シン・エヴァンゲリオン劇場版 ー21.3.23.

監督:庵野秀明


【人生を癒す】

最初の緊急事態宣言中に、初めて「序」「破」「Q」だけを見る。

そう、それ以前のテレビアニメ版も劇場版も全く見ていない。

にもかかわらず宇多田ファンでもあるし、大きなスピーカーでお歌も聞いてみたいし、最後だし、と劇場へゆくことに。


完結、総決算等々、感慨深さはおいておいて、

ともかく作画はスゴかった。

ユーチューブで先行公開された冒頭10分少々を見た時も否応なく思い知らされていたが、やはりモノスゴかった。

2Dでの鑑賞だったが、しかしながら一見してわかる映像技術のあれもこれも、それもどれものごちゃ混ぜ感が、しかしながらシームレス、

ない違和感が、もう独特で不思議でたまらなかった。

とにかく凄まじい。

これはリクツ抜きに一見の価値ありと思う。

凝りに凝りまくったそれらと、その力が存分に発揮された迫力満点の戦闘シーンは、

誰が何と言おうと唯一無二。

物語は置いておいて、「動き」と「アングル」はまさに変態の域。

あれはすごすぎて、ちょっと狂気を感じた。

なかなかお目にかかれたものではない。(3.16.観劇後)



というわけで置いておいた物語に関して。

これは監督の人生そのもの。

メタファと鑑賞する。

ゆえに登場人物それぞれも(おそらくマリ以外)、

葛藤も経て得た昇華も、個々の出来事のようで全てが、

たった一人の膨大な苦悩と挑戦の投影(独り言)だと鑑賞した。

まあ作品とはおうおうにしてそういうものだけれど、

本作はなお濃く、さらに意識的に表現されていたと強く感じる。


見せつける様は、己の傷口を開いて晒すかの如く残酷ショーのていがある。

だから目が離せず、大いに痛みへ共感するのだとして、

見終えたそのあと決して「ブラボー」と称賛する気持ちにだけはなれなかった。


キリストは多くの人の罪と苦悩を背負って、刑に処された。

劇中にも登場する宗教のそれは、

普遍的苦悩を作品として世に出すことで人柱を体現した監督そのもののようで、

刮目し、共に過ごした者としてはただ

胸にしまって癒し続けるしかない、

と、感じずにはおれない。(3.23.追記)



そういう意味では某サロンが宗教っぽいと噂の映画よりも、

こちらの方が本格的に宗教だとも考える。



以下、ごく個人的心象を述べるなら、

そんな物語のデキに関しては少々疑問が残っている。

謎が謎を呼ぶ展開や難解なワードが飛び交い、「視聴者を巻き込む」スタイルを確立した作品としては偉大だが、

どうも巻き込まんがため、それとも卑屈がクソ真面目に煮詰まり過ぎたため、

簡単にすむものをあえて難解にしてしまったようで、

(右回りが早いのに、あえて左回りで行くような)

その難解さへ収集をつけるためさらなる理屈が必要となったような、

賢過ぎて無知の知が欠けているのか、

ともかく全体を通してスマートさをあまり感じることができなかった。

とにかくモチャクチャと無駄に混乱しているような気がしてならない。

(もちろん自分のことを棚に上げて言う)


「序」「破」「Q」を通して見た際、最初に過った感想など、

庵野さん、実は行きあたりばったりじゃないのか、

くらいなほどに、だ。

だからスリリングではあるのだが。


ただし、その「歪さ」がこの作品を唯一無二に仕上げていることは確かで、

その歪さが、こうも気持ちに引っかかり続けるのだろうなとも考えている。



岡本太郎も「あら、綺麗な絵ね」と言われると、全然ダメだ、と感じたらしい。

なぜなら整い過ぎて、それっぽっちの言葉で語り尽くされ、

目にした人もそれきり絵の前を行き過ぎてしまったりするような程度だからだ。

絶句するような、動けなくなるような作品にこそ感動は宿る。

本作はまさに、太郎の言うところのモノなのだろうな、と思う。


ゆえに物語のつじつまを、あえて鑑賞者の中で合わせる必要もないと考える。

本質はそこにない。

ブルース・リーではないけれど、

「Don't think, feel」魂で理解せよ、とか。



これをモノカキへ落とし込むならば、だ。

整い過ぎると安定感はあり一定のレベルには達するが

残らない、

ありふれた、

作品になるアレだな、と考える。

そんなこともまた再確認した一作だった。


庵野さん、お疲れ様。

次作、次次作、何が出ても楽しみにしています。

他に見た庵野作品、「シン・ゴジラ」「キューティーハニー」もまたそのうち。「トップをねらえ!」も、もう一度見たいな。

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