第12話 ベリアル
漆黒の機体が宇宙に溶け込む、地球に照らされてかろうじて見えるその巨躯は、半壊していた。マスドライバー発射の衝撃によるものだろう。それでも十分過ぎるほど無事なのだが、ベリアルという機体はよほど強固のようなものらしい。
基本的にヒット&アウェイを基本理念に設計されたブレイバーとは大違いだ。片腕を失ったオウジのブレイバー、ケンのブレイバーは未だ健在だ。
「ケン、一気に畳みかけるぞ」
『OK相棒』
崩壊剣と実体剣を構え、対峙する三機、白のブレイバーと黒のベリアルの対比に他人は何を思うのか。
剣戟が始まる、二刀流のベリアルはケンとオウジのブレイバー二機に対して、崩壊剣を叩き落そうと小手を狙う。その文字通り小手先の技をオウジは足蹴りで躱し、距離を取る。近接用のショットガンに持ち武装を切り替えるオウジ、ケンが前に出る。ベリアルは背中から盾を取り出し実体剣と切り替える。
「こいつも盾持ちか」
いつぞやのガイアを思い出す。こいつは意外と古い機体なのかもしれないという思想に思い至る。
(旧型の装備にイミテーションコーティング、AI制御、こいつの機体は――)
妙な違和感、戦闘は続く、ショットガンを放つオウジのブレイバー、それはベリアルの盾に防がれる、それは牽制、ケンが突っ込む、それを実体剣一つで迎撃するベリアル。膠着状態、千日手、そんな言葉が脳裏に浮かぶ、不利なのは向こうのはずだ。しかしベリアルは疲弊した様子も見せない。敵から視線を離すわけにはいかないが、マザーⅢやプリンセスの乗るシャトルが気にかかる、別動隊が動いてないといいが。
「イー、一つ提案だ。賭けをしよう」
『AIとギャンブルですか?』
「そう、AIとギャンブルだ」
一つ思いついた敵の正体、それがもし当たっていたら、この勝負、オウジの有利に働く。かくかくしかじか、相互補完型Ai『E』との会話を端的に終えて、戦闘に集中する。ベリアルは未だ健在だ。ケンが奮闘しているが、それも一歩及ばない。隠し腕二本を失ってなおその剣技、偽原子濃縮砲も音速スラスターも働かない状況で未だにその脅威は衰えない。そこに。
『オウジさん! 換装用の腕パーツ射出します!』
「助かる!」
エメラダの声、マザーのハッチから腕パーツが飛んで来る。それを受け取りドッキングするオウジ、ガシッとはまった、量産機は予備パーツが多いのが強みだ。
これで二刀流に戻れる、崩壊剣を二本構える。
実体剣と崩壊剣が交差する、隙を見せないベリアル。腰に懸架したミサイルを一斉射する。十発がぐるぐるとベリアルを囲む。
「イー! ベリアルを逃がすな!」
『敵機体名ベリアル、登録、masterの指示を承諾』
ベリアルはミサイルを冷静に斬り落として行く。宇宙での爆発は丸くなり、そこまで広がらない。ケンも同じくミサイルを放つ、これは直撃させるつもりだ。
しかしベリアルは、ミサイルとミサイルを撫でて軌道を変える、誘爆。その全てが操られているかのよう、操っているのはこちらだというのに。
ミサイルは使い果たした、接近戦でしか勝機はない。
「ケン! 挟み撃ちにするぞ!」
『了解!』
オウジがベリアルに正面衝突し、ケンが後ろに回り込む、隠し腕が無くなった今、背後はがら空きだ。スレイヤー大佐には感謝してもしきれない、オウジは撃墜王に心の中で敬礼する。
『まだだ!』
足を後ろに放つベリアル、そこから生えるダガー。それは本来、宇宙空間で自分を船体などに固定しておくための装備だ。それを兵器に転用した。
「人の専売特許を!」
足芸は自分の領分とでも言わんばかりのオウジだが、足に武装が装備されているのはIMでは不思議な事ではない。
ケンはダガーを崩壊剣で受け止める。しかし、これでまた膠着する状況、やはり――
「イー、解析結果は?」
『yes 演算の結果、97,6%の確率でベリアルはAI運用機です』
「充分」
人の命がかかっていないのなら、吐く心配もない。宇宙空間での嘔吐は窒息死の危険性が非常に高い。オウジはそんな死に方は嫌だった。
故に、ベリアルは好敵手と言えよう。
獰猛に笑うオウジ、レバーを握る手が汗ばむ。宇宙スーツ内が熱気でこもる。
「お前、AIだろ」
『……』
『オウジ? お前今なんて?』
ケンの戸惑いの声を無視して、告げる。
「おかしいと思ってた、音速超えの超加速に四本腕、イミテーションコーティングという古い技術。お前は旧世代の遺物だ、AI戦争時代のな」
『黙れ……! 私は最高のAIだ!』
突撃してくるベリアル、迎え撃つオウジのブレイバー。剣と剣がぶつかり合う。踊る様に剣技は続く、時に激しく、時に穏やかに、戦闘というより舞踏のようだった。怒りに身を任せ、しかし冷徹に剣を振るうベリアルと、獰猛に、冷酷に、剣を振るうオウジ。しかし、決着はあっさりとついた。
ベリアルの胴体、撃ち抜かれた後、ケンの援護射撃がヒットしていた。
『AIだろ……こいつ? これで死ぬのか?』
「偽原子崩壊に巻き込まれて消えるさ」
きらきらと輝き崩壊していくベリアル、決着を己の手で付けられなかったのは残念だが、スレイヤー大佐の仇を討てた事がオウジは素直に嬉しかった。
『バックアップならある……』
ベリアル、最後の通信。驚愕に染まる二人。
『月で会おうか……ゼンノウ・オウジ……!』
消え去ったベリアルの機体、偽原子散布をいちいち止めていたのはバックアップを通信で送るためか。
あっけない決着とはならなかった。
まだ、戦いは待っている。
初めて嘔吐せずに戦闘を終えられて、オウジは少し感動していた。
IMに乗ったままケンとオウジはハイタッチする。がシャン! と音が鳴った。
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