第15話


 シオンで見つけたドアの世界、その海上で徹は魔術師たちに囲まれていた。バックで流していた曲はいつの間にか止まっている。


「おぉ?たった100人でいいのか?」


「おのれ…!神聖ローマ帝国に逆らうとどうなるか、蒼獣師団の名にかけて思い知らせてやる!」


「神聖…?ああ、やっぱりドイツのほうだったのね…」


 テルマエ作ってそうな方ではなく、教皇万歳なほうのローマだったようだ。その身なりを見て薄々気付いてはいたが。


 蒼獣とやらが何か分からないが、青い衣装のコンセプト元なのかもしれない。チャーチルも青服がどうとか言っていたから、きっと強い部隊なのだろう。


「あんたらには、パクスロマーナは築けそうにないなぁ…」


「辺境国家に言われる筋合いはない!切り落とせ、ギヨティーヌ!!」


 リーダーを引き継いだ魔術師が、杖を大きく振り抜く。何も撃ち出した様に見えないが、相手が魔法を唱えた瞬間に、直感が煩く吠え立てた。


 直感に従って下に避ける。ほぼ同時に、ビュオッ!と頭上をナニカが掠めるように薙いで行った。目の前をヒラヒラと数本の髪の毛が落ちていく。


〈んん!?なんだ今のは?〉

〈一瞬だけすごい音がしたけど…〉

〈多分真空刃の様なものかと〉

〈僕だとヅラが跳んでたな〜〉

〈ピュ~ 三三 彡⌒ミ〉

〈また髪の話してる…(´・ω・`)〉


(今のは少し危なかったぞ…直感センサーがなかったら死んでたなぁ)


 視界の端で流れるコメントをチラリと見やる。何故かハゲの話題ではしゃぐ視聴者に、乱れた脈がフッと落ち着いた。


「知ってるか?髪は乙女の命なんだぜ?」


「田舎の娘が何を偉そうなことを。大人しく降伏すれば、すぐにでも流行りの服で着飾ってやろう」


「宗教が権威の時代なんぞ、どこも田舎同然だと思うが?」


 相手の提案を蹴りつつ、ナイフを相手の背後に生成する。あえて宗教を話題に出し、気付かせないようにするのもセットである。


「貴様…やはり異教徒か!」


「だったら何だ、魔女扱いかな?こうやって飛べるんだから、魔女には違いないよなぁ」


 そう言い放ち、配置したナイフを強く撃ち出した。豊富な運動量を得たナイフは、魔術師の背を目掛け突貫する。


「それなら、背後には気をつけないと」


 ドシュッ!と一瞬で体を貫通し、そのまま徹へ飛んでいく。徹はそれにブレーキをかけ、キャッチして魔術師に見せた。


(貫通するとは思ってなかったんだけどね…)


「カハッ…」


〈ファンネルみたいだぁ…〉

〈正しくはビットだぞ、俗物〉

〈え、なんの話?〉

〈懐古厨の話だぞ。たしか、100年以上前のロボットアニメの武器だったか〉


 フラッシュバンを大量に投げた時もそうだったが、NFAを使ったサイコキネシスはかなり使いやすい。しかしナイフはもう使わない為、ポイと投げ捨てた。


「卑劣な奴め…」


「うわ!まだ生きてたの!?」


 どうやら、ナイフで撃ち抜いた魔術師はまだ生きていたようだ。ブツブツと何か言ったかと思うと、懐から瓶を取り出して一気に飲み干した。


「ングッ、ハァ…もう一本か…」


 空になった瓶を投げ捨て、傷跡を手で確かめている。よく見ると、ナイフによる傷口が綺麗になくなっていた。


「…は?まさか回復したのか?」


「致命傷には効かない代物だ。死ぬ前に使って何が悪い?」


〈こんなのアリか?〉 

〈敵が回復するのは珍しくないぞ〉

〈でもクソゲーに多い傾向な気が…〉

〈ふむ、一撃で倒せばいいだけじゃないか?〉

〈なるほど!〉

〈中距離だから弓使ったほうが良くない?〉


 少し予想外の展開だったが、配信的に考えれば悪くない。視聴者の言う通り一発で落とせば良いだけだ。


「そうか、致命傷にはきかないのか…」


 長巻を下げたまま、刃に大気がまとわりつく像をイメージする。濃く、隙間なく、過密にひしめき合うように。しかし相手に悟られないように。


シュオオオオオ…


 チラリと手元を見下ろすと、刃の周囲が蜃気楼の如く揺らめき音を立てている。


「じゃあ、それを確かめる必要があるな」


 ブゥン!と長巻を横に振り抜く。刃に覆われていた大気が一気に押し出され、鋭角を形成して敵の首に直進する。


 相手を見ると、ミリアムが素振りしただけと捉えているようだ。真空刃を放った魔術師だが、自分が受けたことはなかったのだろうか。


「魔法が不発だったか?飛ぶのに魔力を カヒュッ…!」


 言葉の途中で首が断たれ、笛のような音が鳴った。杖が手から離れ、大小3つの水しぶきが海面に立つ。


〈見せられないよ!〉

〈たかし、見ちゃだめよ!〉

〈自分の技で死ぬのか…〉

〈魔法と違って無詠唱だからねぇ〉

〈これじゃ回復できないな〉


「確証は取れたな」


 致命傷には効かないと言うよりも、そもそも使うことができない。それが結論のようだ。


「何が起きた!?」

「た、隊長代理死亡!!」

「敵は何もしてないぞ!?」

「そ、それよりも次は誰が指揮を取るんだ!?」

「そんなことはもういい!とにかく攻撃しろ!」

「それだと誤射で同士撃ちが!」


 敵の部下たちが、何が起きたか分からないと動揺している。それもそうだろう、なんの拍子もなく首が切断されたのだ。


(詠唱がないから、何が起きたかわかってないのか…使えるな)


 イメージによって、長巻を多層の真空刃で覆わせる。風が鳴る音がし始め、目に映る刃が揺らぐ。両手で柄を握り、水平に構えた。


「幽霊に祟られたんだろう?死にたくないから、俺はここで儀式をしてるぜ」


 自分を取り囲む魔術師達へ向け、横へ長巻を振った。真空刃が一層飛び出ていく。だが、何層にも張られた大気は、まだまだ長巻の刃の上で踊っている。


ザシュッ…


 横に伸びた不可視の刃が、3人の魔術師を切り裂く。胴から2つに分断されて海に落ちていった。


 向きを変えては振り、次の相手を向いては薙ぐ。次々と見えないギロチンが襲い、亡骸で海が赤黒く染められていく。

 しかしパニックの魔術師達は事を把握できず、ミリアムが儀式でもしているようにしか見えていない。


〈消化試合だなァ…〉

〈儀式というか、見えない幽霊とやり合ってる様にしかみえんな〉

〈不可視攻撃はチート杉〉

〈敵の魔術師も詠唱はしてたからな…フェアじゃないね〉


 ミリアムが剣舞を終えた時には、宙に浮かぶ人影はおらず、赤潮のような海が足元に完成していた。

 海上の一角に浮かんでいた小さな絨毯は、突如吹き荒れたカマイタチによって切り刻まれ、一瞬の内に海の藻屑と消えたのである。


「さて、チアキの応援にいこうか」


 ミリアムはおもむろにウィンドウを開き、プレイリストから流行のポップソングを再生した。




~2021/8/27 シオン初配信後のディアケーにて~


【シオン】シオンの情報を共有するスレ 377【リアルダンジョン】


208:名無しのイェフディさん

ミリアム配信オワタ…


209:名無しのイェフディさん

結局あの身体はなんだったんだ?


210:名無しのイェフディさん

ああ…生き返った気分だ…


211:名無しのイェフディさん

相変わらず貧乳だなぁ


212:名無しのイェフディさん

>>211 弓使うから必然的に貧乳のキャラになっちゃうんだぜ…


213:名無しのイェフディさん

>>209 義体だと思われ。

シオンの中だとエレツ内のインフラとの接続が切れるが、ミリアムは何かしらの方法で接続を確立したと推測。配信中に通信速度を気にかける様子が何回かあったし。


214:とーてむ

なんでそんな細かいこと気にしてるんだ?


強くてかわいい。


それだけでいいじゃないか。

あと別衣装のときの生足がすばらs(ry


215:名無しのイェフディさん

義体…なのか?義体ってNFA使えんのか?


216:名無しのイェフディさん

僕の知ってるアルテミスと違う…あんなに動きながら撃てないお…


217:名無しのイェフディさん

魔法が強すぎる…いや、魔法?魔法ってなんだっけ…


218:名無しのイェフディさん

>>217 フラッシュバンでゴリ押しすることさ


219:ダニエル

ニューヘイブンの者ですが、これから新武器をミリアム氏に宣伝したいと思います。

興味ある方は是非シオン入口までお越しくださいませ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る