8話 魔物を討伐した
僕は思い違いをしていた。
ゴブリンはDランク討伐対象の魔物。
討伐対象の基準は同ランクの冒険者でも十分に討伐可能であること。
ゴブリン一体はDランク冒険者一人で十分。経験がある冒険者であれば三体でも相手にできる。
今回僕が受注したのはゴブリン三体のDランク推奨依頼。
推奨とはDランクが身の丈に合っている、ということだ。
もちろんCランク以上でも受注できるけど、旨味がないから大抵の冒険者は自分のランクに合った依頼をこなす。
Dランク推奨なら僕に相応しい。
僕なんて所詮は冒険者歴半年の新米だ。先日にゴブリンを六体倒したとしても、そんな実績はCランクの冒険者にすれば鼻で笑ってしまうレベル。
ガルフとの連携の練習もあるし、僕にはちょうどいい。
そう思って依頼を受注した。
僕はバカだ。肝心なことを失念していた。
僕がDランク相当の実力でも、ガルフはCランク相当の魔物。
Dランク討伐対象のゴブリンとガルフとでは、いくら数で劣っていてもまるで戦いにならない。
「……これは、ひどい」
僕の目の前に広がるのは、まさしく惨状だった。
地面を覆う魔物の骸。血肉が散乱し、どこもかしこも地獄絵図だ。
依頼主に指定された雑木林。そこに群れを成していたゴブリンたち。
僕は勇んでガルフと共に攻撃を仕掛けたけど、その後はガルフの独占場。僕の出る幕なんてどこにもなかった。
依頼では三体とあった。
でもガルフは三体程度では止まらなかった。
前足の爪で引き裂き、鋭い牙で食いちぎり、新鮮な肉を貪る。
暴れるガルフの気配を察してやってきた仲間のゴブリンたちもあっという間に蹂躙すると、内臓を食べ始めてしまう。
はたして何体討伐したんだろうか。
ガルフがやたらと食べるせいで正確な数がわからない。
「ガルフ」
僕が呼びかけると、ガルフは食事を止めて僕を見る。
ずっと大人しくしていたから、ガルフの魔物らしい一面を見て僕は多少怯えてしまっている。
でもこれが本来の姿なんだ。ガルフは凶暴な魔物。僕や他の人を襲ったりはしないけど、魔物を相手にすれば獣に戻る。
それでもガルフは僕の従魔で、相棒だ。
僕は引き攣った笑みを作りつつ、声を張り上げてガルフに駆け寄る。
「ガルフ、凄いぞ! 僕なんておまけにもならなかったよ。正直ガルフの力を侮ってた。次はもっと難しい依頼を受けような」
『グルル』
「部位を回収するからあまり食べないでおくれよ。これだけ討伐すれば報酬も弾むし、今日はいいご飯が食べられるぞ!」
僕は腰に巻いていた布袋を開いて、魔物の解体を始める。
ゴブリンは素材になる部位がない。群れで人の住処を荒らすから討伐される、典型的な害魔だ。
そのため回収する部位は討伐の証明として左耳を切り取る。それ以外を持ち帰っても無効になってしまうからガルフが頭部を食べるのは止めないといけない。
「これで十……すごいな、群れを壊滅させたんじゃないか?」
どれだけの規模の群れかはわからないけど、ゴブリンたちは林の奥から次から次へと襲いかかってきた。
もしかしたらかなり大きな群れだったのかもしれない。僕一人で依頼を受注していたら危険だった。
冒険者の仕事はこういったイレギュラーも多くあるから気を抜けない。
思いがけない事態に遭遇して依頼の難易度が跳ね上がることもある。冒険者はいつも命懸けだ。
おおかたの部位を回収して、僕は布袋を腰に巻きつける。
「帰ろう、ガルフ」
ガルフに声をかける。
いつまでも魔物を食べさせるわけにはいかない。
帰ったらもっと上等で美味しい肉を振る舞ってやるんだ。こんなところで満腹になんてなったら勿体ない。
「エルファさんにも報告しよう。これだけの魔物を討伐したって知ったらきっと驚くぞ!」
静かに僕の横を歩くガルフに笑いかける。
ガルフの力は僕なんかとは比べ物にならない。
でも今回みたいに頼りきりになるのはよくない。僕だって冒険者として成長して、いつかはガルフと対等に肩を並べて戦うんだ。
Bランクパーティーに勧誘されたけど、今の僕には興味がなかった。
僕は一人だ。でも一人ぼっちじゃない。
強くて優秀な仲間がいなくたって、僕にはガルフがいるんだから。
「一緒に、頑張ろうな」
『グルル』
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