祝福を
裕仁はチェロ弾きの物乞いに
手を差し伸べて神はいないと言った
物乞いは笑って空を指さした
そこには破れた和音が鳴っているだけなのに
落とし物を探すヒントは
どうも耳元でささやく君の声に
隠れているらしい
だけど落ちぶれた僕の手元では
欠けたカセットテープが回るだけ
ただグルグルと
ただグルグルと
戸惑うのは宮内の男たちだけで
裕仁と物乞いは祝福の歌が聴こえたらしい
祝福を
祝福を
祝福を
と
僕は神風になって死んでいった
男たちの物語に耳を傾けていた
特攻隊員の中には
本当は建築家になるはずだった男がいて
その男の描いた図面には
ミライの家族が住んでいたらしいけれど
悪戯好きなキツネのせいで
それはすべてご破算になったそうだ
裕仁はその日珍しくコーヒーを飲んでいて
敗色が濃いと知っていたんだけれど
彼は彼で決して叶わなかった恋について
想いを寄せてもいたそうだ
探し物を見つける鍵は
どうも小物づくりにはげむ君の
細く華奢な指先にあるらしい
だけど一度は挫けてしまった僕の掌では
割れたレコードが
ただいつまでも回るだけ
グルグルと
グルグルと
まゆをしかめたのは大本営の男たちだけで
裕仁と小物をつくる君は祝福の歌を聴いたそうだ
そこは焼け野原だけで
救いらしきものは
何一つなかったのに
聴こえたそうだ
祝福を
祝福を
祝福を
と
ただひたすらまばゆいほどに
祝福を
と
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