冒険先でポールダンス!

 吟遊詩人の仕事は、ライブだけではない。冒険にも出る。


「お金があるのに、冒険するんですか?」


 売れっ子の吟遊詩人団体であるナオは、危険な冒険とは無縁と思っていたが。


「それはそれ。お金持ちだって、釣りとか狩りとかに行くでしょ? あれは食べて生きるためじゃないじゃん。それにさ、ボランティアで動くとか、理由はいっぱいある」


 ナオにそう言われて、セラも納得した。自分は危うく、生きるために冒険を重ねるところだったのである。


 ナオと出会っていなければ、自分はのたれ死んでいただろう。もしくは、使い潰されていたか。


 冒険者用のボードには、依頼書がベタベタ貼られていた。


 薬草採取のような簡単ミッションから、レアアイテム探索といった難易度の高い依頼も。


「尋ね人、アンブロジア王女を発見された方には、賞金……一〇〇〇万キャンド!?」


 肩代わりしてもらった借金を、すぐに返せる値段だ。


 しかし、何のツテもない自分では、王女なんて探せないだろう。


 なぜか、ムロがその依頼を素通りしたのが気になった。いつもの彼女なら、「面白そう」と言って飛びつきそうなのに。


「どうかしましたか?」

「なんでもなーい。それより、これ面白そうじゃね?」


 ムロが、一つの依頼書を指差す。


「ふむふむ、洞窟の魔物退治か」


 街の食料源である小麦を漁りに、モンスターが定期的に襲撃しに来るという。それらの居所を突き止めたので、討伐してくれとのこと。


「たしかに、食糧難になれば、魔物がこの街自体を襲うかも知れないからな」

「だろ? いちょもんでやろうぜ!」


 腕まくりするムロを、「こらこら」とナオがたしなめる。 


「街のためだぞ。ケンカをしに行くんじゃないから」

「ほいほーい」


 準備を済ませた後、ダンジョン内部へ。


 森のどまんなかにある滝の側に、依頼先のダンジョンがあった。


 それにしても、四人だけで探索とは。てっきり誰か別のグループとパーティを編成して、出かけるのだと思っていたが。


「それだと分け前が減るじゃん」

「彼らは彼らで、別の目的があったりするからな」


 レアアイテム堀り、武器の素材集め、繁殖しすぎた魔物の間引きなど。パーティによって、依頼も目的も様々なのだ。


「第一魔物発見、どりゃあ!」


 ムロが背中の大剣を抜刀する。背中にトゲが生えたウルフを、一刀のもとに伏した。


「あの子はもう、バンドより剣士として食べていくつもりかしら?」


 大きなカバン型アイテムボックスを担ぎながら、レティが呆れている。


「大丈夫ですか? 持ちましょうか?」

「いいのよ。私の冒険ジョブは【司祭】だから」


 つまりレティは、【鑑定士 兼 荷物持ち】だ。アイテム拾いと荷物管理こそ、レティの存在意義なのである。


「よっしゃ。レティ、鑑定頼む」


 金属製の棍棒を、ムロがレティに見せた。


「バトルスタッフのプラス一。今のままだとゴミね」

「まあ素材にはなるかなー。そうだセラ、装備する?」

「そうね。私もヒール担当だし、使えなくないけれど。セラちゃんがご信用に持つのが一番よね」


 たしかに、セラは戦闘職も【踊り子】なので、【武道家】と装備を共有できる。

 一応バトルスタッフを装備できるはずだ。

 適当に持ってきたタンバリンで殴るよりは、現実的だろう。


「装備できました。これで戦闘力アップです」


 しかし、もっぱら戦闘はムロ任せである。敵も弱いし、それでいい。


「そういえば、ナオさんは冒険のとき、どこを担当なさるので?」


 やはり、吟遊詩人だろうか? しかし、ギターのできない彼女には詩人のマネなどできまい。しかし、今日はギターを所持していなかった。スタジオを兼ねたセーフハウスに置きっぱなしである。


「【魔術師】よ」


 マイク型の杖を持ちながら、ナオはスライムに狙いを定める。


「おおナオ、スライムはあたしじゃ潰せねー。頼むわ」

「オッケー。【火柱】♪」


 なんと、ナオが口から炎を吐き出したではないか。そう見えただけで、実際は杖に呪文を吹き込んで魔法を撃ったのである。


「あの子は歌声を、攻撃魔法に変えるのよ」


 戦い方まで歌手とは。


「なんかもっと効率的に狩れねえかな? 決め手にかけるんだよなー」

「意図的に、スタンピードを起こせないかってこと?」

「あー、そうそう」


 家畜などの集団暴走をいう、スタンピード。ダンジョン内では「モンスター溜まり」、いわゆる「モンスターハウス」状態を言う。


「でな? そこでセラの【ポールダンス】ですよ」

「ああ、【引き寄せ】を起こせと」


 セラも、なんとなく理解した。踊り子のポールダンスは、魔物を引き寄せる効果がある。求愛と、関連しているらしい。


「スタンピードが始まったら、ウチらに任せてくれたらいいから」


 戦わなくていいなら、いいだろう。


「では行きます!」


 見晴らしのいい場所に立ち、セラはバトルスタッフを地面に突き立てた。クネクネと腰を曲げながら、モンスターを誘う。


「ロープでくくりつけられた姫君」というテーマだ。


 続々と、メスの匂いを求めてモンスターが集まってくる。


「ひいいいい」


「よし、セラを守りつつ、稼ぐぞ!」


 女四人による、狩りが始まった。

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