第9話ドラゴンズ・マジック

サンフラワーを出たぼくは、城ヶ崎さんに呼び止められた。

「ちょっと、いいか?」

「どうしたの城ヶ崎さん?」

「やはりあの御堂という男、どうもあやしいんだ。おれだけしゃなくてドラゴンもそう感じている。」

「えっ、ドラゴンも?」

『いかにも、その通りだ。』

城ヶ崎さんのドラゴンが現れた。

『われは人の心を少しだけだか読むことができる、あの御堂とかいう男からどうもよくない気配を感じる。これは近いうちになにかやらかすかもしれない。』

「近いうちって、いつなの?」

『一週間以内、もしかしたら今日かもしれない。』

「ドラゴンのこういう予言は、なぜかよく当たるんだよ。だからなにか対策をしたほうがいいんじゃないか?」

「なるほど、それじゃあ今日から監視してみるか。」

そう言った大島さんの行動は、とても早かった。

すぐにカメラを用意して、サンフラワーの内部ないぶにしかけて、監視をはじめたんだ。

そしたらドラゴンの言うとおり、御堂さんがサンフラワーの中に入ってきたんだ。しかも冷蔵庫の中を物色ぶっしょくしていたから、これで御堂さんはあやしい人になった。

そしてぼくは城ヶ崎さんと一緒にサンフラワーに入って、御堂さんを捕まえることができたんだ。

そして翌日、大島さんと三原さんが御堂さんを問い詰めたところ、御堂さんはこんなことを言ったんだ。

「実は私は御堂卓巳ではなく、三堂栄治というものです。私は藤代不動産で課長をしていまして、サンフラワーをつぶすためにバイトとして潜入して、妨害行為をしようとしました。でもしかたなかったんです!あなたたちにはわからないでしょうけど、この仕事にはわが社の社運がかかっているのです!この仕事を成功させなければ、会社は倒産し私は職を失ってしまうのです・・・。ですからなにがなんでも、成功させなければ・・。」

三堂さんが泣きながら言うと、大島さんは三堂さんのほっぺをたたいた。

「なにが社運がかかっているだ、なにが会社のためだ!あなたのしたことは、立派な犯罪だ。それにあんたのしたことが会社をたすけることになるとしても、会社はあんたを絶対に助けない。あんたは会社に捨てられたんだよ!」

大島さんは三堂さんに言った、でも三堂さんは納得しない。

「ウソだ!そんなわけない、私は会社のためにここまでやったんだ!」

「じゃあ、会社に電話してみろ。」

大島さんに言われた三堂さんは、藤代不動産へ電話した。

「もしもし、三堂です。新田係長をお願いします。」

『わかりました、代わりますね。』

少しして係長が電話に出た。

『もしもし、三堂か?』

「はい、実は計画は失敗してしまいまして、今大島さんと話しているんです。そこで係長に・・・」

『わかった。』

電話は突然切られた。

「係長?係長!」

三堂はうろたえだした。

三堂さんはもう一度電話したが、係長どころかだれも電話に出なかった。

三堂さんは、ショックで言葉が出なかった。

「そんな・・・、私は本当に会社から捨てられたというのか・・・。それじゃあ、私がしたことは一体・・・。」

それから三堂さんは泣き出してしまった。

「三堂さん、あんたのやろうとしたことは許されないことだ。だが幸いにも、イーサンと城ヶ崎さんが止めてくれたから、罪をおかさずにすんだ。だからあんたには、罪滅つみほろぼしをしてもらう。」

「罪滅ぼし・・・?」

「あんたには、このサンフラワーの経営に協力してもらう。それであんたはこれまでの贖罪しょくざいができる。もしことわるのなら、今ここで警察を呼ぶ。さあ、あんたはどうする?」

大島さんがたずねると、三堂さんは「サンフラワーに協力する」と言った。

こうして三原さんと三堂さんは、たがいに仲直りしたんだ。








ぼくは翌日、このいきさつをみんなに話したんだ。

「まさかスパイを送り込むなんて、敵もかなりやるなあ・・・。」

「敵もそうだけど、もっとすごいのは大島さんだよ。」

「そうよ、敵を味方にしてしまうなんてすごいわ。」

「やっぱり大島さんはすごいや、イーサンですらかなわないよ。」

「みんな大島さんに感心している場合じゃないよ、これから敵はもっときたない手でくるかもしれない。」

「そうですよ。大島さんだけじゃなくて、私たちでも対策しましょうよ。」

藤宮さんに言われてぼくたちはうなずいた、大島さんばかりに頼っていられない。

「それで、どうやって対策する?」

「おそらく敵は喫茶店の経営許可証とか、土地の利権証なんかを狙うんじゃないか?そうすれば、三原さんは喫茶店を続けられなくなってしまう。」

「なるほど、それじゃあ盗まれないようにしないとな。」

「それじゃあ、ぼくたちで金庫を作ろうよ。」

「金庫か、いいな。それはおれにまかせてくれ。」

風間くんが言った。

「よし、風間くんには金庫作りをしてもらおう。いいのを期待しているよ。」

「イーサン、おれから言いたいことがあるけどいいか?」

神島くんがぼくに言った。

「おれとしては、敵から守ってばかりいるんじゃなくて、戦いを挑むべきだと思うんだ。その方がすぐに解決するだろ?」

「なるほど、確かに守り続けられないもんね。それじゃあ、ぼくたちで藤代不動産をやっつけよう!」

ぼくたちは、「ブンガブンガ!」と合い言葉を言った。

「それで、どうやってやっつける?」

「たとえばあの会社に幽霊ゆうれいをだして、社員たちをおどかしてやるんだ。」

「幽霊か・・・、その幽霊はぼくたちでやるんだね。」

「ああ、それでみんながうわさしだしたところへ、ネタを流すんだ。『あの会社で昔、自殺した人がな会社の中をさまよいあるいている。』というのを。」

「なるほど、それはおもしろいね。」

「おどかすよりも、強行きょうこう手段しゅだんに出た方がいいと思う。」

風間くんが言った。

「それって、一体何?」

「藤代不動産の悪事あくじ証拠しょうこを手に入れるんだ。おそらくあの辺りの土地に住んでいる人たちを立ち退かせるために、あの手この手でやってきたと思う。それをぼくたちでつかんで、警察にうったえればサンフラワーはもう大丈夫だ。」

「さすが風間くんね、それじゃあ聞き込みはまかせて。」

斎藤さんが胸をたたいた。

「それならぼくも行く!」

文道くんもやる気満々だ、だけど文道くんにはちょっとお願いがあるんだよね。

「文道くん、君にお願いがあるんだけどいい?」

「なに、イーサン?」

ぼくは文道くんに、ほしいものが書かれたメモを渡した。

「このメモに書かれてあるものを手に入れてほしいんだ。」

「いいよ、でも売ってあれば買うことになるけどいい?」

「もちろん。」

文道くんはぼくからもらったメモをポケットにしまった。

「イーサン、文道になにをたのんだんだ?」

武田くんが質問した。

「藤代不動産をやっつけるときには必要なものだよ。」

武田くんは納得した。

するとぼくの頭に、最高のアイデアが浮かんだ。

「あ!いいこと、思いついた!」

「どうしたんだ!?イーサン!!」

みんながいっせいにぼくの顔を見た。

「このトランプを使って、あいつらをおどろかせるんだ!!」

「え?このトランプって、イーサンが大切にしているトランプだよね。まさか、あいつらにマジックでも見せるの?」

斎藤さんがぼくをおかしそうな顔で見つめた。

「そうか!!イーサンのトランプには、パワー・ストームの力が入っているんだ!」

神島くんが言うと、斎藤さんと藤宮さんと松岡くんは「パワー・ストーム?」と首をかしげた。そういえば、三人にはまだ言っていなかったね・・・。

「実はこの間、こんなことがあったんだ。」

ぼくは三人に、パワー・ストームとの出会いとサンフラワーでやった最初のマジックのタネについて説明した。

「そんな力があるなんて信じられないよ、ていうかなんで教えてくれなかったの?」

「そうですよ、あの時のミルクセーキのマジックに使われていたなんておどろきです!」

「それにあの時の騎士もパワー・ストームの力によるものなんて・・・、どれだけすごい力なんだ・・・。」

三人はとてもおどろいた顔をしていた、やっぱりはじめのうちはみんなおどろくよね。

「言わなくてごめんなさい、だけどパワー・ストームの力は本物なんだ。なんなら今ここで、見せてあげるよ。」

ぼくはすこし得意げにトランプを見せて、カードを一枚ドローした。

「スペードの5・・・、パワー・ストームソードウォーリア!!」

ぼくがドローしたカードをかかげると、大きな剣を持った戦士が現れた。

「おおー!!かっけえ!!」

文道君が大声でさけんだ。

「うそでしょ・・・、なんか戦士みたいなのが現れたんだけど・・・!!」

「さらにこんなこともできるよ!!」

今度は自分で一枚カードを選んだ、それはクローバーの4のカードだ。

そして教室中にいやしのかぜした。

「うわあ・・・、とても気持ちい。」

「こんなに気持ちよくなったのはじめてだわ・・・。」

「本当に気持ちいい・・・、いろんなことができるんだね。」

みんなはパワー・ストームの力に夢中むちゅうになったようだ。

「みんな見たように、パワー・ストームの力はいろんなことができる力なんだ。だけどそれとはぎゃくに、これはとてもこわい力でもあるんだ。もし使い方をまちがえたら、ぼくやみんなが死んでしまうことだってあるんだ・・・。」

ぼくが言うと、みんなは心配した表情になった。

「イーサンは不安じゃないのですか、こんな力を持つことに?」

藤宮さんが質問した。

「もちろん不安だよ、だけどぼくはこの力を持ち続けることに決めたんだ。だってこの力があれば、ぼくの理想である『マジックとイタズラで、世の中をアッとおどろかせる』がかなうんだ。だからぼくはパワー・ストームの力を使う。」

ぼくはみんなに堂々と言った、するとみんなは拍手してくれたんだ。

「よく言った、イーサン!!」

「これほど決意をかためているのなら、おれからなにも言う事はない。」

「それに、イーサンがよりおもしろくなりそうな気がするし。」

「うんうん!すげえよ、イーサン!!」

「イーサン、これからもよろしくな。」

「いろんなマジック、とても楽しみです!」

「パワー・ストームの力を手に入れても、イーサンはイーサンだよ。」

みんなぼくを受け入れてくれた、こんな仲間を持ててぼくはとても幸せだ。

『ほう、みんなに受け入れられたか。それはとてもいいことだ。』

とつぜん、パワー・ストームの声がきこえた。

「なんだ、この声は?」

「あれ?みんな、聞こえているの?」

ぼくがみんなにきくと、全員うなずいた。

『イーサン、みんなにもわがはいの力をあたえるのだ。あのマジックを、もっとおもしろくできるぞ。』

「みんなにも・・・、大丈夫かな?」

ぼくは不安になった。

「え、パワーストームの力をもらえるの!それはぜひほしい!」

「私も!もしかしたら、城ヶ崎さんにリベンジできるかもしれないし。」

文道くんと斎藤さんは、すっかり乗り気になっている。

「大丈夫かしら・・・?」

「そんな力、おれがつかいこなせるのか?」

藤宮さんと風間くんは不安そうだ。

「大丈夫だよ、ぼくが監督かんとくするから。」

みんなはそれで納得した。

「よし、それじゃあみんなで例のマジックについて、話し合おう。」

そしてぼくたちは、マジックについてとことん話し合った。」







そして土曜日、いよいよ例のマジックが披露ひろうされる時がきた。

サンフラワーのバックヤードには、ぼくたちと城ヶ崎さんがすでに合流していた。

「イーサン、どうしてみんながいるんだ?今日のマジックはおれとイーサンだけでやる予定じゃないのか?」

「ごめんね。みんなでやったほうが、もっとおもしろくできると思ったんだよ。それに今回はパワーストームの力も使うことにしたんだよ。」

「あの力を使うのか!?そんなことして、みんながどうなってもおれは知らないぞ。」

「大丈夫、みんなわかっているから。」

みんながうなずくと、城ヶ崎さんはなにも言わなかった。

「それじゃあ、マジックの段取りは今のままでいいのか?」

「うん。それじゃあ、行こう!」

そしてぼくと城ヶ崎さんは、バックヤードを出て会場へ向かった。

サンフラワーの店内は、ぼくと城ヶ崎さんのマジックショーの話を聞きつけて、多くの人たちが来たんだ。さらに大島さんがテレビ局にも話して、番組でとりあげられることになったんだ。満員御礼まんいんおんれいでうれしいけど、緊張するなあ・・・。

だけど、サンフラワーのためにも成功させないと!

「みなさん、今日はサンフラワーに来てくれてありがとう!来てくれたみんなは、とてもラッキー!なんと、今回はあの城ヶ崎竜也さんがゲストで来てくれました!それでは、城ヶ崎さんどうぞ!」

ぼくに呼ばれて、城ヶ崎さんが現れた。

城ヶ崎竜也じょうがざきりゅうやです、マジックは素人しろうとですが全力でがんばりますので、よろしくおねがいします。」

「さあ、それではマジックといきましょう!まずは、つるぎのマジックです!」

神島くんと文道くんが大きな箱を運んできた、その箱の中に城ヶ崎さんが入った。

「さあ、今からこの箱に剣をさしていきます。果たして、城ヶ崎さんの運命やいかに!」

この剣はダイヤの2のカードでできたもので、自分の思い通りの剣になれるんだ。だからぼくは体をすり抜ける剣を生み出したんだ、そうすれば城ヶ崎さんの体にささったようにみえて、城ヶ崎さんは無事でいられるからね。

ぼくと神島くんと文道くんは剣を箱にさしていった、お客さんたちはヒヤヒヤした顔で見守っている。

「さあ、箱の中の城ヶ崎さんは無事なのでしょうか・・・。」

ぼくがゆっくりと箱をあけると、城ヶ崎さんは平然とした顔で箱から出てきた。

「なんと!!城ヶ崎さんは無事です!!ドラゴンキングは、ミラクルを起こしました!!」

お客さんたちは大きな拍手をした、でもお楽しみはまだまだここからだよ。

「さあ続いては、綱引つなひきのマジックです。これからぼくと城ヶ崎で綱引きをするのですが、みなさんはどっちが勝つと思いますか?」

お客さんたちは口々に、「そりゃ、城ヶ崎さんだろ?」と言った。

「ですよね、それじゃあこのロープを使って実際にやってみましょう!」

このロープもダイヤの2のカードで生み出したもので、力の弱い方に逆転の力をあたえるんだ。

ぼくと城ヶ崎さんは互いにロープのはしを持って引っ張りあった、そしてぼくのほうに力がみなぎってくるのを感じた。

「ふんーーっ・・・・ふんーーーっ!!」

ぼくは思いっきりロープを引っぱった。城ヶ崎さんは必死に引っぱったけど、ぼくにはかなわなかった。

「ありゃりゃ、なんとぼくが勝っちゃいました!これはまさにキセキです!!」

お客さんたちは信じられない顔をした。ふふふ、いい顔してる・・・。

「さて次は火が出るマジックです。このマジックで、城ヶ崎さんをドラゴンにしたいと思います。」

このマジックにはハートの6のカードを使う、これはほのおかみなり吹雪ふぶきといろんな現象を引き起こすことができるんだ。使うのは武田くんで、かくれてスタンバイしている。

「今からこのたいまつに火をつけます、火をつけるのは城ヶ崎さんですがマッチやライターは使いません!なんと息を吹きかけるだけで火をつけてみせます!」

みんなは城ヶ崎さんの方を見て、そわそわしている。

城ヶ崎さんがたいまつを持って息をふきかける、このタイミングで武田くんがカードを発動させた。するとたいまつから炎が燃え上がった。

「わお!!城ヶ崎さんが息を吹きかけると炎がでました、まるでドラゴンです!!」

お客さんたちは、大きなはくしゅをした。

「さあ、いよいよフィナーレとやってまいりました。最後のマジックは、城ヶ崎さんがぼくを助けるマジックです!!」

そしてぼくはポケットから手錠てじょうを取り出すと、自分のうでに手錠をはめた。

「さあ、これでぼくは動けません。そしてあの箱を見てください。」

お客さんたちは、斎藤さんの持ってきた箱を見た。

「この箱の中には手錠のカギが入っています、でもこの箱は特別とくべつな仕組みでふたが固く、そう簡単には開きません。でも、ドラゴンキングの怪力なら開けられるはずです。それでは城ヶ崎さん、お願いします!」

「よし、それじゃあ行くぞ!!」

城ヶ崎さんは力をいれて箱を開けようとした、その箱はたいていの大人でも開けられない箱なんだ。だけど城ヶ崎さんは怪力でなんなく開けてしまった。

そして中からカギを取り出して、ぼくの手錠のカギを開いた。

「やりました!!城ヶ崎さんが、箱を開けてぼくの手錠を開けてくれました!みなさん、城ヶ崎さんに大きな拍手を!!」

お客さんたちはぼくたちにむけて大きな拍手をした、そしてここで武田くんたちがカードを発動させた。

そのカードはみんなが同時に発動することで、この会場をカラフルな光でかざることができるんだ。

光り輝く会場にお客さんたちもぼくも城ヶ崎さんもみんなも、思わずみとれていた。

城ヶ崎さんとのマジックは大成功に終わった、今までの中でとてもいいマジックだった。













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