第7話 メガフロート攻略作戦


 大西洋上に浮かぶ西暦派のメガフロート。そこはIMの新造施設であり、西暦派の海上拠点の一つである。ここでアメリカとイギリスを分断しており、新暦派は苦虫を噛み潰したような思いをして来た。しかしここに来ての反攻作戦。テロリストに対して一気呵成にかかった。

 NY0068、四月六日。この日は歴史に刻まれる事になる。

 オウジは名前も知らないメカニックに声をかける。

 

「地上部隊は残り七機、内、三機が中破。残り四機……修理が間に合っても五機ですね」

「そうか、ブレイバーの調整は?」

「ミサイルの補填は済んでます。それと試験的に相互支援式AIを搭載しようかと」

「相互支援式? 今までのオートパイロットと何が違う?」

「それは開発担当に聞いて下さい」

「誰だ」

「エメラダさんです」


 エメラダが、ならば信頼出来る。目の前のこいつより。とオウジは考える。しかし相互支援式とは聞きなれぬ名前の方式だ。エメラダを探すオウジ。

 その緑髮をようやく見つける。


「エメラダ!」

「わっと、はい! あ、オウジさん」

「相互支援式AIってなんだ?」

「あ、それですね、丁度お話しようと思いまして。実際に見てもらった方が早いかと」

「そうだな」


 ブレイバーのコックピットまで案内される。そこには見知らぬモニターが備え付けられていた。


「これが?」

「はい、相互支援式AI『E』です」

「イーか。由来は?」

「へ? あっいや特に意味は……」


 慌てふためくエメラダ。首を傾げるオウジ。


「まあいい、それでどう使う?」

「あっはい、基本は音声入力ですが、えっとE、起動」

『はい、機体名ブレイバー搭載相互支援式AI「E」起動します』

「うぉ、喋った」

「あはは、そこに驚くんです?」

「それになんかエメラダの声に似てる」

「ギクッ、いや、電子音声を作るのにボイスサンプルが必要で……」

「なるほど」


 それからしばらくAIの調整に入るエメラダ。それを眺めるオウジ。

 

「では摸擬戦闘シミュレーションに入りますね」

「おう」


 コックピットが閉鎖される。映し出される戦闘のビジョン。敵にはアポソルが三機。この間の戦闘を模したものだ。しかしこちらはミサイル装備。


『ミサイル発射を提言、返答が無ければ発射します』

「は? あっ、撃て!」

『発射完了、操作中、操縦をマニュアルに』

「全部が全部オートとはいかないか!」


 アポソルから放たれる光線銃を躱しながら、飛んで行くミサイルを眺める、その起動は見事にアポソルを囲んでいた。十発のミサイルによって三機のアポソルが撃墜される。それで嘔吐はしない。摸擬だと分かっていれば反応しない。オウジはそういう身体だった。


「これが相互支援式AIね、悪くないんじゃないか」

『良かったです』

「ははっ、返事も良いな!」

『あっ、今のは私の通信です……』

「あっ、エメラダかすまない」

『い、いえ』


 コックピットを出る。しかしどうした事だろうか。あのAIに嘔吐を見られたらどうしよう。そこで思いつく。


「なぁ、あのイーなんだが、ケンのIMに取り付けられないか?」

「へ?」

「いや、俺は今までので大丈夫かなって」

「……そうですか、分かりました。その方向で調整します」


 どこかしょんぼりとした様子のエメラダは去って行った。何か悪い事しただろうかと頭を掻くオウジ。例のケンがやって来る。


「今のはないぜオウジ」

「あん?」

「ほんっとお前ってやつは……俺が取っちまっても知らねーからな!」

「だからなんの話だよ……」


 そうして、メガフロート直前の整備は終わった。敵は目前にまで迫っていた。

 オウジとケンはミーティングルームに向かう。


「敵の対空砲撃網をかいくぐらなければ、我らに勝ち目は無い」


 艦長の言葉にパイロット達は息を飲む。


「わ、われわれ地上部隊は下から潜り込む、それでいいな!?」


 スレイヤー大佐はすっかり怯えていた。艦長は溜め息をついて。


「ええ、構いませんよ」


 オウジは心底、落胆する。これが撃墜王と呼ばれた男か。

 そこで作戦領域の地図がミーティングルームの中心に3D投影される。映し出される敵メガフロート。その威容に息を飲む一同。


「こんなもの西暦派はどうやって建造したんだ……?」


 オウジがぼそっと呟く。艦長はそれを睨んで。


「コホン、えー我々、空中部隊は地上部隊と別れ敵砲撃網を掻い潜り内部から破壊する」

「掻い潜るって具体的にどうやって」


 オウジが挙手して意見する。艦長は少し俯いて。


「……IMの性能任せだ」

「は?」


 敵のハリネズミのような砲塔の群れ。メガフロートは難攻不落の要塞だ。それをIMの性能だけで内部に潜り込めと言う。それを無理難題と言わず何と言う。オウジは死地に向かう自分と親友を憂いた。


「巻き込んですまないケン」

「俺だって兵士だ、その言葉は失礼ってもんだぜ」


 ケンの覚悟は本気のようだ。確かに失礼な発言だった。


「じゃあ背中は預けた」

「任せろ! いつもそのくらい素直ならいいのにな!」


 オウジの背中を叩いて笑うケン。オウジはその明るさに救われた。


「作戦は明日マルマルマルマル。深夜の電撃作戦を決行する。今の内に寝ておけよ」

「サー!」


 軍式の挨拶や用語がちゃんぽんになっているのはそもそもIM運は軍ではないからだ。様々な軍隊からかき集められた兵士が集まって部隊を形成している。それがIM運の現状だった。

 オウジは自室に戻り。眠りにつく。起きたら戦闘だ、アラームをセットする。

 今日は夢は見なかった。


 深夜零時。マルマルマルマル。作戦結構時間。地上部隊が先行する。

 艦長とオウジが出撃前に一瞬会話をする。


「正直言って、地上部隊はデコイだ」

「そりゃまたひどい」

「空中より死亡率が低いんだから感謝して欲しいね」

「これから弾幕に飛び込む訳ですからね、俺らは」


 武器庫へと向かう、無機質な油臭い空間。ブレイバーの下へと向かう。

 するとエメラダとすれ違う。


「あっ、オウジさん。これを……」

「これは日本式のお守り?」

「はいジャパン式を真似てみました」

「ありがと受け取っておくよ」

「……中身は見ないでくださいね?」

「そんな罰当たりな事しないよ」

「ですよね!」


 軍でパイロットに渡すお守りの中身といえば――いやこれ以上の言及はよそう。エメラダは意外と大胆だという事だ。

 ケンもブレイバーに乗り込むのを見て、それに続く。


「偽原子濃度が濃くなるから最後の通信だ。言い残した事は?」

『こっからが地獄だぜヒーロー!』

「英雄気取りになったつもりはない!」


 ブレイバーが闇夜に発進する。あたりサーチライトをばら撒くメガフロートの上空。地上部隊はメガフロート前で右往左往している。


「役立たず……!」


 戦場に出ると口が悪くなるオウジ、それはゼンノウ家へのコンプレックスによるものだった。誰にも聞かれなくて良かった。そう思ったオウジ。

 メガフロートのサーチライトを掻い潜る。行けるかと思ったその時。


「……ケン!」


 ケンがサーチライトに捕捉されてしまう。メガフロートから弾幕が張られる。崩壊砲の嵐。あまりの攻撃に目が眩む。


「カメラの彩度を抑えろ……!」

『了解しました。調整します』

「イー!? なんでこっちに!?」

『エメラダお母さんに頼まれまして』

「お母さん……はぁまあいい。ミサイルを全部ばら撒く。弾幕を防いでメガフロート内に潜り込むぞ」

『ミサイルの無駄遣いでは?』

「腰にマウントしたミサイルはメガフロート内じゃ邪魔になる。爆風に巻き込まれても馬鹿みたいだ」

『了解しました、全弾発射します』


 ミサイルが放たれる。それはなんと弾幕を掻い潜り。砲塔を破壊した。弾幕に穴が開く。


「行けるか!」


 メガフロートに突っ込むオウジ、ケンも後から続いたのを視認した。さあこっからが破壊活動だ。内部でIMとの戦闘になる。白亜の城。そんな様相のメガフロート。オウジは辺りを見回して。


「新型アポソルは……いない?」


 油断した、その時。

 バガァン!

 壁をぶち壊しIMが飛び出して来た。

 丸っこいアポソルにスパイクを生やした新型だ。


「近接モードへ移行」

『了解』


 前のオートパイロットより反応がスムーズで助かる。オウジはイーのモニターを撫でながら目の前の新型アポソルと対峙する。偽原子崩壊剣を取り出し。構える。敵も鏡写しのように同じ行動を取る。空気が張りつめる。一瞬で勝負はつく。先ほどアポソルが壊した壁の瓦礫が崩れた。それが合図になった。

 一気に駆けるブレイバー。新型アポソルは受けの姿勢を取る。

 そこに隙が生じる。


「イー、崩壊銃を」

『了解』

 

 崩壊剣を持った方、ではないもう片方の手で銃を取り出し早撃ちをする。不意を突かれた新型アポソルは撃墜される。室内で光輝き崩壊していく。


「エレレレレレ……まず一機……!」

『疑問、今の嘔吐はバイタルに問題が?』

「内密に頼む」

『……了解』


 メガフロート内を進んでいくオウジ、ケンも新型アポソルを一機撃破しこちらへ合流する。この巨大建造物を破壊するには中心部のリアクターを破壊するしかない。

 二人は壁を突き破って一直線に真ん中へと向かうのだった。

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