普通じゃない

 何を作ったらいいものか。


 考えあぐね、サルヴァドールはリリーを連れ、市場にやってきた。新鮮な魚、分厚い肉、色鮮やかな野菜と果物――何を見ても、彼は首を横に振る。


「どの料理も好きすぎて選びきれないよ」


 リリーは返事もせず、ピクピクと小さな地獄耳を動かしていた。サルヴァドールを遠巻きに見る者たちがこそこそと囁き合っている。


「おい、また変わり者のサルヴァドールが来ているよ」


「旅立つ者に料理をふるまうんだろう? 一緒にどこかへ連れていかれそうで不気味じゃないか」


「もともとあいつは普通じゃないよ。かわいそうなやつだ。みんなのように幸せを追いかけることなく、口を開けば料理のことばかり」


 リリーは大好きな仲間の陰口にすっかり腹を立てていた。けれど、サルヴァドールがその様子に気づいてくすりと笑う。


「気にしていないよ。昔から私は普通じゃないと言われてきた。でも、普通って自分が真ん中にいるものの見方だ。だから普通は人それぞれなのさ」


「たしかにヨナじいさんもそんなこと言っていたけど」


「生きやすい世の中だと信じたいんだよ、あの者たちはね。そして生きずらいと感じることが怖いだけなのだ」


 サルヴァドールはそう言いながらも、リリーが自分のために怒ってくれたことを嬉しく思った。

 少しばかり笑みがこぼれた彼を見て、リリーが首をかしげる。


「何を笑っているの?」


「うん、まあ、いいじゃないか。それよりもリリー、君がたそがれのひと皿を食べるとしたらなんにする?」


「そうね」


 リリーが少しの間考え、きっぱりと言った。


「私はぶどう酒がいいわ。暖炉の火であたためて、たっぷりの蜂蜜と果物と香辛料を入れるの。眠る前に一息つくような気持ちになりたいから」


「なるほどね、一息つくというのもいいね。まるでシチューがことこと煮えている音を聞いている気分かな」


 長いくちばしをさすり、サルヴァドールは買い物カゴにぶどう酒を入れた。

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