第15話
王太子エドワード一行は
ロンバルディア星系の主星はスペランツァで、第三惑星テラノーヴォと第四惑星テラドゥーエが有人惑星である。
二つの有人惑星は二千年以上前の第一帝国時代、現代よりはるかに進んだ技術でテラフォーミング化されている。そのため、いずれも緑と水が豊かな農業に適した星であった。
ロンバルディア星系は第一帝国崩壊時、内戦の影響を受けて一旦放棄された。しかし、約千二百年前、SE三三〇〇年頃の第二連邦時代に新たな移民が入植し始めた。
入植可能地がふんだんにあり、地味豊かな農地が容易に手に入るため、ロンバルディアの人々は争うことなく、外に目を向けることもなかった。
しかし、同時期にペルセウス腕に入植し、成立した国家は勢力圏の拡大に積極的だった。ロンバルディア星系の移民たちはそれぞれの惑星に地方政府を作っていったが、統一国家の必要性を感じ、地方政府の連合体として、ロンバルディア連合という国家を成立させた。
統一国家となったものの、国力的には隣の大国、スヴァローグ帝国に抗しがたく、FSUに加盟する。
対外的な脅威により統一国家となったが、同格である二つの地方政府が合併したことから、ロンバルディア連合の政治形態は特殊なものとなった。
まず直接選挙で大統領などの国家元首を定めることができずにいる。
これは同格とはいえ、テラドゥーエの方がテラノーヴォに比べ、僅かに人口が少ないためで、テラドゥーエの理解が得られなかったためだ。
そのため、国家元首は間接選挙で選ばれた行政府の長である首相となっている。
更に意思決定方針に大きな問題はあった。
外交などの重要な事項については、二つの地方議会での承認が必要となる。
いちいち二つの議会に説明が必要であり、それだけでも時間がかかるが、更に二つの地方は絶えず互いを牽制しており、政治ゲームによって迅速な政策決定が難しかった。そのため、軍事行動ですら決められたプロセスのもの以外、迅速に行うことができない状況であった。
ロンバルディア国民の気質も特徴的だ。
彼らは基本的には穏やかで陽気な人々だが、見栄っ張りなところがあり、FSU内での発言力を強めようと画策した。その結果、タカマガハラ会戦で各国との協調を乱し、敗戦の原因を作っている。
また、基本的には農業国家に過ぎず、のんびりとした気質の国民性が災いしたのか、工業製品の品質が低い。そのため、日常使われる品以外はヤシマからの輸入に頼っていた。当然、最新のテクノロジーの塊である軍用装備はヤシマ製である。
彼らもこの状況が危険であることは理解しており、当初はヤシマからライセンスを購入して軍艦を建造したこともあった。しかし、その結果は惨憺たるもので、ヤシマから直接購入する方針を変更できなかった。
この件に関しては絶えず対立している二つの惑星が一致した見解を出したほど酷かった。
その影響は現在暗い影を落としている。
戦災から復興中のヤシマから軍艦等を輸入することは困難であり、タカマガハラ会戦での艦隊の損失を補充することができず、隣国であるスヴァローグ帝国の脅威に対し、無防備に近い状態が続いていた。
キャメロット第一艦隊第一特務戦隊、通称王太子護衛戦隊はヤシマ星系に接続する
ロンバルディア星系には大型の要塞はなく、クリフォードは想像以上に無防備な印象を受けた。
(軍事衛星がいくつかあるだけで要塞と呼べるものがない。これで二つの有人惑星を守ろうとすれば、圧倒的に戦力が足りない。この状況ではJPに要塞がなければ、帝国に簡単に攻め落とされる。しかし、なぜここまで無防備なのだろうか……)
クリフォードと同じく、ロンバルディア軍も防衛計画の欠陥を把握していた。それも二百年以上前から。
その当時から要塞の必要性を議論していたが、ロンバルディア人の気質と政治的な不安定さ、更には帝国内で絶えず内戦が起きているなどの事情から、膨大な予算を必要とする要塞の建設は実現せず、現在に至っている。
それでも現在の危機的な状況を受け、スヴァローグ帝国のダジボーグ側JPに大型要塞を建設する計画が両議会で承認された。
しかし、その建設を担うのはヤシマであり、その復興がなければ、絵に描いた餅に過ぎない。また、今すぐに建設を開始しできたとしても完成には最短でも十年は掛かると言われており、数年以内と予想される帝国の侵攻に間に合わないことは確定的だ。
テラノーヴォに到着した王太子護衛戦隊は衛星軌道上にある軍港に入港した。
王太子はシルヴィア妃と外交使節団、そして護衛の宙兵隊を伴い、惑星テラノーヴォに降り立った。
クリフォードは宙軍の代表として、ロンバルディア軍から頻繁に招待された。ロンバルディア側は当初若すぎる彼に驚きを隠しきれなかったが、多くの武勲を挙げた英雄であると知り、更に驚く。
彼らはクリフォードが王家出身の縁故で艦長になったものだと思い込んでいたためだが、経歴を照会したところ、彼らにとっても宿敵であるゾンファに多くの損害を与えたと知り、更に熱烈に歓迎されることになる。
そのため、頻繁に艦から離れることになり、デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]はサミュエルが管理することが多くなった。
サミュエルは慣れない外国の軍港に戸惑いながらも、堅実に艦を運用していった。
クリフォードはロンバルディア軍関係者との会合を通じ、情報を収集していった。そして、ロンバルディアの軍人が非常に楽観的であることに危惧を抱く。
「帝国が艦隊を整備するには五年は掛かる。それに一箇所に軍を集めれば、内乱が始まるよ」
「FSUの軍事協定を改訂すれば、向こうも手を出せない」
「アルビオンにも期待している。帝国が一人勝ちすれば貴国も困るのだからな」
そんな意見が多く聞かれたのだ。
(軍人ですら危機感がない。やはりこの国は危うい。少なくとも皇帝は自分の在位中に内乱が起こらないように手を打っているはずだ。それとも、これも敵の謀略の結果なのか?)
半月に渡る王太子の訪問行事が終わった。
外交使節団は引き続きロンバルディアで交渉を行うが、王太子は引き返すか、シャーリアに向かうか決める必要があった。
ロンバルディアで得られた情報では、シャーリア法国において異常が発生しているというものはなかった。
侍従武官のレオポルド・マクレーンはその際にも意見を問われ、反対を表明したが、理由を説明できず却下され、予定通り訪問することが決まった。
しかし、王太子妃シルヴィアは外交使節団と共にロンバルディア星系に残ることになった。
公式には長旅の疲労となっているが、危険な星系に妃を伴うことを王太子が嫌ったという噂が戦隊内では流れていた。
十二月十二日、王太子一行は十二パーセク(約三十九光年)先のシャーリア星系に向けて出発した。
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