第6話 一時休息


 オウジは吐しゃ物まみれのガイアの偽原子エンジンの臨界点を突破させて偽原子崩壊を引き起こす、敵との戦闘で傷ついた事にして、吐しゃ物ごと消し去るのだ。脱出ボートに乗り込みコックピットから飛び出して海上に出る。光輝き崩壊していくガイア。


「さらば、旧世代の遺物」


 敬礼をして別れを告げた。しばらくしてボートを回収しにマザーがやって来る。ボートは無事回収される。回収先には怒り顔の艦長が居た。


「お前……旧式で出るとか死ぬ気か?」

「あはは、でもなんとかなったでしょ?」

「あははじゃねーよ。ったく、反省文書いとけ」

「えー」

「返事はサーだ」

「サー、イエッサー」


 仕方なく反省文を書く事になったオウジは自室へと戻る。

 その時、エメラダとすれ違った。


「あっ、オウジさん!」

「おお、エメラダ」

「旧型で出たって本当なんですか!?」

「まあ……うん」

「大丈夫だったんですか!? 機体が崩壊したって聞きましたけど……」

「ああ、それは大丈夫、うん、自己判断によるものだから」

「へ?」


 しまった藪蛇だった。これ以上はマズいとその場を後にしようとする。


「あの!」

「えっと、俺、ちょっと疲れてて……」

「あっ……ごめんなさい……」


 そう言って別れた。エメラダには悪い事をした。そう思い後で埋め合わせをしようと考えながら自室に戻る。

 すると自室にメールが届いていた。


「えっと、スレイヤー大佐から?」

『題名 ガイア破棄の件について 本文 どういう事か説明求む』

「……無視でいいや」


 艦長経由で運ばれたメールをゴミ箱フォルダに放り込んで、ベッドに倒れ込む。


「撃墜王って嘘だったんだな」


 スレイヤーの戦いを見てそう思うオウジ。地上に残っている旧時代の戦車部隊を倒した数が百。答えはそんなところだろう。悲しく思う。憧れは脆く崩れ去った。

 本物の撃墜王、そんなものどこにいるのだろう。お飾りの地上部隊。オウジ一人のワンマンアーミー状態の空中部隊。こんなので大西洋のメガフロートを攻略出来るのだろうか。敵の新型も現れた。恐らくそこで建造されたものだ。新型を建造出来る工場を擁するメガフロートを放っておく事は出来ない。オウジは心に決める。ケンに通信を入れる。


「ちょっといいかケン」

「んあ……? ああ、オウジか、悪い寝てた。でなんだ?」

「次のメガフロート戦、ケンにも出てもらいたい、艦長は俺が説得する」

「それは構わないが……どうした?」

「メガフロートは確実に墜としたい。新型建造工場の可能性があるから」

「それはまた、物騒だな」

「ああ、頼めるな?」

「任せておけ」


 自室から出て、艦長が居るデッキへと向かう。


「艦長」

「なんだ」

「メガフロート攻略作戦、ケンにも参加してもらいたいんです」

「…………分かった、なんとかする」

「えっ、でもゼンノウ家の圧力は」

「報告しなきゃバレんだろう。いちいち戦場の様子を監視している訳でもあるまい」

「ありがとうございます」

「いやいい。今までがおかしかったんだ」


 今度は食堂に向かうオウジ。

 吐いた分を食わなければ死んでしまう。


「えっとレーションレーション……」

「これ食え、オウジ」

「ムラマサさん……ってこれ!?」


 かつ丼だった。綺麗な卵とじの。

 

「ゲン担ぎだ」

「うぇ……あの」

「いいから食え、死にぞこない」

「……はい」


 ムラマサさんに押され。仕方なくかつ丼をかっ込むオウジ、美味しい。美味しいのだが……。これをまた吐くのだと思うと憂鬱になる。


「うまそうじゃねぇな?」

「美味しいです……美味しいですとても……」

「なんかイヤな事でもあったか?」

「……夢の豪邸が、実はハリボテだったんです」

「現実なんてそんなもんだ」


 バッサリ切り捨てられた。ムラマサの言う通りかもしれないとオウジは思う。

 だったら自分がなってやればいい。

 本物の撃墜王に。


「ムラマサさん。俺、成れますかね撃墜王」

「兵士にこんな事言いたかないがな。殺した数がそんなに大事か?」

「……それは」

「お前は生き延びる事に執着しろ。それが足りん」


 生きる。それはオウジにとっての苦痛だった。早く開放されたい。でもこのまま。負け犬のまま死にたくないと思って生きていた。

 せめてゼンノウ家の奴らを見返したいと思って生きている。ただそれだけだった。


「俺、生きる理由がちっぽけなんです」

「理由があるだけ充分だ」

「それには撃墜王になるってのが含まれてるんです」

「そいつはオススメ出来ないな」

「俺はどうしたらいいんですか」

「生きる道なんていくらでもある。この作戦、敵を墜とす事よりもプリンセスを守る事のが重要なんだ。プリンセスと合流したらそれを肝に命じとけよ」


 メカニックなのになんて先を見据えた人だろう。戦場の全てを見ている。オウジはその疑問をぶつけた。


「あん? メカニックだって兵士だ。戦場を見渡すのは当たり前だろ」

「そういうもんすか」

「おうよ」


 髭を撫でるムラマサ。そこでにやりと笑う。オウジは首を傾げる。


「で、お前はエメラダとプリンセス様、どっちを取るんだ?」

「は!?」

「ははっ! ま、ゆっくり考えな!」


 そう言って食堂を後にするムラマサ。かつ丼とオウジだけだ残された。

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