10話 幸せな帰り道
ガルフと一緒に無事に帰った僕は、冒険者ギルドで依頼達成の報告をした。
討伐したゴブリンの数は13体。よって銀貨13枚の儲けだった。
Dランク冒険者が一日で稼ぐのは難しい額だ。ガルフのおかげで僕の懐は一気に暖かくなった。
「それにしても、受付嬢さん驚いてたなー!」
僕は嬉しくなって声が弾む。
Dランク冒険者がゴブリンを13体も討伐したんだ。普通ならありえない。
受付嬢さんが慌てて換金処理をしている場面を初めて見た。
いつもにこやかにそつなく仕事をしているイメージだったから、少し親近感。
「お肉屋さんに寄ろう。僕だって食べたことないとっておきの肉を買ってやるからな。今日はご馳走だ」
『グルルル』
ガルフの頭を撫でながら歩く。
もう夕暮れ時だ。店が閉まってしまう前に行かないと。
ガルフに集まる視線にももう慣れた。
むしろ見せつけてやるんだ。堂々と胸を張って、冒険者らしく勇ましく歩かなくちゃいけない。
「あれ?」
前を向いて歩いていると、視線の先にエルファさんを見つける。
エルファさんは俯いてこちらに向かってきていて、僕には気づいていない様子だった。
どうせ帰り道は一緒だ。僕はエルファさんに声をかける。
「エルファさん!」
「え、あ! ……ああ、アストラ。こんな場所で会うなんて奇遇ね」
「そうですね。仕事は終わったんですか?」
「ええ。アストラも?」
「はい、僕もこれから帰りなんです!」
エルファさんが小さく微笑む。
どこか力がない、精一杯といった表情だ。
最近のエルファさんはずっと疲れ気味だったし、もしかしたら体調がよくないのかもしれない。
「エルファさん、大丈夫ですか。なんだか気分が悪そうです」
「え? いいえ、大丈夫よ。ごめんなさい、仕事終わりはどうもね」
「そう、ですか……」
嘘だ。
すぐにわかったけど、僕は突っ込まなかった。
悩みを打ち明けてくれないのは、きっと僕が信用されてないからだ。
エルファさんは親切で面倒見がいい。もう仲間じゃない僕にも嫌な顔一つせずに接してくれる。
でもどこかで僕の存在はエルファさんにとって重荷になっているはずだ。最近の様子を見ても、そんな気がする。
早く成長して、ひとり立ちしないと。
エルファさんの迷惑になるようなことはしたくない。
「それよりガルフを連れた初の魔物討伐、どうだったの?」
「ああ、それがもうガルフが強くて強くて。僕は何もできませんでした。こいつ、ひとりでゴブリンを13体も倒したんですよ!」
「13体! Cランクの魔物からしたらゴブリンは赤子同然ってことね……アストラも負けないように頑張らないとね」
「はい! 僕だっていつかはガルフと同じくらいに強くなります!」
僕は握り拳をつくってみせる。
やる気はいつになくある。僕は絶好調だ。
「お金も入ったし、明日は医療協会に行ってきます。流石に魔力枯渇に怯えながら冒険するのは嫌なので」
「明日……」
「どうかしましたか?」
「いえ……ねえ、明日は私も同伴していい?」
「ええ!?」
僕は驚いて声を上げる。
「そんなに体調が悪いんですか!?」
「ちが、違うわよ! 明日は休みだから、気分転換にちょっと歩きたいだけ」
「そ、そうですか」
「……だめ?」
「も、もちろんいいですよ! 断る理由なんてありません!」
上目遣いは反則だ。
エルファさんは僕を子ども扱いする。
きっと仕草に意味なんてないんだろうけど、僕だって男なんだ。美人なエルファさんを相手にすれば緊張だってする。
いつかは逞しくなって、エルファさんに男として見てもらいたい……なんて、そんな考え自体が幼稚だろうか。
エルファさんのパーティーにはハルトさんやダンさんみたいな格好いい男の人がいる。僕なんて相手にされないだろう。
「それじゃ、明日はよろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
『グルル……』
ガルフが横で唸る。
そういえば肉を買うんだった。
僕は慌ててエルファさんに断りを入れ、帰り道の途中にあるお肉屋さんに立ち寄った。
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