8.みこ様の初登校は前途多難!?
ボクらは高校の最寄り駅である『氷山駅』に着いた。
もちろん、着くまでの間もずっと腕を絡めたままだった。
それとみこが美少女すぎるということもあり、周囲からの視線はボクを敵視する視線が7割で、残りの3割が美少女の胸とスラリと伸びた足に注がれた。
しかも、この急行電車は大都市への通勤・通学客が多く利用する路線ということもあり、ボクの通学する時間帯はいつも乗車率が150%くらいまでいってしまう。おかげで、みこが潰されたり、痴漢されたりしないようにドア側に彼女を立たせて、ボクがその前に向かい合わせになるように立って防御の役割を果たした。
おかげで電車に乗っている20分間は壁ドンならぬ、ドアドンをしてしまい、目の前にみこの顔がある状態ですっげー恥ずかしかった。
そ、それとこれはみこも気づいていたかもしれないが、電車が揺れるたびにみこの二つの膨らみがボクの身体と何度も接触していた…。
これ、他人にやってたら間違いなくアウトなヤツだ―――。
みこもお願いだから、表情に苦悶を浮かべるの止めて…。
何だか、ボクがイケナイことしてるみたいじゃないか…。
いや、事故とは言えどもイケナイことなんだけど…。
駅を降りてから10分ほど歩くんだけど、たあが10分だと思うだろう?
されど10分だった……。
この10分間はかなり敵視され続けた。
「あれ誰?」
「うわ、モテなさそうな顔してるのに、何であんなカノジョ連れてんの?」
「あの子誰? メッチャ可愛いじゃん!」
「何? あのアイドルみたいな子!?」
「何であんなダサダサの男にあんな子がイチャイチャしてんだよ!」
ううっ…。苦しすぎる。防御能力の数値が低すぎるボクにとって、周囲の言葉は毒牙のナイフのように傷つけ、徐々に毒に
脳内では、『あなたのライフはゼロよ! もう無理はしないで!』と警告されている。
でも、みこはお構いなしだ。
「みんなが妾たちを見てるぞ~。何か一躍有名人って感じじゃな~」
何でこの周囲の視線を好意的に受け取れるの、君は?
ボクがゲンナリとした表情をみこに向ける。
「ぬぉっ!? どうした、雄一!? もはや死にそうではないか!?」
「え? そう?」
「もしかして、妾が腕を組んでいたので、お主が敵と認定されたのか?」
「うん…。まあ、そんなところかもね…」
「うう…。少し反省する…。妾はそういうつもりは全くなかったのじゃ…」
「みこの気持ちはわかってるから大丈夫だよ」
「うむ! じゃあ、妾がお主を守ってやるからな!」
みこはさらにボクの腕をギュッ!ときつく抱き着いた。
ねえ、本当にボクが伝えたい本当の意味伝わってるの!?
ボクはみこに守られ(?)ながら、教室へと重い足を一歩一歩踏み込んだ。
教室に入ったときのセンセーショナルな周囲の反応と言えば、もうボクは危うく昇天しかけるところだった。
すでにみこは職員室に着いて、編入学関連の伝達事項などが話されていることだろう。
ボクは単身、自分のクラスに乗り込んだのだが―――。
自分の席までの10秒から20秒が物凄く時間が遅く流れているようにすら感じた。
窓際の一番後ろ、ここが今のボクの席だ。
公正にくじ引きで決まったのだから問題ない。
席に座ると、真っ先にやってきたのが、都築だった。
都築大和。中学生のころからのボクの友人だ。弓道部に入っていて、根っからの真面目人間。彼の言うことに嘘はないと周囲の人間すら、いや、学校の先生からすら一目折れている存在だ。
彼とは嘘偽りのない腹を割って話せる間柄で、いつも色々と助言をしてもらえて助かっている。『困ったら都築』というボクの中での格言があったりするくらいだ。
「なんか、朝から凄かったねぇ…」
バツの悪そうな顔をして、返事に困るボク。
それを見て、フフッと都築は面白がりながら、
「ゴールデンウィーク明けに突如として、リア充で学校にご帰還、お疲れ様です」
「お前までからかってくるのかよ…」
「まあ、もともと女の匂いすらなかった雄一がメッチャ可愛い子を連れて歩いていたって話でもちきりだったからね」
「ちなみにボクも正直、何でこうなったのかは…わかんない…」
「まあ、親戚の子なんだろ? 別に親戚のだったら、イチャイチャしててもおかしくはないけど…。ただ、進学校のそういう経験のない男子にはキツイんじゃないのかな?」
「いや、ボクも実際、そういう経験皆無だからそっちの仲間なんだけど…!?」
「でも、今日の様子ではもうすでで
いやいや! 大きな声でそういう会話すんじゃないって!
絶対に勘違いされるでしょうが!?
「都築…。ボクはまだ捨ててない…」
「バーカ…、冗談に決まってんだろ? 焦ってる雄一も面白いな…」
真面目な表情でたまに雑に冗談をぶち込んでくるから、対応しきれなくなるんだよな…。こと恋愛関係は未経験すぎて、対応に苦慮する。
「で、その子ってこのクラスに入ってくるの?」
「ああ、そうなるらしいよ。まだ分からないことが多すぎるだろうから、ボクがある意味保護者替わりだってさ…」
「保護者であり、恋人ってこと?」
「うーん…。恋人ってことでいいのかなぁ…」
「なにそれ? 付き合ってるか、付き合ってないか。それだけのことじゃん。難しいことなんて一つもないのに…」
うーん。そうなのか…。
ボクはみこにとって『限定カノジョ』として今はなってくれている。
ボクが女の子との経験を増やして、本当に好きな子と付き合いが出来るように。
てことは、一応付き合ってるってことになるのか…。
その辺はまた、みこと擦り合わせしておかないと余計な問題が起こりそうだな…。
「ま、俺にとってはどちらでもいいけどね…」
「どっちでもいいんかい!」
「そりゃそうさ…。陰キャで一人キャンプ大好きで光合成に弱そうな雄一君が念願のカノジョ持ちとなれば、嬉しさの方が大きいからね」
「うーん。喜んでくれているのだろうけど、前の方刺し過ぎ! ボク、死んじゃうから…」
周囲では、ボクらのボソボソとしている会話に聞き耳を立てている生徒が複数名いるけど、敢えてこちらも聞こえない程度にボリュームをさらに調整して話をしているから、聞こえていないはずだ。
一部の集団は、ボクから直接話を聞き出そうと企んでいるのか、そわそわとしている素振りが手に取るようにわかる。
だが、都築が話を折らずにずっとしてくれていることから、その集団もボクに絡めずにいている。
本当に恩に着るぞ、都築。
ボクらが会話を止め、都築が自身の席に戻ろうとしたときに、予鈴が鳴り、担任の
「起立―――っ! 礼! 着席―――っ!」
日直が号令をかけると、ボクらはビシッと立ち上がり、軍隊のように卒のない動きで礼をして、着席する。
「皆さん…おはようございます……。欠席は…相田くんのみですか…。では、伝達事項を伝える前に本日より転校生がいますので、紹介します。月見堂さん、こちらに」
小原先生に促され、小さな声で「はい」と返事をし、教卓の横に立つ。
朝、ボクの腕に絡みついていたイチャデレ女子とは全然違う清楚さを醸し出している。
小原先生が「では、自己紹介を」と促されると、
「月見堂みこと申します。先日こちらに越してきたばかりで何かと分からぬことが多いので、皆さんに教えていただけるかと嬉しく思います。よろしくお願いいたします」
凛とした声でそう自己紹介をすると、ぺこりと姿勢よくお辞儀をする。
顔を上げると、みんなに向けて、ニコリとひとつ微笑みを投げかける。
クラスのみんなはその微笑みに、ちょっとざわつく。
そりゃそうだろう…。
みこは控えめに見てもその辺のアイドルグループより可愛い。
そんな美少女がみんなに微笑みかけたんだぞ…。
思春期でお盛んな時期の高校生にとって勘違いするヤツが現れてもおかしくない。
逆に心配になる。
今ので近づきやすい子だと思われてしまったら…。
(ん? 何でボクが心配なんかしているの?)
そりゃそうだ。
だって、みこはボクにとって、『限定カノジョ』なんだから、そのうち離れ離れになっちゃうのに、そんな彼女のことをボクが心配しているのは何故なんだろう…。
さらに、みこは続けてこう言った。
「
――――――――!?
あ、アイツ…、何言ってんの―――――――――っ!?
ボクはさらっと言いのけたみこを恐ろしく思うと同時に、今日一日を無事に送れるのかが不安になる。
「まあ、高校生だし、君たちは遠い親戚同士で昔から遊んでいたとも聞くので、別に付き合うのは構わないが、公序良俗に反するような行いをした場合は退学となるので、周りの皆さんも氷山高校生として自覚を持って過ごすように…」
小原先生、最強ですか、あなたは―――。
みこの爆弾発言をまさかの氷山高校生の自覚へと問題をすり替えてしまえるんですか…。それを教育という形で締めくくれるのってある意味凄い。
「では、月見堂さんは後ろのあの空いている席を使いなさい」
みこは転校生ということで、新しく設置された席を
まあ、ボクの横の席なんだけどね…。
座るや否や、ボクの方にみこは振り向き、
「ふふふっ! どうじゃ? 完璧であったろう?」
と、小声で言いながら、Vサインをしてくる。
ま、まあ、自己紹介は良かったと思うよ。最後の
みこは自身の発言を全く気にしてないようで、学校から支給されているスケジュール帳に本日の予定などの伝達事項を書き上げていった。
本当に、この姫巫女様は何を考えているのか分からない…。
どういう思考回路してんだろう…。ボクの不安は高まるばかりだった。
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