11話 医療協会に来ました
翌日の昼時。
僕とエルファさんは軽く食事をとってから医療協会に足を運ぶ。
ガルフも同伴だ。
従魔に散歩が必要なのかはわからないけど、僕の部屋で留守番というのも不安だった。僕とエルファさんが二人で見ていた方が安心できる。
「ちょっと緊張します……」
「医療協会は初めてだっけ? べつに大仰な治療なんてしないから心配しなくてもいいわよ」
「それもあるんですけど」
「他になにかあるの?」
「い、いえ……ありませんでした」
私服のエルファさんと並んで歩いていると、まるでデートみたいで緊張する。
絶対に口にはできないけど。
休日のエルファさんを見たのは初めてかもしれない。
僕の前ではいつも魔法使い用に売られている機能性重視のコートを着ていたから、なんだか新鮮だ。
エルファさんと他愛のない話をしながら歩き、気がつけば僕たちは医療協会に到着していた。
白亜の外観にステンドクラスの窓。門前には右腕が欠けた女性の像が聳え立っている。
「い、威圧感が」
「あの像? あれは創世と癒しの女神像よ。医療協会の象徴なのよ」
「そうなんですか……」
エルファさんは物知りだ。
医療協会は国境を跨いで点在する数少ない施設。その起源はリーンベルグ王国ではなく、遠い東の国らしい。
今となっては神の存在は恩恵や魔法によってしか実感できないけど、古い時代には神様と人とが手を取り合って生活していた。
「その最も古い時代の始まりとされるのが聖なる国、リアノール。現在の女王は神様と人の混血だって噂よ」
「神様と!? 子どもがつくれるんですか!?」
「デタラメに決まってるでしょ。第一、神様なんてどこにいるっていうのよ」
確かに、神様なんて見たことがない。
僕の恩恵もよく神様の贈り物と言われてるけど、それはあくまで一つの解釈でしかない。
王国の偉い学者さんは恩恵や魔法の仕組みを研究してるって聞く。もしかしたらいつか少数の人間が恩恵を持って生まれてくる理由がわかるかもしれない。
「さて、天気もいいし私は外で待ってるわ」
「はい、わかりました。それじゃあガルフのこともお願いしていいですか?」
「いいけど……こいつ私の言うこと聞かないし」
「大丈夫です。僕がガルフにお願いするので」
僕はガルフの目を見る。
黄金色の瞳はいたって冷静だ。人混みに揉まれて興奮することもない。
ゴブリンを蹂躙した時とはまるで違う。別人格を疑うほどだ。
「いいかガルフ。エルファさんの言うことを聞いて大人しくしてるんだぞ」
『……グルル』
ガルフはしっかり返事をした。
ただ唸っているわけじゃない。僕が語りかけるときはこうやってちゃんと合図を送ってくるんだ。
いい子にしていたらご褒美でも買ってあげよう。調教には飴と鞭が重要だと本にも書いてあった。
「エルファさん、あとはお願いしますね」
「ええ。……ガルフ、お座りよ。あ、座った」
「ね! ちゃんと言うこと聞くんですよ!」
「まったく、なんでアストラの言うことは聞くのかしら……まあいいわ。行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
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