第10話悪を吹き飛ばす嵐(前編)

マジックショーを終えたぼくたちは、バックヤードでお弁当べんとうを食べていた。

このお弁当は松岡くんのお姉さんたちが作ってくれたんだ。

「みんな、よかったよ。本当にありがとう」

「どういたしまして、それにしてもすごい力だったよね。」

「ああ、使ってみたけど本当にすげえや。思ったとおりになるって、本当に気持ちいいよな。」

みんなパワーストームの力を実感しているようだ。

「それにしても、城ヶ崎さんってすごい怪力だよね。あの箱を本当に力だけで開けてしまうなんて。」

文道くんが感心した。実は最後のマジックで使ったあの箱は、ぼくが文道くんにたのんで手に入れたんだ。文道くんの家はおもちゃ屋をしていて、ふだん見ないおもちゃもおいてあるんだ。でも売り物だったから、結局ぼくのおこづかいと大島さんのお金で買ったんだけどね。

「そういえば、城ヶ崎さんは?」

斎藤さんが言った。

「城ヶ崎さんは、握手会あくしゅかいをしているよ。もう先にお弁当は食べたみたい。」

「おーい、ちょっといいか?」

大島さんがぼくたちに言った。

「どうしたの?」

「実は君たちの仲間になりたいという人がいるんだ、その人を会わせたいけどいい?」

「いいよ、それでどんな人?」

「二人いて、男女のペアだよ。」

男女のペアときいてぼくはどきどきした。

そして大島さんにつれられて、男女の子どもが入ってきた。身長からして、ぼくたちと同い年かな?

「はじめまして、ぼくは杉野速人すぎのはやとといいます。」

「わたしは水澤蓮みずさわれんといいます。あなたたちのことを聞いて、杉野くんと一緒に見にきました。」

二人とも、とてもかわいい見た目をしている。ぼくはぜひなかまにしたくなったんだ。

「お前ら、なにか得意なことはないか?」

神島くんが二人に質問した。

「ぼくは野球が得意です。」

「わたしは裁縫さいほうです。」

「へえ、すごいじゃない。ところで君たちは、どうして『チームブンガブンガ!』に入ろうと思ったの?」

藤宮さんが二人に質問した。

「ぼくたち、最近とてもたいくつしているなと感じていたんです。」

「今の生活に不満はないけど、なんかおもしろくなるきっかけというのがほしくなったんです。」

「そこで『チームブンガブンガ!』の話を聞いて、これだとおもって入ろうと決めたんです。」

二人ははっきりと説明した。

「そうか、ぼくたちと一緒にいれば絶対にたいくつしないよ。だからぜひ仲間になったほうがいいよ。」

文道くんが明るく二人に仲間になることをすすめている。

どうやら二人は、ぼくたちに気に入られたようだ。

「よし、杉野くんと水澤さんはもうぼくたちの仲間だ。この後、大島さんにちゃんとあいさつしてもらうけどいい?」

「やったー!はい、もちろんいいですよ。」

「うれしいです、これからよろしくおねがいします。」

そして二人は大島さんとあいさつに行く予定を決めると、『またね~』と手をふりながら去って行った。

「まさか学校の生徒以外で『チーム・ブンガブンガ!』に入りたい人がいるとは、思わなかったなあ。」

風間くんが意外そうな顔をした。

「まあ、ぼくたちのかつやくが多くの人に見てもらっているということだよ。これからも続けていこう!」

ぼくが言うと、みんなはうんとうなずいた。

これからもみんなを楽しませるマジックを、続けていくぞ!!












「三堂がしくじったか・・・。」

将矢は新田の知らせにイライラして、右手の人差し指で机をたたいた。

「やっぱり彼はやる気だけで、役に立たない人でしたね・・・。こうなったら、おくの手を使いましょう。」

おくの手・・・、そんなのがあるのか?」

将矢は三堂に質問した。

「サンフラワーはおそらく大島の強力なバックアップで守られています、それに対抗するためには大島以上に強力な力を持った人物の協力が必要です。私たちには政治家とのつながりがあります、ですから政治家の力を使うのです。」

「政治家か・・・、しかし政治家には借りを作りたくはない・・・。」

将矢は悩んだ。

元々、今回の公共事業は『名古屋市北区再開発なごやしきたくさいかいはつ』というもので、藤代不動産と長年付き合いのある後藤ごとうという政治家から聞いた話だ。

もし再開発の予定地よていちとなる土地を手に入れることができれば、再開発の時に土地の値段ねだんが上がり、藤代不動産は大儲おおもうけできる魂胆こんたんで計画を進めてきた。

しかし政治家の力を借りるとなれば、借りを返すということでもうけが少なくなってしまう。

将矢はなやみになやんだが、結局政治家の力を借りることにした。

将矢は後藤の家に電話をかけた。

「もしもし、後藤さまのお宅ですか?」

「はい、どんな用件でしょうか?」

電話の声は茶屋野さやのという後藤の秘書ひしょである、取り次ぎをたのむとすぐに後藤が出た。

「藤代か、一体どうしたんだ?」

「実は再開発の土地買収について、問題がありまして・・・。」

「何だと!それはどういう事だ?」

後藤の声が大きくなった。

「実は土地をどうしてもゆずらないと言いはる人がおりまして、しかもその人のバックにはとんでもない人がいることがわかりました。」

「それで、その人の名前は?」

「大島という者です。」

「大島・・・、もしかして大島愛知おおしまあいちのことか?」

「はい、そうです。」

少しの間のあと、後藤が言った。

「大島財閥の当主か・・・、これは面倒な相手だな。」

「はい、そいつがじゃましているので土地の買収がうまくいきません。妨害ぼうがいのために社員を送り込んだのですが、あっさりやられました。」

『大島はそんじょそこらのやつとはちがって、一筋縄ひとすじなわではいかない相手だ。こうなったら私がじかに会って話をつけてくる。』

「本当ですか!ありがたい、どうかよろしくおねがいします。」

『藤代、もちろんわかっているよな?』

後藤のこの言葉に藤代は、心に少しくやしさを感じた。

「はい、わかっております。お礼はたっぷりと用意します。」

『うむ、よろしくな。』

藤代は電話を切った、そして後藤に電話したことを後悔した。

「これでわれわれの儲けが減ってしまったなあ・・・。」

「社長、落ち込んではいられません。このままではサンフラワーの土地を手に入れることが、より難しくなります。」

新田は真顔で言った。

「一体、どういうことだ?」

「これを見てくだせい。」

新田は将矢にスマホである動画を見せた。

「最近SNSで話題を呼んでいる動画なのですが、どうもサンフラワーで撮影されたもののようです。」

新田が動画を再生させた、動画の内容はある少年がマジックショーをする動画で、ゲストとして総合格闘そうごうかくとうの選手である城ヶ崎竜也じょうがざきりゅうやが出演していた。

「これはサンフラワーが話題を生み出すためにとった戦略です。このままでは、サンフラワーを無くすことに反対する者たちが現れます。」

「うーむ・・・、どうにかしてこの少年にサンフラワーの宣伝をさせないようにしないとな。新田、この少年について調べてくるんだ。」

「はい、了解しました。」

そして新田は頭山とうやまという知り合いの探偵たんていに、少年のことについて調査するように依頼いらいした。そして三日後、新田は頭山と一緒に将矢のところにきて、調査の結果を報告した。

「あの少年の名前は、天星イーサンといって、動画でご覧の通りマジックがとくいです。そしてイーサンは、毎週土曜日にサンフラワーでマジックショーをしています。」

「イーサン・・・、その少年は外国人か?」

「いいえ、日本とイギリスのハーフだそうです。こちらがイーサンのくわしい個人情報こじんじょうほうです。」

頭山は将矢にイーサンの情報が書かれた書類を渡した。

「なるほど、このイーサンは大島とつながりがあるようだ。それならイーサンをネタにおどせば、大島も好き勝手できなくなるということだな。」

「そうです、それでどうします?」

「いきなり誘拐ゆうかいするのはリスクが大きすぎます、こちらからゆさぶりをかけましょう。」

将矢は新田に紙とペンと封筒ふうとうを持ってくるように命令した、新田が言われたものを持ってくると、ペンで紙にこんな文章を書いた。

『私は再開発計画さいかいはつけいかくを進めている者です、あなたがサンフラワーを宣伝せんでんすることは再開発計画さいかいはつさまげになることです。ですからサンフラワーから、どうか手を引いてください。もしいやだというのなら、それなりの手段しゅだんをさせていただきます。親御おやごさんとよく話し合って決めてください。それからこの手紙を大島愛知殿おおしまあいちどのにお渡しください。』

そして将矢は紙を封筒に入れて、封筒を頭山に渡した。

「これをイーサンの家のポストに入れてくるんだ。」

頭山はすぐにイーサンの家に向かった。

「さて、これで向こうがじゃましてこなくなればいいんですけど・・・。」

「まあ、相手はたかが子どもだ。こわがってもうやらなくなるに決まっている。」

将矢はそう言うとほっとして、ソファーに深くこしかけた。












ぼくが学校から帰ってくると、蜜柑みかんに話があるからきてとリビングに呼び出されたんだ。

「母さん、話って何?」

「実はね、イーサンにはもうサンフラワーに行くことをやめてもらいたいの。」

ぼくはおどろきで言葉がでなかった、いつもならどんなことでもさせてくれた蜜柑がこんなことを言うなんて・・・。

「どうしてサンフラワーに行っちゃダメなの?」

「実はこんな手紙が家のポストに入っていたの、切手も消印もないからおそらくよくない手紙よ。」

蜜柑はぼくの前に封筒を出した、ぼくがふうとうの中身を取り出すとそこには、ぼくがサンフラワーに来ることを止めるようにという感じの手紙があったんだ。

「え、これどういうこと?しかも再開発計画さいかいはつけいかくとか意味がわからないよ。それに大島さんにも見せるようにってある・・・。」

「私もこの手紙の内容がどういうものなのかはわからないけど、必ずイーサンによくないことがおこるということはわかる。だからお願い、もうサンフラワーには行かないで。」

蜜柑はぼくに頭を下げた。

母さんの気持ちはわかるよ、ぼくを心配してくれているんだよね。

だけど・・・、ぼくはやっぱりサンフラワーを見捨てることはできない。

ぼくは手紙を封筒にしまうと、げんかんにむかった。

「どこ行くの?」

「大島さんのところに行ってくる。」

ぼくは家を出て、すぐに武田くんに電話で手紙のことを伝えると、大島さんの家にむかった。

大島さんの家につくと、友近ともちかさんがぼくの前に現れた。

「イーサンじゃない、そんなにあわててどうしたの?」

「今すぐに大島さんに会えないかな?見せたいものがあるんだ。」

「それってなにかしら?」

ぼくは友近さんに封筒を渡した、封筒を見た友近さんの顔色が変わった。

「この封筒、切手と消印がないわね。もしかして、イーサンの家のポストに入っていたの?」

「うん、お母さんが見つけたんだ。」

「わかった、すぐに大島さんに伝えるわ。」

ぼくと友近さんは大島さんのいる部屋に向かった、大島さんはコーヒーを飲みながらクッキーを食べていた。

「イーサン、今日はどうしたの?」

「大島さん、この封筒を見てください。」

友近さんは大島さんに封筒を差し出した。

「この封筒は何?」

「イーサンの家のポストに入っていたものです、切手と消印がないので直接ポストに入れたものです。」

大島さんは封筒を開けて手紙を読んだ、大島さんの顔は真剣になっていた。

「あいつら、ゆさぶりをかけてきたな。もしかすると、イーサンの身があぶないかもしれない。」

「うん、お母さんとても心配してた。」

「再開発計画と書いてあるから、まちがいなくあいつらだな。」

「ええ、まちがいありません。」

大島さんの言う「あいつら」ってなんのことだろう?

「ねえ、大島さんたちの知っているあいつらってなんなの?」

ぼくがたずねると大島さんは口を開いた。

「実は君たちに伝えることがあるんだ、わるいけどすぐにみんなを集めてくれ。」

「もう連絡したよ、もうすぐ来ます。」

「そうか、ありがとう。」

そしてそれから五分後に、みんなが大島さんの家にやってきた。

「イーサンから聞いてきたけど、脅迫状きょうはくじょうがきたのは本当か?」

ぼくは武田くんに手紙を渡した、みんなは手紙にくぎづけになった。

「書いてあることはていねいだが、確かに脅迫状きょうはくじょうだ。」

「イーサンがサンフラワーに来ることが迷惑だって、それはあんたらがサンフラワーを無くそうとしているからじゃないか。」

「この再開発計画というのがきになるな、これって一体なんだ?」

みんなは手紙を見て口々に言った。

「そのことについては、大島さんが説明してくれる。」

ぼくが大島さんのほうを見ると、大島さんはみんなに言った。

「実は私は友近たちと一緒に、藤代不動産についてくわしく調べていたんだ。そうしたら、サンフラワーがある辺りの土地で再開発計画があることをつきとめたんだ。それで再開発計画のために、藤代不動産は予定地に住んでいる人たちを立ち退かせようと画策かくさくしていたようなんだ。さらに私の人脈じんみゃくを使って知り合いにくわしくきいてみたところ、後藤文一ごとうふみかずという政治家が中心になって進めていることがわかったんだ。後藤はあの辺の土地が交通の便がいいことに目を付けて、再開発をしてビルやマンションを建てようとしているんだ。」

「でも再開発に、どうして藤代不動産は関係しているの?」

「藤代不動産は住民を立ち退かせた土地を事業者である後藤に売ることで、大儲けしようとしている。さらに公共事業だから仕事もたくさん入ってくる。」

「つまり二重に儲かるということか・・・。」

風間くんは納得した。

「でも元々あの辺に住んでいる人たちは再開発計画には反対していたんだ、それを藤代不動産は強引なやり方で説得したり立ち退かせてきたんだ。」

「それで三原さんは、再開発計画に反対していたの?」

「もちろん。むしろ再開発計画反対に力をそそいでいたんだ。」

それは当たり前の話だよ、自分の喫茶店を無くしたくはないもんね。

「無理矢理に住んでいる人を追い出して、その土地を売って儲けようなんて許せねえ。藤代不動産と後藤は、絶対にやっつけてやる!!」

神島くんはこぶしをにぎりしめた、ぼくも神島と同じ気持ちだよ。

「みんな、ぼくは絶対にサンフラワーでマジックショーをすることをやめない。たとえどんなことがあっても、みんなをアッとおどろかせて笑わせることをやめないよ。だからおねがい、ぼくに力を貸して!!」

ぼくはみんなに頭を下げた。

するとぼくのトランプが青く光り出した、しかもこれまでにはない強い光を放っている。

「なに、この光は・・・!」

「うわあ、なにこれ!」

「イーサン、一体どうなっているの!!」

「これは・・・、パワー・ストームの力によるものなのか?」

『どうやらそなたの決意けついに、あいつが強く反応しているようだ。』

「あいつってだれ?」

『パワー・ストームの力の根源こんげんとなる存在、パワーマジンだ。一番上のカードをドローするがいい。』

ぼくはトランプからカードをドローした、するとカードからとてつもなくすごい力があふれてきて、目の前に巨人のようなものが現れた。

『パワー・ストームに選ばれし者よ、そなたの正義と信念に強く心を打たれた。そこで正義せいぎ信念しんねんを強くするためにわれの力をほしくはないか?力を手にすれば、よりパワー・ストームの力を思いのままに使いこなすことができるようになる。さあ、力をえるかどうかはそなたしだいだ。』

ぼくは・・・まよわなかった。

ぼくは一度決めたことをあきらめたくない、その気持ちがあってここまできたんだ。

ぼくはみんなと大島さんの顔を見た、だれもがぼくが力を得てもいいよという顔をしている。

「イーサン、力をるんだ。君はもっとすごくなれるんだ、こんなチャンスをのがしてはいけない。」

「そうだ、もっとすごくなれよ!!」

「そうだよ、わたしたちとみんなのためにも、この力をもらうべきだよ。」

「そしてぼくたちとみんなに、もっとおもしろいショーを見せてよ。」

「イーサン、ここで引いたら男じゃねえよ。」

「イーサン、ぼくからもお願いします。」

ぼくはみんなの言葉にせなかをおされて、パワーマジンの前に立った。

「ぼくは力がほしい、ぼくのため・・・そしてみんなのために!」

『よかろう、そなたの体と心にわが力を!』

パワーマジンはぼくに力をながしこんだ、強力な力が体じゅうをかけめぐり、とてもくるしい・・・。

「うう・・・、負けるもんか!!」

ぼくは負けなかった、そして力は体じゅうにしみこんで、ぼくに力があふれてきた。

『これでわれの力をえることができた。これからの活躍を楽しみにしているぞ。』

そしてパワーマジンはすがたを消した。

ぼくがえた新しい力・・・、ぼくはこれからこの力を使っていくことに、とてもわくわくしたんだ。














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