6話 従魔ができました
「エルファさん見てください! 〝ガルフ〟がお座りを覚えたんですよ!」
エルファさんの部屋で目覚めてから一週間。
僕はエルファさんの部屋……の隣の部屋を借りて生活していた。
理由は僕の従魔、ガルフだ。ガルフとは、いつまでもオーガウルフと呼ぶのもおかしいから僕が名付けた。
まだ絶対に人を襲わないと保証できたわけではないから、あまり人前にガルフを出さない方がいいとエルファさんに言われた。
ガルフを連れて街中に繰り出すなんて危険だし、それなら今いる宿の部屋を借りてしまえという話になったんだ。
ハルトさんからもらった銀貨がなければ難しかったから、なんだか複雑な気持ちになる。
「これじゃあ本当にペットね……調教ってこういうことするの?」
「わかりません」
エルファさんはハルトさんのパーティーで仕事をしながら、僕の様子を覗きにきてくれる。部屋が隣にあるから苦労はないらしい。
「でもそろそろ僕も仕事をしないと。ガルフ、けっこう食べるんですよね」
「それはこんな図体してるし、魔物だしね」
お座りをしたまま黙って僕を見ているガルフ。
一週間でわかったことがある。ガルフは僕の言葉を理解しているし、僕の言うことにはたいてい従うということだ。
寝る場所もトイレの場所もすぐに覚えたし、お座りみたいな芸も何度かやればできる様になる。とても賢い。
「お手もできますよ」
「へえ。じゃあ、お手……しないじゃない」
対してエルファさんの言うことは全く聞かない。
僕を主人としてしっかり認識している証拠だ。たぶん。
「お手。ほら、やるでしょう!」
「可愛くないわねーこいつ! 私だって干し肉あげたのに」
「初日だけじゃないですか」
普段ご飯を与えているのは僕なんだ。
僕の言うことを聞くのは不思議なことじゃない。
「この様子だと人間を襲ったりはしなさそうね」
「そうですね。だからそろそろ外に出てみようかなと。魔物の討伐にも連れて行きたいし」
ガルフがいれば百人力だ。
なにせガルフは『無限階層』の第八階層で最も厄介な魔物と言われている、そこそこ強い魔物だから。
僕の恩恵も合わせれば、僕たちはいいコンビになりそうだ。
「なんだか一人でもやっていけそうで安心したわ」
「そ、そうですか?」
「ええ。ちょっと羨ましいくらい」
「そんな。エルファさんはとても優秀ですし、ハルトさんのパーティーで活躍してるじゃないですか」
「ハルトのパーティーねえ」
「……なにかあったんですか?」
「いいえ、別に。予想通りの事態が起きて、辟易してるだけ。しばらくすれば元通りに戻るわ」
「そうですか……」
少し疲れた様子のエルファさん。
パーティーをクビになった僕を励ますために色々と言っていたけど、実際のところはどこまで事実なんだろうか。
エルファさんが落ち込んでいるところは見たくない。
「僕にできることがあったら何でも言ってください。僕、エルファさんのためならなんだってやりますよ!」
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわ」
微笑むエルファさん。
やっぱり疲れているように見える。
僕にできることがあればいいけど、大したことができる人間じゃないのは僕自身が一番わかってる。
「私のことはいいの。それよりアストラ、あなたの体調の方が私は心配よ」
「僕の体調? ああ……」
僕は机に散乱した空瓶を見る。
魔力薬だ。
あれ以来、僕は定期的に魔力枯渇の症状が現れるようになった。
見かねたエルファさんが僕に魔力薬を分け与えてくれたけど、それもそろそろ底を尽きそうだ。これ以上迷惑をかけるわけにもいかないし、どうにかしないといけない。
「やっぱりその目が原因じゃない?」
「たぶん……そうだと思います」
姿見に映る僕の顔。
その目は真っ赤に染まっている。
僕自身いつからこうなっていたかわからない。ある時エルファさんに指摘されて初めて気づいたんだ。
僕の恩恵『レッドアイズ』
魔物の注意を引きつける力だ。発動中、僕の目は赤く染まる。
つまり僕は今、恩恵を使用しているということ。
しかしこれは僕が意図したものじゃない。エルファさんに指摘された時、僕は恩恵を解除しようとした。でもできなかったんだ。
恩恵が発動したまま戻らない。しばらく待てば収まると思ってたけど、一週間待っても変化はない。
「この恩恵、魔力を消費していたなんて知りませんでした」
「いつも一瞬だけしか使わないものね。自分の魔力を消費するタイプの恩恵は珍しくないし、その目が原因で間違いないでしょう」
「このまま発動しっぱなしなんでしょうか」
「一度医療協会に行ってちゃんとした治療を受けた方がいいわ。私の拙い回復魔法じゃ完全に治癒できているはずがないし」
エルファさんは補助と攻撃の魔法が得意だけど回復魔法も使える。
とはいえアリアさんほど高い技術はなく、本当に応急処置が限界だ。
僕を介抱していた時はガルフもいたし、人々の混乱を避けるために自分の部屋で寝ずに回復魔法をかけてくれていたらしい。
「……今はお金がないので。近いうちに行ってみます」
「そうしなさい」
そうと決まれば明日はやっぱり仕事をしよう。
僕とガルフの初めての実戦。コンビの立ち回りも覚えたい。
なんだかワクワクしてきた。こんな感情は冒険者になった時以来だ。
「よーし、ガルフ! 明日は一緒に魔物狩りだ!」
『グルル』
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