7話 勧誘されました

 王都の街並みをガルフと共に歩く。

 僕の倍はある図体のガルフが横を歩いていると、すれ違う人がびっくりして僕たちを注視する。

 なんだか自分が特別になったみたいでちょっぴり優越感。


「いいかガルフ。絶対に人間を襲うなよ」


『グルル』


 何度目かの警告。

 ガルフはその度に唸って返事をする。

 僕の言葉がどれほど理解できているのかはわからないけど、この様子だと大丈夫そうだ。


「ここが冒険者ギルドだ。僕たち冒険者はここで依頼を受注するんだよ」


 冒険者ギルドの扉の前に立ってガルフに説明する。

 僕の相棒ってことは僕の仕事仲間だ。ガルフにもちゃんと教えておかないといけない。

 僕は扉を開いて冒険者ギルドに入ると、受付で書類を整理している受付嬢さんに声をかける。


「すいませーん」


「はい。本日はどのよう、な……」


 いつもの笑顔で僕の方を見た受付嬢さんは言葉を言い切る前に黙ってしまう。

 どうしたんだろうか。少し考えて、受付嬢さんの視線に気づく。ガルフだ。


「あ、すいません。こいつ僕の従魔で、害はないので!」


「あ、ああ、なるほど! 失礼しました。それで本日はどのようなご要件でしょうか。依頼の受注ですか?」


「はい。Dランク推奨の討伐依頼ってありますか?」


「……Dランクですか?」


「え、はい」


 なぜか目を丸くして聞き返してくる受付嬢さん。

 僕、なにか変なことを言っただろうか。


「……ええ、と。Dランクであればゴブリン三体の討伐がありますね」


「あ、じゃあそれで!」


 三体か。

 僕一人でも以前に六体倒せた。

 ガルフとの連携の練習としてはちょうどいいだろう。


「かしこまりました。では手続きいたします。しばらく控え席でお待ちください」


「ありがとうございます。いこ、ガルフ」


 僕は控え席に座り、ガルフは僕の後ろで丸くなる。

 手続きの終了まで十分はかかる。

 冒険者は依頼の受注とか完了の手続きとか、その他にもなにかと待ち時間が多くある。

 そのため待っている間は退屈しないように冒険者ギルドには食事処があって、控え席でも飲み食いできる。

 本とかボードゲームとかもあるから僕は待ち時間がわりと好きだ。


 席に座ってガルフと一緒にまったりしていると、僕の前の席に座っていた顎髭が似合うおじさんが話しかけてくる。


「坊主、そのオーガウルフお前の従魔か」


「え、はい。そうですけど」


「ほおう。なんだ坊主、金持ちか?」


「いえ。生活費を稼ぐだけでいっぱいいっぱいです」


「そうなのか? じゃあそいつは自力で稼いで手に入れたってわけか。まだちっこいのに大したもんだ」


 豪快に笑うおじさん。


「あの、この子はお金で買ったんじゃないです」


「ん、違うのか? じゃあどうしたんだ?」


「えっと、一応自分で調教しているというか、最中というか」


「……それ本当か?」


「はい」


 僕が答えると、おじさんはなにか考えごとを初めてしまう。

 なんだろうか、この人。

 退屈しのぎに同業者に話しかける冒険者は少なくない。それで小さなコミュニティーを作って情報を集めるのも重要だ。

 僕はずっとパーティーに所属してたから、こういった個人間のやりとりは慣れていない。ちょっと気まずい。


「調教の腕がある冒険者か、レアだな。それに若い。……なあ坊主、いまどこかのパーティーに所属してるか?」


「パーティーですか? えっと、実は……少し前にフリーになって」


 クビになったとは、流石に恥ずかしくて言えなかった。

 どうせもう他のパーティーに所属する機会もない。はぐらかしたって問題はないだろう。


「だったらうちのパーティーに入らないか?」


「…………え」


「いや無理に勧誘する気はない。ただ少し考えてほしいってだけでな」


 勧誘……。僕、パーティーに勧誘された!?

 いやでも、おじさんは僕の恩恵を知らないからそう言っただけだ。

 舞い上がるなアストラ・フリート。

 僕は一人で強くなるって決めたじゃないか。

 ただ従魔を連れてる冒険者が珍しいから勧誘しただけで、僕の本当の実力を知ればきっとハルトさんみたいに落胆する。


『アストラ・フリート様、受注手続きが終了しましたので三番の受付口までお越しください』


 受付嬢さんの声が響いた。

 僕は慌てて席を立つ。


「あ、すいません。僕はここで」


「アストラか、覚えたぞ。俺はアッシュだ。Bランクパーティーのリーダーをやってる。もしその気があったら受付に俺の名前を伝えてくれ」


「は、はい」


 Bランクパーティー。

 僕から見れば雲の上の存在だ。

 ハルトさん達ですら必死に努力しても一歩届かない世界。僕には荷が重い。

 僕は一人でいい。今はガルフもいる。僕たちなら個人でも冒険者として戦っていけるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る