21話 僕の責任
「そう、だったんですか」
「うん」
部屋に戻って着替えを済ませた後。
僕の部屋のベッドに二人で座り、僕はエルファさんの話を聞いた。
僕と冒険者ギルドで別れてからハルトさんと揉めたこと。あらぬ疑いをかけられてパーティーをクビになったこと。
一部始終を聞いて、僕は大きな罪悪感に胸が苛まれた。
「……すみません」
それしか言えなかった。
どう考えても僕のせいだったから。
エルファさんは善意で僕の面倒を見ていただけだ。でもハルトさんはそれを良く思わなかった。
僕が不甲斐ないばかりに、エルファさんが不幸に見舞われてしまった。
僕は膝の上で拳を握る。
大切な人に傷ついてほしくない。
そんな綺麗事を言っておいて、僕自身が一番傷つけているじゃないか。
甘えていたんだ。エルファさんが優しいから。
いつまでも迷惑をかけられない。そう思ったなら、もっと早くに行動するべきだったのに。
「あなたは悪くないわ。最近集中できてなかったのは私の責任だし」
「そんなことないですよ! 僕がいなければクビにはならなかった!」
話を聞けばわかる。
きっかけは間違いなく僕だ。
僕の存在がハルトさんの怒りを煽った。
僕みたいな無能に構っていたらパーティーの成長に支障をきたす。
だからハルトさんは僕をクビにした。
それなのにエルファさんはその後も僕と関わっていた。そうなったらエルファさんが責められるのは当然の流れだ。
昇格試験前でピリピリしているハルトさんに、上位ランクのアッシュさんを対面させたのだって僕のせいだ。それでさらに気分を悪くしたんだと思う。
「昔はね、あんなじゃなかったのよ」
エルファさんは膝を抱えて呟いた。
瞳はどこか遠くを見つめていて、小さく微笑んでいる。
過去を懐かしむエルファさんからはハルトさんに対する怒りは感じなかった。
僕の知らない、みんなの思い出だ。
エルファさんとハルトさんとダンさんは幼馴染だと聞いている。幼い頃から一緒にいて、冒険者として苦楽を共にしてきたんだ。
おまけで採用された僕なんかとは違う。きっと強い絆で結ばれていた。
けれどそれだけじゃない。エルファさんの纏う空気でなんとなく察する。
「エルファさんは……その、ハルトさんのことが好きなんですね」
「うん。好きだった」
やっぱりそうなんだ。
エルファさんはパーティーに戻りたいと思っている。
ハルトさんの隣に帰りたいと切望している。
僕はハルトさんが苦手だけど、僕の大切な人がそれを望むなら叶えてあげたい。
エルファさんには返しきれない恩があるんだから。
「……僕がなんとかします」
「なんとかって?」
「エルファさんまでパーティーをクビになるのは間違ってます。だから、僕がハルトさんに交渉します」
「なに言ってるのよ。私が悪いんだから、あなたは気にしないでいいのよ。もう終わったことだし」
「終わってませんしエルファさんは何も悪くありません。僕に任せてくれませんか。僕は恩返しがしたい」
困惑して瞬きするエルファさん。
僕は本気だ。
いままで情けない姿ばかり見せてきた。僕なんかに何ができるんだって、そう思っているだろう。
でも僕は変わろうと決意したんだ。強くなるのは大切なものを守るため。ここで立ち上がれない男はいつまで立っても軟弱者だ。
「僕がエルファさんを帰るべき場所にかえしてみせます」
これは僕の責任だ。
全ての原因は僕にある。
ガルフは責任をもって居るべき世界に帰した。
だったら次はエルファさんだ。
エルファさんをパーティーに復帰させることで、僕が起こした問題の全てが解決される。
自分の恩恵を理解した。
本当の実力を実感した。
でも僕はまだ停滞している。
どう生きるか、なんて今はわからない。
だから今はとにかく目の前の問題に向き合おう。
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