第3話 大西洋戦


 マザーは地球にて補給をしてプリンセスを回収するため、イギリスへと向かう。ちなみにマザーの本拠地はアメリカ。遠い旅になる。北大西洋を越えて4242マイル。

 なんとそこには西暦派のメガフロートが存在する。そこを突破しなければならない。そこは地上部隊のスレイヤー大佐に協力を仰ぐことになっている。撃墜数百の本物の撃墜王。オウジは緊張してきた。自分の憧れの存在と出会うのだ緊張もする。


「スレイヤー大佐ってどんな人なんです?」


 艦長に聞くオウジ。

 

「大佐に昇格しても前線に出続ける変わり者だ」

「へぇ」


 ちなみにオウジは自分の階級を把握していない。

 興味も無いからだ。

 ちなみに、他の人間もオウジの事を階級で呼ぶ人間はいない。オウジが断ったからだ。

 艦長と別れて、整備ルームに向かう。


「アーチャーの新装備が届きました」

「新装備?」

「はいミサイルです。遠隔操作型の」

「おいおい、操縦しながらミサイルの操作もしろってのか!?」

「その間、操縦はオートパイロットで――」

「その間に死んだらどうするよ!」


 怒りを露わにするオウジ。しかしメカニックは溜め息を吐きながら。


「ミサイルは目くらましにもなります。理にはかなっていると思いますが?」

「ああ言えばこう言う!」


 正直、自分をテストパイロットか何かと思ってるメカニックの事は好きになれない。

 エメラダを除いて。そのエメラダに近づく。


「なぁ、エメラダ」

「ひゃい! あっ、オウジさん。どうかしましたか?」

「例の遠隔操作型のミサイルだ、なんとかならないか」

「あぁ、あれは私も反対したんですけど……」

「万事休すか……」


 大人しく遠隔操作型ミサイルとやらを受け入れる。誘導ミサイルで充分じゃないかとはいかない。偽原子崩壊兵器はその特性上、センサーの類を詰め込めないのだ。偽原子の崩壊現象はあらゆる通信を阻害するのだ。オウジは溜め息を吐く。

 センサーを阻害するなら通信も阻害するのでは? というのは最もな意見だが。偽原子通信なるものが存在する。偽原子は偽原子と偽原子を繋ぐパスが存在し、それによって介入が可能だ。それが遠隔操作の仕組み。

 偽原子同士のパスは特殊であり、他人の介入も可能ではある。それが高速戦闘中で可能であるかは不明だが。

 プリンセス護送任務は明日からだ。もう一度、自室に籠って休養を取ろうとオウジは帰路に着いた。


 翌日。


「えー、では作戦の確認をする、大西洋を渡ってイギリスへと向かう。その間でのテロリスト『青き大地』はそこでは襲ってこないだろうが、パイロット諸君は一応、出撃待機をしていてくれ」


 艦長からの言葉。仕方なく、アーチャーの居るドックへと向かう。


「あ、オウジさん、アーチャーの名前変わりました」

「あん?」

「『ブレイバー』です。ミサイル搭載に際して機体名も変更になりました」

「まあ、名前なんてどうでもいいが……もう遠距離仕様だというのを諦めたな」

「そうですね」


 このオウジが名前も知らないメカニックは、なにかとオウジの神経を逆撫でする。

 遠距離戦闘だと吐き気が少なくて済むのだが……まあ変わらないだろう。吐く回数は。


「あっ、オウジさん!」

「ああ、エメラダ。アーチャーの名前変わったんだな」

「それですか……それも反対したんですけど……今回からマルチロール型に変わるそうで」

「今までも十分そうだったろうに」

「そうなのですが」

「ああ悪い、エメラダを責めてるわけじゃない」


 頭を掻くオウジ、困ったなと言った雰囲気。エメラダは微笑を浮かべ。


「いいんです。それより、あの、オウジさんってプリンセス様とどういったご関係で?」

「……幼馴染、かな」

「そっか、オウジさんゼンノウ家の人ですもんね。人脈も広いですよね」

「まあね……」


 俺は苦笑いをする。プリンセス、よく夢に見ていた彼女。目の前に現れ彼女を歴史の変わる調印式に護送する。それに運命を感じないではない。


 偽原子搭載艦マザーはイギリスへと向かってアメリカを発つ。


 オウジは来たる戦闘に吐き気を抑えきれずにいた。そもそも何故、オウジは吐き癖がついたのか。オウジは過去、歩兵として戦っていた。しばらくは後方支援だったが、しばらくして前線にて人を撃ち殺した。それとIMを撃墜している時とがデジャヴする。死体の生生しさに初めて嘔吐した体験と重なる。これが、吐き癖の原因だ。言葉にすれば簡単だ。しかし事はそれほど単純ではない。

 今の今まで治っていないのだから、これはPTSDのようなものだろう。本当なら医者に診てもらった方がいい。だがオウジはそれをしない。ゼンノウ家にバレたら、落ちこぼれの烙印は剥がれる事は無いだろう。だから治さない。治らないのではなく治さない。それがオウジの流儀だった。


 大西洋の真ん中までたどり着く。その時だった。


「センサーに艦あり! 青き大地のモノと断定!」

「ちぃ! 『ファザー』か!」


 ファザー、マザーを建造した新暦重工に対して反抗するように作られた西暦重工の製造艦。多数のアポソルを搭載し、移動する。オウジはブレイバーに乗り込み。発進する。


「ゼンノウ・オウジ! ブレイバー出る!」


 大量に出て来るアポソル。それらをターゲットサインに入れる。


「これがミサイルのターゲットか。ええいままよ!」


 遠隔操作ミサイルを発射する。数は十発。


「これをまとめて操作しろってのかよ!?」


 操縦をオートパイロットに切り替える。ビジョンがミサイル視点に切り替わる。十面に分割される画面。全てが違う景色を映す。

 敵機のアポソルも十機。全てに目線を目まぐるしく送る。


「一番から三番は右の奴! 四番から六番は左! 七番から十番は真ん中! いっけー!」


 ミサイルが一斉射される。それらは最初は無軌道ながらも徐々にアポソルへと向かっていった。

 アポソルは自分を追尾するミサイルを迎撃しようと崩壊銃を撃ち放つが。


「躱せよ!」


 ミサイルがおかしな方向へと向かう。アポソルの後ろへと回り込むミサイル。命中。一機撃墜。

 残り九機。

 ミサイルとぐるぐるとダンスを繰り広げるアポソル捉えて、唱える。


「ブレイバー! 二番目の敵を撃て!」


 オートパイロットに命じる。それで崩壊銃を撃ち放つブレイバー。ミサイルが当たる前にアポソルが撃墜される。残ったミサイルで三機目、を挟み撃ちにする。これで残り七機。ミサイルを敵の死角に潜り込ませ、撃墜する。残り六機。

 ミサイルよりも先にブレイバーを叩こうと動くアポソル。それを狙ったかのように。その後ろからミサイルをぶつけるオウジ。

 残り五機、四機、三機。

 近接戦闘距離にまで迫られる。

 変形して近接格闘モードへ。

 二刀流を披露するブレイバー。

 しかしそれは囮。


「ブレイバー! 真正面のアポソルを切り落とせ!」


 一機を真正面から斬り捨てて、残ったミサイルでもう一機撃墜する。残り一機、残るミサイルは二発。味方を失い慌てふためくアポソルをミサイルで撃墜し。残る一発のミサイルをファザーへと向ける。


「墜ちろよ! ウォロロロロロロロ!」


 一気に撃墜した分の嘔吐がやって来た。

 ファザーに当たったミサイルは光輝き崩壊していく。

 ファザーは墜ちた。

 これにて大西洋戦はマザーの勝利を収めた。

 そしていよいよ敵のメガフロートへと着く。

 ここからが地獄だぞ。オウジは心の中でそう思った。

 吐しゃ物の掃除をしながら。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る