ヨナじいさんの忠告

 旅立ちのときがきた。夕陽が山の向こうへ沈みかけ、地平線から宵闇が忍び寄っている。


 ヨナじいさんが小舟に乗り込み、ホオズキの明かりに照らされた。川守たちに向かって深々と礼をする。

 すると、リリーがヨナじいさんの頭のてっぺんに小さなキノコが生えているのを見つけた。


「おやおや、これは」


 ヨナじいさんはキノコを見ていたが、すっとサルヴァドールに差し出した。


「これはあんたにやろう」


「なんだい?」


「ワシはキノコの模様で占いができる。これにはあんたのことが出ておる」


「なんて?」


「明日になればわかる。だからワシから最期の忠告じゃ。落ち着いて、よく周りを見ることじゃよ」


 そう言い残し、小舟が流れ出した。ホオズキの明かりがぼんやり小さくなり、やがて闇の向こうに呑まれていった。


 リリーの持つ客のリストに、サルヴァドールの名前が浮かんだのは翌朝のことだった。


「困ったな、私じゃないか」


 サルヴァドールはすっかり仰天して、ヨナじいさんのキノコに目をやった。烏の濡れ羽色をしたカサを見ていると、不思議なことにすっと気持ちが落ち着いた。


「まさか自分のためにたそがれのひと皿を作らなきゃいけないなんてね。明日というものは他人が作ったパイみたいにあけてみないと中身がわからないものだ!」

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