第5話ドラゴンと新米先生
おれは
これは俺が小学四年の時の話、救いようのない
物語を語る前に、小学一年から小学三年までのおれについて言っておこう。
おれを待っていたのは、おれが「本当の両親がいないやつ」だという理由で、おれにおそいかかる悪口の数々。
おれはたえられなくなって、はじめは城ヶ崎夫妻に相談した。そして城ヶ崎夫妻は学校に話して解決しようとしてくれたが、悪口がなくなることはなく、逆に勢いをますばかりだった。
そしておれはドラゴンに言われて、気が付いた。
「自分の
だからおれは格闘技を自分で学んでいった。
そして悪口を言う生徒や、それをかばいおれをしかる教師を、かたっぱしからたおしていった。
そしておれは生徒や教師からきらわれていった。
でもそれでいい、悪口を言われるよりはよかった。
だけど多かれ少なかれ悪口は続いた、そしておれは心の中に不満をつのらせていった。
そして小学三年の時、
おれは合唱の練習中に、両どなりの生徒から足をふまれたり、「お前のせいで、やり直しになった」と悪口を言われたりと、いやなことをされ続けた。
そこまでおれがいやなら、もっといやなことをしてやると、おれは合唱会を
おれが目をつけたのは体育館のグランドピアノだ、あれさえどうにかすればいい。
そしておれはグランドピアノの中に水を入れた、こうすればピアノがこわれてしまうと聞いたが、あの時は本当にそうなるのか
だがグランドピアノはこわれてしまい、結果的に合唱会は中止になった。
そしてすぐにおれは「自分がやった」と名乗り出た。当然、教師たちと城ヶ崎夫妻は
そして小学四年になったら、
そして特別教室での最初の日、俺は三原と出会った。
「四年一組の担任となった、
「はじめまして、三原です!!城ヶ崎くん、これから一年間がんばろう!!」
「なんだこいつ・・・」
「おい!!こいつとは失礼だぞ!!本当の担任の先生だからな、仲良くしろよ。」
本当の担任というのは、クラス上では俺が四年一組の生徒だからだ。
国語・算数・理科・社会の授業の場合、俺は特別教室で
鬼頭は
力が通じない俺はどうしようもなく、鬼頭の言うことには従うことにした。
そしてそれ以外の授業は、三原が教えることになっていたからだ。
「城ヶ崎君、君はとんでもない
「三原さん、油断はいけません。今におそろしいのはここからです。」
鬼頭が三原に耳打ちした。まあ、これくらいおそれられていることはわかっていた。
三原の教え方は、スパルタで
たとえば体育の授業中に大声で生徒たちを応援していたし、三原のクラスでは一日ごとに小さな目標を立てていた。
「生徒たちよ、みんなが集まれば何でもできる!!これから一年間、クラス一丸となってがんばろう!!」
一番初めの授業で、三原は四年一組の生徒全員に言った。
しかし四年一組の生徒には、一年生のころから俺をいじめていた生徒が多くいて、そいつらからすれば三原の発言は
俺が授業を受けに来る体育・音楽・図工の授業は、みんなおれをにらんでいた。
「なんだよ、やっとドラゴンをこわがらなくてもいいと思っていたのに・・・。」
「ドラゴンはおりの中に入っていればいいんだ。」
予想通りの言葉がおれの耳の中に入ってきた。
そして授業中は本当に一人だった、グループ分けされても俺はメンバーとして受けいられなかった。
こういうことは小学校に入学したときからあったが、これまでの担任は改善することができなかった。
しかし三原はちがった、おれをさけるクラスメイトの態度に三原はおこった。
「お前ら!!なんで城ヶ崎くんを無視するんだ!?彼はらんぼうなとこがあるかもしれないが、それでも四年一組の生徒じゃないか。彼がらんぼうだからって、みんなで仲間外れにするのは、人として恥ずかしいことだ!!」
「じゃあ、先生はドラゴンになぐられても平気なんですか?」
一人の生徒がぬけぬけと手をあげていった。
やつの名前は
「もちろんなぐられたら痛いさ、だけどそうだからって悪口を言っていいわけじゃないんだよ。なぐるほうも悪口を言うほうも悪い、だからたがいに仲直りして仲良くしていこうじゃないか。」
「だから、おれたちはドラゴンと仲直りするつもりはねえんだよ。なあ?」
獄山が後ろを向きながら言うと、おれ以外のクラスメイトの大半がうなずいた。
「そうか、そんなに城ヶ崎君がきらいなんだな。よし、それじゃあこのクラスの一年間の目標に『城ヶ崎君となかよくしよう』を追加する。」
「はあ!?なんだよ、それ!!」
多くのクラスメイトが三原に文句やブーイングをぶつけた、だが三原は自分の意志を変えることはなかった。
「城ヶ崎君、きみもみんなと仲良くしてみたらどうだろう?無理することはない、一歩ずつ進んでいけば、必ずみんなと仲良くなれるよ。」
三原はおれにすすめてきた、しかしおれは三原の言うことを無視して、席から立ち上がった。
「おれは、べつに仲良くしなくてもいい。おれは一人のままでいいから、おれにかまわないでくれ。じゃあ、おれはもどっているから。」
おれは特別教室にむかって歩きだした。
「待って、城ヶ崎君!!」
「いいぞ、ドラゴンはろうやでおねんねしてろ!!」
「出てけ、出てけ、さっさと出てけ!!」
引き止めようとする三原と獄山たちの悪口を背に、おれは特別教室をめざしてかけだした。
それから三原はおれとクラスメイトを仲良くしようと、力をつくした。
しかしおれもクラスメイトも、たがいに歩みよるつもりはなかった。
「城ヶ崎君、君もみんなに声をかけなきゃダメじゃないか!」
「・・・・・」
「まあ、そんなにきつく言う必要はないでしょう。無理矢理仲良くなっても意味がないでしょう。」
「鬼頭先生、なんてこと言っているんですか!!みんなとなかよくなれば、彼にとって成長できるいいきっかけになります!」
「しかし、
鬼頭までもがおれを問題児と言っている。
それがおれなのだ、だれとも仲良くなれることをゆるされず、ただ一人でまわりとたたかうことを決められた
それでいい、それがドラゴンとして生きるおれなのだから。
そしてある日、おれは三原に心をよせる日が来る。
その日は遠足が行われていた、おれは決められた
そしてその班には、あの獄山がいた。
おれと獄山はたがいに三原に抗議したが、三原が変更することはなかった。
遠足の行き先は忘れたが、自然が多いところはまちがいない。
そして班のクラスメイトできゅうけいしていた時だった、獄山はおれの荷物が入ったリュックサックを
「あ!!お前ーっ!!」
「やーい、お前のにもつがふっとんだ!!」
獄山たちがふざけながら言った、おれは茂みの向こうに行って荷物を持った。
そしてもといた場所に戻ると、獄山たちの姿はなかった。
そうか・・・、あいつら始めからおれを置き去りにするつもりだったんだな。
おれはこの時、両親に置き去りにされたことを思い出した。
おれなんていないほうがいい・・・。
俺はそう思いながら、その場から動かなかった。
しばらくしていると空がくもりだし、そして雨がふってきた。
おれは山の中にいたときのことを思い出し、雨宿りする場所をさがそうとしたときだった。
「城ヶ崎君!!大丈夫か!!」
三原がおれのところへかけつけた。
「三原・・・。」
「ずぶぬれじゃないか、さあみんなのところへ行こう。」
おれが何か言う前に、三原は俺の手をつかんで歩きだした。
「おれは自分で帰れる、だからほっといてくれ。」
「そんなこと言うな、私にはお前が必要なんだ。お前をいじめから解放して、明るく学校へ行けるようにするのが私の使命なんだ。」
「そんなの無理だよ・・・、おれの親父もおふくろもがんばったけど、できなかったんだから。」
「それじゃあ、城ヶ崎君はみんなにいじめられ続ける今のままがいいの?」
「それはいやだけどさ・・・。」
「だったら私にまかせてくれ、私が城ヶ崎君を救ってあげる。」
三原はやさしく言った、その言葉がおれの心にしみていく・・・。
すなおに受け取るのはいやだったが、おれを必要としてくれることにおれはうれしくなった。
そしてその後、おれは無事に家に帰ることができた。
それから三原はおれのために力をつくしてくれた。
クラスメイトや先生たちに「どうか城ヶ崎君を信じてほしい」とうったえた。
だがおれとクラスメイトたちや先生たちとの
四年一組の生徒たちは全員、三原をシカトしている。
そしてそのことが教頭と校長の耳に入り、三原はきつく注意された。
だけど三原はなにがあってもくじけずにがんばった、そのかいあって鬼頭だけはおれを悪く言わなくなった。
「城ヶ崎君、私も君の味方だ。これまで君をさけていたことをゆるしてほしい。」
鬼頭は珍しく深く頭を下げた、おれはとりあえず「いいよ」とだけ言った。
そしてそれから月日がすぎて、この年の合唱会が行われる日が近づいてきた。
そしてある日、校長先生と教頭先生がめずらしく特別教室へやってきた。
「やあ、城ヶ崎君。元気かい?」
校長はインチキくさい笑顔で言った、おれはムカついた。
「元気です。何しにきたんだ、ジジイ?」
教頭先生がおこったが、校長先生がすぐになだめた。
そしてふたたびおれの方を見ると、真剣な顔になった。
「もうすぐ合唱会があることはわかるな?」
「ああ、もちろん」
「去年、君がピアノをこわしてくれたおかげで、合唱会が台無しになったことを、忘れていないだろうな?」
校長がにくしみの視線でおれを見た。
「ああ、覚えているさ。みんながおれをバカにするから、こうなったんだ」
「思い上がるな!!お前は今年から合唱会への参加を禁止する!!」
校長はおれを指さしながら言った。
おれには不満なんてなかった、三年生まで合唱会の練習では嫌がらせをうけてきたし、そもそも合唱会のような集団でやることそのものが嫌いだ。
「ああ、わかった。」
「なにも思わないないのか?」
「先に嫌な目にあったのはおれだ、それをさせないためにピアノをこわしたんだ。だからおれは合唱会に出ずにすんでよかったと思っている。」
「嫌がらせがあったにせよ、君は許されないことをした。それを忘れるな」
校長先生はおれにかっこうをつけて言うと、教頭先生と一緒に特別教室から出た。
そして合唱会にむけて多くの生徒が練習する中、おれは特別教室で自習していた。
「城ヶ崎君!!」
そこへ乱暴に扉を開けて三原が教室へ入ってきた。
「こんなところで勉強していないで、みんなと合唱会の練習をしよう」
三原は明るい口調で言った、しかしおれは無視した。
「さあ、音楽室へ行こう!!」
「行きたくねえよ、あんなとこ・・・。」
「一人で勉強しているよりも、みんなで歌った方が楽しいよ!!」
「おれは自習がいいんだ!!おれもあいつらもその方がいいんだ!!」
おれは強く言った、でも三原も強く言った。
「たがいにさけていてはダメなんだ!!君が去年の合唱会を中止にさせてしまったのなら、今年の合唱会を助けなければならない義務がある。一人はみんなのために、みんなは一人のためにだ。」
「・・・これは使命なのか?」
おれは三原にたずねた。
命令されるのはいやだが、使命はやらなければならない・・・。
それは親父から教えられた教訓だ。
「ああ、そうだ。」
おれはだまって三原についていった。
おれと三原が音楽室に入ると、クラスメイト全員がおれに悪口をあびせた。
「城ヶ崎、なにのこのこ出てきてんだ!!」
「そうだそうだ!!出ていけ!!」
おれはみんなにむけて、大声で言った。
「お前ら!!おれは去年、ピアノをこわした。そのことはおれもおまえらも知っている。それな今年はおれが、合唱会に参加してみんなのためにがんばる!どんなに悪口を言われてもかまわない、だからおれにも合唱会で歌わせてほしい。」
おれは深く頭を下げた、三原が続けて言った。
「城ヶ崎君は覚悟を決めてみんなと合唱会に出ることを決めた。だからこれまでのことは置いといて、城ヶ崎君もみんなの仲間にしてくれないか?」
突然、頭の上に強い力がかかって俺の顔とゆかがぶつかった。
「どんなに悪口を言っても文句はないんだよな?だったらこれくらいされてもいいよな?」
頭の上で獄山の声がした、どうやら頭をふまれたようだ。
おれは獄山を下からにらむことしかできない、クラスメイトたちはおれの頭をふみつける獄山を、
「何しているんだ、おまえ!!」
三原は
そこからはもう何がどうなったのか、言葉では言えなかった。
そしておれは獄山と三原と一緒に、校長室に連れて行かれた。
「城ヶ崎君、君は去年やったことを覚えていながら、なぜ合唱会に参加したんだ!」
校長先生はのっけからおれをどなりつけた、おれは理由を言った。
「最初は行きたくなかったけど、三原に説得されて合唱会に参加することにしました。」
「本当なのか、三原?」
校長先生は三原の方を見た、三原は言った。
「城ヶ崎君の言った通りです、私が練習にさそいました。城ヶ崎君はなにも悪くありません、城ヶ崎君の頭をふみつけた獄山君が悪いです!!こんな暴力はゆるされません」
三原は悪びれもせずに言った、たいして獄山はそっぽを向きながら何も言わない。
「獄山、三原の言ったことにまちがいはないか?」
「まちがいないです・・・。」
「獄山、城ヶ崎にあやまりなさい。」
獄山は仕方なくという感じで、「ごめんなさい」とあやまった。おれも仕方なく「いいよ」とゆるした。
「そして城ヶ崎、今回はゆるすが、もう一度合唱会の練習に出たら、ゆるさないからな。」
校長先生はおれに強く念をおした。
「はい、わかりました。」
「どうしてそうなんですか・・・?どうして城ヶ崎君が合唱会に出てはダメなんですか!!」
三原は校長先生の前に出て、問い詰めた。
「それは去年のことがあるからだ、君も知っているはずだろう?」
「確かに知っていますが、もうすんだことです!いつまでも根に持って、彼を参加させないのはおろかなことです!!」
「君はふだんから城ヶ崎をひいきにしているそうだが、そんなことをしていると調子に乗って何をしでかすかわからないぞ!!」
「ひいきにはしていない、みんなと一緒に授業できるようにしてあげているんです!!」
「獄山、城ヶ崎。もう教室に戻りなさい、ここからは大人の話だ。」
おれと獄山は教頭先生にうながされて、校長室から出た。
校長先生と討論を続ける三原・・・、それがおれの見た最後の姿だった。
それから三原は学校に来なくなり、数日後には合唱会が行われたが、その日おれは鬼頭と一緒に特別教室で自習していた。
「そういえば言っておくことがあった、三原が今日で学校をやめるそうだ。」
鬼頭はまえぶれもなく言った。
「え、本当か?」
「ああ、数日前に病気になったらしい。かなり重い病気で、入院が長くなるらしいんだ。」
「そうか、あいつにもう会えないんだ・・・。」
おれはおれのために声をかけてくれた三原のことを忘れない、だけど結局学校の環境が変わることがなかった・・・。
これがおれと三原との学校生活の思い出である。
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