第11話
彼の作戦案の概要は、まずブルーベルの攻撃でスクリーン外、特に恒星側のセンサーを破壊する。
そしてブルーベルがベースの入口側に回りこむ直前に搭載艇である
アウル1はステルス機能を全開にした状態で慣性航行を行い、小惑星に接近する
その後、ブルーベルがベースに近づき、ベースに関する情報を収集した後、最終の作戦案を検討し、それを高集束レーザー通信でアウルに送る。別働隊はその指示に従って行動を開始する。
アウルは小惑星の恒星側に死角となる窪みに隠し、小惑星上を人員のみで踏破する。
距離は直線距離で約十キロメートル。重力が無いに等しい小惑星であるので、ジェットパックを使えば一時間も掛からずに接近できる。スクリーンの外側に到着後は、ブルーベルからの事前情報を頼りに破壊されたセンサー類の残骸を探す。
センサー用のケーブルからシステムに侵入し、配置図等を入手し、通商破壊艦の行動に制限を加えられるベースの動力源、制御装置、燃料貯蔵庫、整備用機械、防御スクリーンなどから目標を選定した後、出入口を見つけ、敵ベースに潜入する。
重要施設を破壊し脱出。逆ルートでアウルに戻り、ブルーベルに帰還する。
想定している人員は二十五名。士官二名と技術兵十名、その他は艦内でも接近戦を得意とする者を選抜する予定だ。
更にデンゼル大尉はこの作戦が失敗したときのため、できるだけ艦の運営に影響が出ないような人員を選ぶつもりでいた。
(候補生を連れていくのは止めておいた方がいいな)
彼はこの危険な任務に経験の少ない候補生を加えないでおこうと考えていた。
(経験云々を言い出したら、この艦の人間は全員未経験なんだよな……)
以前、ロートンが指摘したように敵基地への潜入作戦は第三次アルビオン-ゾンファ戦争終戦以降、一度も行われていない。
戦争中も宙兵隊による強襲作戦が何度か行われただけで、小型艦による奇襲作戦が行われたのは数十年前のスヴァローグとの紛争時が最後だった。
(歴史に名を残すのは間違いない。英雄としてか、愚か者としてかは分からないが……)
彼はコリングウッド候補生の作成した“実習”作戦案をもう一度見直し、自らの作戦案と見比べていた。
(これが試験なら、ほとんどカンニングだな。しかし、彼の作戦案の考察にもあるように、これだけ情報が制限されると賭けの要素が強すぎるから作戦案通りには行かないだろう。結局、臨機応変の対応ということか……)
クリフォードの作った作戦案は、いくつかの選択肢ごとに対応策が並べられていた。
例えば、ベースのシステムへのアクセスを失敗した場合の対応策として、二つのグループに分け、一つのグループが強襲を掛けている間に他方が破壊工作を行うなどの概念的な方策が記載されている。
(私に臨機応変の才があるのかと言われれば、間違いなく“ノー”と答えるだろう。今回、私が指揮官に選ばれたのは、副長に次ぐ先任順位ということもあるが、今回の作戦では航法長が最も不要なポジションだからだ。クリフの言葉ではないが、別働隊が全滅してもブルーベルが残れば、祖国にとってリスクはない。私が死んでもブルーベルにリスクがないと考えれば、艦長が選んだ理由も分かるというものだ)
彼が考えるほど航法長の責務が小さいわけではない。しかし、このトリビューン星系のような航路情報が充分にある星系で行動する場合は
彼は作戦案をもう一度確認すると、艦長の
艦長室にはエルマー・マイヤーズ艦長とアナベラ・グレシャム副長、次席指揮官になるナディア・ニコール中尉が待っていた。
デンゼルはすぐに作戦案の説明を始めた。
「案はお送りした通りです。概要は……別働隊の人員については、志願した者から選抜します。もちろん、技術兵は
「候補生は二人とも連れていけ。君とナディアに一人ずつ付ければ何かの役に立つだろう」
「候補生を連れて行くのですか!」
デンゼルは思わず、声を上げるが、すぐに冷静になり、意図を確認する。
「今回の任務に余剰人員を連れて行く余裕はありません。お考えを聞かせてください」
「余剰人員ではないよ。ラングフォードは人間的な完成度はまだまだだが、能力は高い。コリングウッドは少なくとも射撃の腕だけなら艦内一だろう。これだけでも連れていく価値はある」
マイヤーズの説明にデンゼルは困惑し、「
「
「ミスター・コリングウッドはよく分からないですけど、ミスター・ラングフォードは少なくとも緊張のあまり馬鹿なまねをするような子ではないと思います。私は艦長の命令に従います」
ニコールはいつものおっとりとした感じではなく、少し緊張気味に答える。
彼女は哨戒任務しか経験がなく、未だ戦闘経験が全く無い。デンゼルは彼女がいきなり潜入部隊の次席指揮官になったことで、ひどく緊張していると感じていた。
(それを言ったら、私も同じか)
デンゼルがそんなことを考えていることに関係なく、艦長は計画案の確認作業を開始した。
「では、詳細をもう少し詰めようか」
士官たちは問題点を一つずつ確認していった。
(常識的に考えれば、クイン中尉かニコール中尉が次席指揮官でミスター・ラングフォードとベテランの下士官が付くはず。学校を出てまだ一ヶ月の僕に出番はない……)
彼はそう思いながらも自分が選ばれればいいのにと思っている。
(子供っぽいと言われようとも、こういう
その時、彼のPDAに“至急、
彼はすぐに飛び起き、一デッキ上のワードルームに走る。
途中で同じように走るラングフォードと合流する。
「何だ、ミスター・コリングウッドも呼ばれたのか。じゃあ、潜入部隊に選ばれたわけじゃないな」
ラングフォードは嫌味ったらしく声を掛けてくる。
「何の話なんでしょう?」と彼が聞くと、ラングフォードは「行けば分かる」とだけ答え、そのまま走っていく。
士官集会室の前に到着すると、ラングフォードが「ラングフォード候補生、及びコリングウッド候補生です! 入室許可願います」と声を上げた。
扉が開くと、艦長、副長、デンゼル、ニコールに加え、機関長、掌帆長、掌砲長が座っていた。
艦長が「ご苦労」と一言言うと、二人にすぐに空いている椅子に座るよう指示した。
「潜入部隊に君たち二人も選抜するつもりだ。デンゼル大尉、ニコール中尉に何かあったときは君たちが指揮を執る可能性もある。責任は重大だが、志願するつもりはあるか?」
そう艦長が問いかけると、二人は間髪入れずに「「
二人の姿に年長者たちは苦笑するが、すぐにグレシャムが引き締めに掛かる。
「今回の任務は危険なのよ。そこのところはきちんと理解しているでしょうね。あなたたちの失敗が任務の失敗、人員の損失に繋がるのよ」
艦長はそこで話を引き取り、
「では、デンゼル大尉から作戦案を説明してもらう。その後でチーフたちの意見を聞き、志願者を募ることにする。作戦開始時刻は今から十五時間後の〇三〇〇となる……」
その後、二人は興奮気味にデンゼル大尉からの作戦案の説明を聞いていった。
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