耳がいいフンババには、音痴がこたえるのだろう。


 耳をふさごうとしたフンババの耳に、セラは棍棒を突き刺した。


「ナオさん、マイクを」


 呆けていたナオが、覚醒する。マイクをセラに投げつけた。


 マイクを掴んだセラは、フンババの耳に直接歌を届ける。


「空をお~見ろおお。戦あうためにぃ、選ばれえたぁ、勇うううう者ぁ~。悪をぉ遮る盾となってぇ~。フラッシュ!」


 フンババの具合が、目に見えて悪くなった。セラを振り払おうとするが、力が入っていない。


 他の魔物たちも、セラの歌をやめさせようとするのだが、音波がひどすぎて近づけない状態だ。


「怒りをぉ、燃やすぞぉ~! フラアアアアアッシュ!」


 フンババの耳元で、セラがシャウトした。


 ボン! と激しい怪音が鳴る。かと思えば、フンババが気絶した。


「脳が耐えきれなくなって、爆発したんだわ!」


 レティが検死をして、フンババの死因を特定する。


「やったぜセラ! お前のおかげで、危機を脱したぞ!」


 セラの身体に、ムロが抱きついてきた。


「ごめん、セラ。ウチがワガママなせいで、あんたを危険な目に巻き込んだ」

「いいんです、ナオさん。みんな無事でよかった。じゃあ帰りましょうか」


 ギルドから報酬をもらったセラたちは、真っ先に酒場へ直行する。


 狩ったフンババは、料理になってもらった。あれだけこちらを苦めたのだ。存分に、こちらの胃を満たしてもらいたい。


「今日はあんたに命を助けられた。目一杯食べていいから」

「ありがとうございます。こちらこそ、借金の肩代わりまでしてもらっているのですから、お気になさらなくても」


 恐縮するセラに、ムロが唐揚げになったフンババを突っ込む。


「まあまあ食えって」

「ふぁい。いたらきます」


 モゴモゴと言いながら、セラは勝利の味を噛み締めた。

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