第5話 地上部隊
地上部隊が次々に海上に発進していく。敵にはアポソルに似た敵影が数機。辺りに高濃度の偽原子が撒かれ通信網を破壊している。偽原子通信でしか意志の伝達が出来ない。代わりにこちらの地上部隊合計十三機。一気に投入していた。大西洋上を滑る地上部隊のIM「ウォリアー」これも最新型、近接戦に特化している。
アポソルと接敵する地上部隊。それをデッキから眺める事しか出来なかった艦長とオウジ。スレイヤー大佐は戦場へと出ていた。
「どうするんです艦長」
「どうするもこうするもないだろう。今の俺らじゃ見ている事しか出来ん」
「ですが」
「今、飛び出してみろ、自殺行為だ」
それ以上の議論は起こらなかった。その通りだと思ったからだ。アポソルに見える何かとの戦闘は続いている。
「一機大破! 損耗率甚大! 戦線離脱!」
「今のどっちです?」
「
さらに被害は広がって行く。一機。二機と地上部隊が撃墜されていく。
そして――
「一機、こちらに戻って来ます!」
「偽原子通信を開け」
『ザザッ――こちらスレイヤー大佐!――ザザザッ――敵はアポソルではない! 繰り返――』
「どういう意味だ……?」
スレイヤー大佐が帰艦する。彼は滝汗を掻いていた。
「あ、あれはアポソルではない!!」
「敵の新型……?」
「撤退だ! 撤退命令を出す!」
「しかし! それでは護送任務が!」
「我々の知った事か!」
「……何か兵器は?」
「は!?」
オウジがスレイヤー大佐と艦長の口論に割って入った。
「何か兵器は無いかと聞いているんだ!」
「うっ……? わ、私が使っていた
「それをお貸しいただきたい!」
「まさか! あれはウォリアー以前の旧式だぞ!」
「今はそれしか戦力が無いんでしょう!?」
デッキから武器庫へと向かうオウジ、ベルトコンベアなど無視して走った。たどり着く武器庫、幸い内装はベルトコンベア以外マザーと同じだったので迷う事は無かった。
「これか……」
埃を被った巨躯が一機。そこに鎮座していた。
近くのメカニックを呼び止めるオウジ。
「これに乗りたい」
「はぁ!? あんた正気か!? ウォリアーでも敵わなかったんだぞ……分かった先に逃げる気……」
「いいから、早くしろ」
殺気を混ぜて脅した、危うく吐きかけたオウジ。人を殺しかけると吐き気を催すのだ。メカニックは渋々、始動準備をする。
「機体名は?」
「……ガイア」
「気取った名前だ! 旧時代らしい!」
足にキャタピラが着いたそいつに乗り込みオウジは発艦する。
「オウジ! ガイアで出る!」
海上へと滑り出すガイア。新型アポソルの下へと向かう。片手に偽原子崩壊砲。片手に盾を持った旧時代のIM。盾など持ったIMなど今はいない。回避性能に全てを振っているからだ。見ろ敵の新型を。
「あれが――」
オウジが見たのはアポソルの丸いボディにスパイクを生やしたようなシルエットだった。
その顔がこちらを見る。
「確かに物々しいな!」
崩壊銃を一発放つ、すると操縦席でトリガーを引いたのとワンテンポ遅れて、実際に銃が放たれる。
「旧式が! レスポンスが遅いんだよ!」
躱される一撃、ほれ見ろ、機動力の時代だ。敵を囲む事には成功している地上部隊だったが、その圧倒的な性能差で押されていた。
「悪いが! ダミーに使わせてもらう!」
地上部隊の背中から飛び出すガイア。味方を盾にした形だ。しかし、それは新型アポソルに効いたようで。
「自分で目を潰すからよ!」
偽原子を撒き、通信網を破壊したのは失策だったなと嘲笑うオウジ。レーダーが使えないのだから、敵の位置も分かるまい。自らの目視情報しかない状況を見事に利用した。生身の一兵卒上がりならではの戦法……と言いたいところだが。先日の三機のアポソルの連携を見て思いついた作戦とは言えないなとオウジは苦笑する。予め押していたトリガーで崩壊銃を撃つ、タイミング良し。新型アポソルに命中する。
まずは一機撃墜する。
「そのまま囲んどいてくれよ地上部隊!」
またウォリアーを盾にするガイア。ぐるりと回り込んでアポソルの死角を突く。トリガーを押してから飛び出す。
「おっせーな!」
新型アポソル、今度は対応し躱す。しかし、ガイアの行動の意図に気づいたウォリアーの援護射撃があった。それにまで気を回していなかった新型アポソルは、撃ち落とされる。
「このコックピット……大きいんだよ!」
スレイヤー大佐はかなり高身長だった。身長165センチメートルと少し低めのオウジと比べて、大佐専用機のコックピットは広かった。彼は180はあっただろうか。
残る新型アポソルは三機、全部で五機居たという事だ。そこで。
「うっ、ウロロロロロ」
二機分、一気に来た。未消化のうどんが見事に出て来た。どう片づけようかと頭の片隅で考える。いや待て、このIMはどうせ旧式だ。なら――
「――どさくさに紛れて、これごと捨てちまおう」
自分だけ拾ってもらえればそれでいい。そう考えてスッキリすると戦闘モードへと戻るオウジ、出汁の臭いがコックピットに充満する。
新型アポソルを囲む地上部隊。新型はジリジリと行動範囲を狭められる。
「いいぞ……そのまま押さえ込め……!」
その時だった。新型アポソルの跳躍、いや飛行。横に形成された円の中から上の軸を取り入れてそこから飛び出そうという魂胆。しかし。
「狙いの的よぉ!」
目の前のウォリアーの肩を叩く。その方がガイアが撃つより速い。意を酌んだウォリアーが空中のアポソルを狙い撃つ。しかし。その機動力で躱される。
「結局こっちか!?」
トリガーを押す、ワンテンポ遅れて崩壊銃が放たれる。これはチャージに時間がかかるためだ。そうこうしている内に、新型アポソルからの攻撃が降って来る。
片手に持った盾で防御するガイア。幸い一撃を防ぐ事が出来た。
「盾も捨てたもんじゃないな。こんどメカニックに盾の建造を提案してみるか」
そんな冗談を交えながから、新型アポソルとの撃ち合いが始まる。どうしてもワンテンポ遅れて放たれるこちらが不利になる。何か近接兵器は無いかと探す。すると背中にはハンマーが備え付けられていた。
「遺物め……」
仕方なく、崩壊銃を腰にマウントし背中にマウントされていたハンマーを持つ。新型アポソルは煽るように左右に揺れてみせた。ハンマーを抱えて突撃するガイア。新型アポソルは崩壊銃を連射する。盾でそれらを防ぎながら接近する。意外と盾が長持ちしている事に驚くオウジ、旧時代ながら生き残った理由が分かった気がした。
最接近距離。ハンマーの一撃を加える。ひしゃげる敵コックピット。吐き気がこみ上げる。
「ウェエエエエエ」
またも吐しゃ物まみれになるコックピット。気にしないオウジ、いつもの事だ。あの名前だけの撃墜王を汚しているようで背徳感さえ覚える。
「我ながら気持ち悪い!」
色んな意味で。
残り二機。そこで新型アポソルは撤退していく。これでオウジの撃墜数は四十二になった。嘔吐回数も増えた。
「敵も新型を一気に失うのは惜しいと見える」
負け戦に拘らないのは良い事だろう。それに恐らく奴らは斥候だ。西暦派のメガフロートからの尖兵だろう。
辛勝。
なんとか勝てた、旧式のガイアまで引っ張り出して勝てたのは奇跡か。
十三機居たウォリアーは七機にまで減っていた。先に帰艦したスレイヤー含めだ。
五機を六機で囲んでいたと考えると、地上部隊も決して無能という訳ではないだろう。単なる性能差による不利だと思いたい。
対西暦派メガフロートの攻略作戦に置いて地上部隊は果たして役に立つのだろうか。
不安に襲われ。吐き気を催す。
「はぁ……いつになったら終わるんだプリンセス……この地獄は」
届かない相手に声をかける。それは心の底からの吐露だった。
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