第4話イーサンVSドラゴン

ゴールデンウイークが終わった日の放課後、僕たちは多目的室に集まってマジックの練習の後に、これからサンフラワーをどう盛り上げるかについて話し合うことにした。

「それじゃあみんな、何かアイデアがあったら言って。」

「はーい・・・。」

「斎藤さん、元気が無いね。」

斎藤さんはあの決闘のことで強志さんから怒られたことと、城ヶ崎さんに勝てなかったことで落ち込んでいる。

「あの、それでは私からいいですか?」

藤宮さんが手を上げた。

「どうぞ」

「やっぱりお客さんに来てもらうには、サービスが必要なんだと思うんです。そこでコーヒーやドリンクを注文するごとに、スタンプが増えるカードを作るのはどうでしょう?」

「それって、ポイントカードということか?」

「はい、それでスタンプがたまったらコーヒーかドリンクが一杯無料になるというのはどうでしょう?」

「それはいいね、また通いたくなるよ。」

「じゃあ、今度はおれの意見だ。おれはテイクアウトを始めた方がいい。」

武田くんが言った。

「え?持ち帰れるようにするの?」

「ああ、今どきテイクアウトや出前は需要じゅようがある。それにテイクアウトなら、ランチ目的で買いに来るお客さんをねらえるからな。」

「なるほど・・・、確かにそうだね。」

「でもさあ、飲み物はコーヒーが出せるからいいとして、食べ物はどうするんだよ?」

文道くんが質問した。

「そこはサンドイッチやハンバーガーみたいな、片手で食べられるものがいい。」

「すごい、さすが武田くん!!」

その後もみんなはいろんな意見を出してくれた、どれもおもしろくていいアイデアだよ。

それじゃあ僕もそろそろアイデアを話そう。

「僕はやっぱり城ヶ崎さんが必要だと思う、やっぱり人気のある人だし、三原さんのためにも協力してもらった方がいいよ。だから説得するために力を貸して!!」

僕は力強くみんなに言ったけど・・・、みんなは浮かない顔をしている。

そして神島くんが言った。

「わりぃ・・・、今回の話には参加できない。」

神島くんの声は暗かった、ふだん突っ張っていて前向きな神島くんからはありえない声だった。

「え?神島くん・・・」

「ごめん、僕も参加できない。」

「私も、ごめんなさい。」

神島くんにつづいて、文道くんと藤宮さんが言った。

「え!?なんで協力できないの?」

「イーサンも見ただろ、城ヶ崎さんを?あの圧倒的な体格と迫力、そしてあの斎藤さんをいとも簡単に倒したあの強さ、今までの大人とは明らかにちがう。おれたちが束になってかかっても、勝てない。」

「僕もそう思う、城ヶ崎さんはかっこいいけどこわいもん・・・。」

「私も・・・、自分の信念を曲げない感じがするので、正直説得はかなりむずかしいと思います。」

三人は戦意喪失せんいそうしつしているようだ。

確かに僕も城ヶ崎さんと出会ってから、なにか人ではない何かの気配を感じていた。

それは巨大で強大な力を持ったもの・・・、例えるのならドラゴンのような感じだ。

だけど僕はそれだからこそ、城ヶ崎さんが人気なんだと思う。

「でも、城ヶ崎さんは絶対必要だよ!!」

「別に城ヶ崎さんに頼らなくても、俺たちだけでやろうよ。」

武田くんが僕をなだめた。

「おれは武田の言うことに賛成だ、もしイーサンがどうしても城ヶ崎さんを説得するというのなら、勝手にやればいい。」

神島くんはそう言って、多目的室から出ていった。

「神島くん・・・。」

僕は神島くんに何も言えなかった。

その後も話し合いは続いて、そして僕たちは解散した。





そしてその日の午後七時、僕は大島さんに相談することした。

「もしもし、大島さん?」

「イーサン、こんな時間にどうしたの?」

「ちょっと相談したいことがあって、お話してもいいですか?」

「いいよ、相談ってなに?」

「城ヶ崎さんのことなんだけど、大島さんからして城ヶ崎さんはどんな人なの?」

「ああ、そのことね。私は面白いと思うよ、自分じゃわかってないけど彼は人をひきつける魅力があるんだ。」

「僕もそう思うよ。だけど三原さんのこと教えても、手を貸してくれなかった。」

「まあ、彼にとって先生は敵だっただからね・・・。」

「先生が敵って、どういうこと?」

「彼は小学生の頃から、『身寄りのない子ども』という理由だけで酷い差別やイジメを受けてきたんだ。そのせいで『身の回りの人全てが自分の敵』だという考え方になって、そして手の付けられないあばれんぼうどころかドラゴンみたいな怪物かいぶつになってしまった。自分をイジメる相手は暴力でやっつけて、先生にはだれであろうが反抗する。そして小学四年の時には、彼を完全に他の生徒から引きはなすために特別教室とくべつきょうしつに入れられたんだ。」

「そんなに乱暴らんぼうだったんだ・・・。」

総合格闘技そうごうかくとうぎを始めたのも、相手を力でねじふせて自分の力を思い知らせるためだといっていた。だから彼は戦いにしか関心がなく、孤高ここうを生きる男になってしまったんだ。」

「そうだったんだ、だけどどうして城ヶ崎さんは身寄りがなくなってしまったんだろう?」

「いや、身寄りがいないんじゃない。彼はすてられたんだ。」

「すてられた・・・?」

「ああ。彼が五歳ごさいの時に、両親から『ここで待っているように』って言われれて、そのまま山の中に置き去り。そして山の中で生きのびて二年後に城ヶ崎夫妻じょうがざきふさいが彼を発見し警察に届け出たんだが、彼は出生届しゅっしょうとどけを出されていなかったことがわかったんだ。」

「それどういうこと?」

「生まれてきたのに社会的には人としてみとめられないということだよ、だから竜也って名前は市役所に戸籍こせきを出す時に自分でつけた名前なんだって言ってたんだ。」

僕は城ヶ崎さんにそんな過去があったなんて知らなかった・・・。

両親に捨てられて、学校ではみんなにいじめられる毎日。もし僕が城ヶ崎さんだったら、だれも信用しない子どもになっていたに違いない。

「城ヶ崎さんはその過去をずっと背負いながら生きてきたんだ・・・。」

「そうだ、だけど私はそんな彼だからこそちがう生き方をして、生きるということを楽しくしたいと思うんだ。だから私は城ヶ崎さんを仲間にしようとしているんだ。」

「そうだよね、人生ってつらいことばかりじゃないもんね。僕も城ヶ崎さんにそれを教えたいよ。」

「だけど彼を説得するのは難しいぞ・・・。」

「でもなんとかやってみるよ、チャレンジあるのみだ!!」

「そうだね。それじゃあイーサンが彼を説得できることをいのっているよ。」

「それじゃあ、またね。」

僕は電話を切った。そしてどうすれば城ヶ崎さんを説得するのかを考えた。

『あの男を説得か・・・、それは無理な話だな。』

「パワー・ストーム、それはどういうこと?」

『あの男の印象を語る時、強大で巨大な何か・・・それはまるでドラゴンのようなものだと言ったな。』

「うん、出会った時の迫力と目つきのするどさは今もわすれずにおぼえているよ。」

『じゃあ、もしあの男の中に本物のドラゴンがいたとしたら・・・?』

「え!?本物のドラゴンだって・・・?」

『この私にははっきりと見えた、あの男の中に宿る大きなドラゴンの姿を。あの男はドラゴンを体内に宿している。斎藤との試合では使わなかったが、あの男はドラゴンの力を使うことができる。もし説得をしようとしても、ドラゴンの力を使われたら意味がないぞ。』

「それって本当なの?」

『ああ、そうだ。もしそれでもあの男に会いに行くというのなら、わがはいの力を使うがいい。』

「うん、ありがとう!僕は城ヶ崎さんを味方にしてみせるよ。」

僕は城ヶ崎さんを必ず味方にしてやるぞ!!











そして土曜日、僕は神島くんと松岡くんと一緒にサンフラワーでマジックショーをしに来た。

「いらっしゃい、みんな。」

「あ、姉ちゃん。」

きれいな若い女性が声をかけた、この人が松岡くんのお姉さん・月子つきこさん。

松岡くんからサンフラワーの話を聞いた時に、「自分たちの料理を試すいい機会だ」ということで、五人の仲間たちと一緒に協力してくれたんだ。

今では三原さんとアルバイトたちにコーヒー以外の飲み物の作り方と、いろんな料理の作り方を教えているんだ。

そして僕はバックヤードで着替えと準備をした。

「イーサン・・・、前日は失礼なことを言って悪かった。」

神島くんが僕にあやまった。

「あのことでしょ、気にしてないよ。」

「それで、イーサンは本気で城ヶ崎さんを味方にするのか?」

「うん、もちろんだよ。」

神島くんはそれ以上なにも言わなかった。

そしてマジックショーが始まろうとした時だった、入り口のドアがドンと大きな音を立てて開いた。

「おらあ、じゃまするぜ!!」

サンフラワーにやってきたのは、例の地上げ屋の三人組だった。

「三原さん、いつになったらこの喫茶店を手放してくれるんだ?」

この前と同じく、リーダーの男が三原さんに詰めよった。

「何度も言いましたが、私は決してこの店を手放すつもりはない。」

「んだとこらあ!!いつまでも悪あがきできると思ったら、大間違いだぞ!!」

「三原さんはこの喫茶店を手放すつもりはないよ。」

「ああ?何だこのガキ?」

僕はリーダーの男の前に出た、とてもこわいけど僕は勇気をもって男と顔を合わせた。

「こいつ、近ごろこの喫茶店でマジックショーをしているガキですよ。」

別の男がリーダーの男に言った。

「ふん!マジックショーだかなんだか知らないが、こんなうすぎたない店よりどこかよそでやれ。ここじゃそんなにお客来ないだろ?」

「確かにそうだけど、ここは僕が好きな喫茶店なんだ。だから僕はここでショーをしているんだ。」

「なんだと!!ガキがいっぱしなこと言いやがって!!」

リーダーの男が僕をなぐろうとこぶしをふりあげた時だった。

「ここか、三原のやっている喫茶店というのは。」

なんとドアが開いて城ヶ崎さんが入ってきた。

城ヶ崎さんは三人の男たちに言った。

「悪いが、その子どもに話がある。どいてくれ」

「何だお前・・・」

リーダーの男が城ヶ崎さんの方をにらんだが、城ヶ崎さんの迫力に押されて顔が青くなって黙り込んだ。

「どいてくれ」

「・・・チッ、行くぞお前ら。」

リーダーの男が舌打ちすると地上げ屋の三人組は、城ヶ崎さんから逃げるようにサンフラワーから出ていった。

「じょ・・・城ヶ崎くん」

「三原、悪いが今回はイーサンと二人で話がしたい。ここで一杯飲むのは、今度にさせてくれ。」

「城ヶ崎さん、僕に会いにきたの?」

「ああ、一緒に来てくれるか?」

僕はうなずくと、城ケ崎さんの後についていった。













僕は城ヶ崎さんと一緒にとある広場に来た。

「ここでならいいだろう。」

「ねえ、どうして僕に会ってくれたの?」

「今朝、大島から電話があった。しつこく言われたよ、イーサンに会って話をしてくれって。」

城ヶ崎さんは頭をかいた、僕は大島さんに感謝したい気持ちでいっぱいになった。

「それで、やっぱりサンフラワーに協力することはできないの?」

「ああ、何があっても協力は無理だ。」

やっぱり城ヶ崎さんはかたくなに言った。

『イーサン、トランプをドローするんだ。』

僕はパワー・ストームに言われた通りに、トランプを一枚ドローした。

ドローしたのはスペードのクイーン、そしてカードが光かがやいた。

女王クイーン心眼しんがんが発動された、さあ見えるぞ・・・。』

「なんだ、この光は・・・!!」

すると城ヶ崎さんの背後に巨大なシルエットが映しだされて、それはドラゴンになって僕の目の前に現れた。

「うそ・・・、パワー・ストームの言う通り、本当にドラゴンが現れた!!」

「え!?もしかして、おれのドラゴンが見えているのか?」

『ほう、われが見えるとはやるな少年』

ドラゴンが僕に顔を寄せながら言った。

「お前、パワー・ストームとか言っていたがそれは一体なんだ?」

『なんだと!!こやつ、パワー・ストームの力が使えるのか!!』

ドラゴンがとてもおどろいた声で言った。

「知っているのか、ドラゴン?」

『ああ、これは本来とてもおそろしい力なんだ・・・。人間だけではなく、われらドラゴンの体すらおびやかすおそろしきものだ。竜也、この少年をやっつけるぞ!!』

「ええ!!どうしてそうなるの!?」

『どうやら戦うしかないようだ、さあトランプをドローするんだ。』

僕はあわてていたが、言われた通りにトランプからカードをドローした。

「竜也さん、ドラゴンは止められないの?」

「ああ、どうやらドラゴンは本気のようだ・・・。」

申し訳なさそうに言いながら、竜也さんはみがまえた。

『いくぞ、少年!わがこぶしを受けるがいい!!』

ドラゴンにあやつられているかのように、城ヶ崎さんが僕に向かって攻撃をしてきた。

「クローバーの6、竜巻返たつまきがえしのかべ!!」

すると僕の前に風のバリアが現れて、城ヶ崎さんの攻撃をふせぐことができた。

そして城ヶ崎さんが強風でふっとばされた。

「くっ・・・、ドラゴンの力を使っているおれが・・・。」

「すごい・・・、本当に攻撃をふせぐことができた。」

『これしきのことであきらめんぞ!竜也、もっと攻撃するんだ!!』

城ヶ崎さんは僕にむかって何度も攻撃してきた、しかしバリアが攻撃をふせいでいるおかげで、僕はいたくともなんともない。

「大丈夫か、イーサン?」

「うん、何ともないよ。」

「だってさ、まだやるかドラゴン?」

城ヶ崎さんはドラゴンに言った。

『おのれ・・・、まるで手ごたえがない・・・。パワー・ストームめ、こんな少年を気に入るとは・・・。』

「気に入るって、どういうことだ?」

『パワー・ストームの力は身の破滅はめつをもたらす力、体に力がたまり続けるとその体がやがてパワー・ストームとなって、世界中にばらまかれてしまう・・・。だがごくまれにパワー・ストームに気に入られて、絶大な力を手に入れる者がいるという・・・。この少年のようにな』

「そうか、イーサンはパワー・ストームに気に入られたということか・・・。」

城ヶ崎さんとドラゴンは、僕の方をまじまじを見つめた。

『イーサン、相手がドラゴンを宿しているのなら、われらもドラゴンを召喚しょうかんしよう。』

ええ!!そんなゲームみたいなことができるの!?

「ああ、ハートの10のカードだ。」

それは僕の手元にあった、僕がそのカードを発動させると体がいたみだした。

「ううぅ・・・、どうなっているの?」

「ハートの10、代償召喚だいしょうしょうかん。そなたの体力とひきかえに、強力な下部しもべを召喚できる。本来、強力な下部を召喚するには格下かくしたの下部を生贄いけにえにささげなければならないがな。さあ、現れろ!!パワーストーム・クイックドラゴン!」

すると空に暗雲あううんが立ち込めて、そこに開いた穴からものすごく早い速度でドラゴンが降りてきた。

「キェェェェェーーーッ!!」

「本当に出てきた!!」

「なんだと!!」

『このドラゴン・・・、パワー・ストームが生み出したもだ。かなり強いぞ!!』

『さあ攻撃だ、パワーストーム・クイックドラゴン!!』

パワーストーム・クイックドラゴンが城ヶ崎さんめがけて突撃した。城ヶ崎さんはこぶしでうちかえそうとしたが、ね飛ばされてしまった。

「ガハッ!」

「城ヶ崎さん、大丈夫!?」

『ああ、わが力のおかげで大丈夫だ・・・。だが、我と竜也はもう戦えない・・。』

「うん、もう攻撃は止めるよ。」

そしてパワーストーム・クイックドラゴンは空へと飛び去っていった。

「・・・助かった。イーサンにはかなわんな・・・、あんたに強力するよ。」

城ヶ崎さんはよろよろ立ち上がりながら言った。

「ありがとう。でもその前に、城ヶ崎さんと三原さんのことについて教えてくれる?」

「ああ、いいよ。」

そして城ヶ崎さんは、自分と三原さんとのできごとについて語りだしたんだ。

それはとても乱暴らんぼうだけど、かなしい物語だった・・・。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る