第8話 リアクター突入戦
薄い隔壁をぶち破るブレイバー。それは濡れた紙を破くように容易かった。逃げ惑う兵士たち。新型アポソルが飛び出して来る。コックピットも閉じずに急発進と言ったところだ。
「地上部隊も多少の役には立ったらしい!」
今、ここまで内部に潜入出来ているのは他でもない地上部隊のおかげだろう。スレイヤー大佐には一応の感謝しなければならないのかもしれないとオウジは考える。
ケンにハンドサインを送る。人型を模したIMだから出来る事だ。『ワレ突入スル』『了解』短いやり取りの後、オウジがアポソルにタックルをかました。コックピットから放り出されるパイロット。落ちて死んだかと思ったが生きている。這いつくばって逃げる姿を見てギリギリ吐かずに済んだ。戦場で殺さない事が救いになるのか。
「さっさと逃げろよ!」
壁をぶち破って最短コースで中心部のリアクターまで突き進む。ケンも付いて来ている。例の新型も大したものじゃない。ケンも見事に何体か、いなしてみせた。
「ははっ、さすがケン。
そう、ケンは前線に出してもらえないだけで模擬戦闘で圧倒的スコアを誇っていた。オウジはあまり模擬戦闘に興味が無かったので参加していなかったのだが。
その時だった。新型アポソルの建造ドックにたどり着く。
「ここが……リアクターは近いな」
すると完成途中の新型アポソルが突如起動する。立ち上がる歪なIMの群れ。
「なんだこれ?」
ガツンと音が鳴る、ケンのブレイバーがオウジのブレイバーの肩を掴んだ。接触回線だ。
『奴ら禁止条例に引っかかるAI兵器を持ち出しやがった』
「完全AI制御だと!?」
新型アポソルに囲まれるオウジとケン。万事休すかに思われた。崩壊剣を取り出し、近接格闘モードへ移行する。
「暴れ回るぞ!」
『最後の花道か!』
ケンと息を合わせ、新型アポソル、一機を、一瞬の内に斬り捨てる。他の機体が動く、確実に一発貰う。そう覚悟した時だった。
地面から光線が放たれた。
「!?」
そのまま飛び出して来るウォリアー。指揮官機ペイント。スレイヤー大佐だ。
『フハハハハ! お飾り部隊、囮部隊などと言われたまま引き下がれるか!』
馬鹿でかいスピーカー音声でコックピットから言葉を垂れ流すスレイヤー。
ウォリアーで新型アポソル達を次々と撃ち抜いて行く。突如現れた侵入者に演算が追いつかない敵AI。
『敵の搭載AIは旧型の様です。攪乱作戦を推奨します』
「イーか、助かる」
相互支援式AI『E』が反応する。同じAIとして思う所があるのかもしれない。AIに心があればだが。
ケンと再びの接触回線。
「敵AIはポンコツらしい、スレイヤー大佐と協力して攪乱しよう」
『了解!』
ウォリアーを中心に、不規則な軌道を取るブレイバー、歪な新型アポソルはぐるぐると頭を文字通り物理的に回す。
「今だっ」
斬り捨てる。斬り捨てる。斬り捨てる。
撃ち抜く、撃ち抜く、撃ち抜く。
新型アポソルを一掃する。
『これが我ら地上部隊の実力だ!!』
スレイヤー大佐の雄叫び、いつの間にか合流した地上部隊。これで戦力は揃った。
目指すはリアクターのあるコアブロック。あと少し。そこで――
壁に弾かれるブレイバー。
「なんだこの壁硬いぞ!?」
『ああ、みたいだな……』
「……? ちょっと待て、どうして通信が回復してる!?」
『どうしたのだね君達、そんな慌てて』
「スレイヤー大佐! 敵が偽原子の散布を止めました! 何か来ます!」
『何!?』
ごくりと固唾を飲み込むオウジ。後ろから殺気――
バッと振り返るブレイバー、そこに居たのは漆黒のIM。白のブレイバー、青のウォリアー、灰のアポソルとも違う。新型。
思わず、そのプレッシャーに息を飲む。
『やあ諸君。通信は聞こえているだろうか。私はカーニバル。これでもこのメガフロートの指揮官をやっている。此処を墜とされるのは少し困るのだがね?』
「墜とすさ、そういう作戦だ」
『そうか残念だ。ならばこれからは殺戮だ』
ウォリアー一機が大破した。一瞬で。気づけば後ろに回り込まれていた。機動力が違い過ぎる。あまりの速度だった。
「音速超え!?」
『地上でか!?』
『ええい化け物め! よくも部下を!』
「スレイヤー大佐! 迂闊に前に出ないで下さい!」
黒い機体は超高速で動き周る。正直、ゴキブリを連想して気持ち悪い。崩壊剣ではなく実体剣を構え、ウォリアー達を斬り捨てていく。
「武器まで舐めてやがる!」
『挑発に乗るな!』
ケンの忠告も聞かずに黒い機体へと飛び込む。
『我がベリアルの糧にしてくれよう!』
「気取った名前をー!」
敵エースはこちらを翻弄する。これ以上、地上部隊に被害を出すわけにはいかない。幸いここは屋内。軽いフットワークだけでしか、その音速を活かせない敵機を捉えるには経路を塞げばいい。ケンと協力する。
『こっちは通さねぇぜ指揮官さんよぉ!』
「ケン! そのまま足止め頼む!」
背中を狙う。しかし。
『腕が二本だと思わない事だ』
背中から三本目のアーム。それがオウジのブレイバーを捉える。
「馬鹿な!?」
『人間に三本腕の操縦は無理と思ったかい? 残念四本腕だ』
背中からもう一本の腕が格納されていた箇所から出て来る。実体剣を携えて。身動きの取れないオウジ。ケンが助けに入ろうにも真正面から受け止められる。
『背中に目でも付いてるのかコイツ!』
「落ち着け! AI制御だ! イー! 対策を!」
『検討中、脚部が稼働可能です』
「でかした!」
脚部に搭載された崩壊剣を蹴り上げて第三の腕を切り落とす。開放されるオウジ。黒い機体ベリアルは一歩下がる、いや前に進む。ケンと距離が詰まる。ケンのブレイバーの崩壊剣とベリアルの実体剣が交差する。
「なんで実体剣が崩壊剣に対抗出来る!?」
『イミテーションコーティングというものをご存じかな? まあ知らなくても無理はない。手品……いや西暦派の節約術のようなものだ』
「コーティング……? 偽原子を!?」
『さあさあ会話はお終いにしよう。戦いこそ我らが本望だろう?』
「人を戦闘狂のように!」
オウジ、ケン、スレイヤー、地上部隊残るは四機。
数的有利を覆すほどの性能差。
この勝負、どうなるのか。その時だった。
『通信聞こえているな!』
「艦長!?」
『偽原子散布が解けて君達の位置は分かった。おおよそのリアクターの位置もな。これより艦砲射撃によりリアクターを撃ち抜く! 総員退避!』
「聞いたなケン!」
『応!』
『地上部隊撤退!』
『おやおや、残念、此処は詰みかな』
ウォリアーが入って来た床下の穴から全機離脱する。戦場で背中を向ける者に、ベリアルは反応しない。そこでマザーの偽原子濃縮砲が発射される。高濃度の偽原子崩壊砲。一発一発砲塔を交換しなくてはならない奥の手。メガフロートを一直線に撃ち抜いた。極光。染まる世界。爆発するメガフロートを背に。オウジはベリアルがあれで死んだとは思えないでいた――
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