お味はいかが

 小屋の扉を開けると、ふわりといい匂いがした。台所からはサルヴァドールの声。


「席につきたまえ。たそがれの時だ」


 少し気取った、けれどお茶目な声だった。

 ウタカタンを旅立つ者が最期に口にする料理――たそがれのひと皿を振る舞うのが、サルヴァドールだ。


 川守たちは全員で食卓を共にし、小舟に乗り込むのを手伝い、川をくだるのを見送るのが仕事なのだ。


「ヨナじいさんのひと皿はなんだろう?」


 レミーたちがテーブルへ行くと、もうヨナじいさんとリリーが席についていた。真っ白い清潔なテーブルクロスの上にはティーセットがのっている。


「あれ、今日は料理というより、お茶だね」


 バルカロールが驚くと、ヨナじいさんがくくっと笑う。


「孫が好きでね。ワシもお茶を飲んでみようと思いつつ酒ばかりだったものだから、最期に是非にと」


「へえ。普通、自分が一番好きで食べたい料理じゃないのかい?」


「普通かどうかはワシが決めることじゃ」


 そのとき、サルヴァドールが台所から出てきた。手にはケーキの乗った皿がある。その断面にはナッツとドライフルーツがぎっしりだ。


「けれどお酒も欲しいでしょう? お茶菓子は火酒をたっぷり染み込ませたフルーツケーキです」


「これはこれは至れり尽くせり。結構、結構、おおいに結構」


 彼らは穏やかなひと時を過ごした。

 最後にヨナじいさんはこう言った。


「やはり一度は孫と一緒に飲むべきだったかもしれんがな、一つくらいはやり残したことがあるほうが、またここに戻ってきたくなるじゃろう」

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