7.みこ様の朝は早起きじゃぞ!

「雄一~~~朝じゃぞ~~~~~起きろ~~~~~」


 みこが目覚まし時計を止めて、ベッドからむくりと起き上がる。

 横で寝ているボクはもう少し寝させてほしかった…。

 今、みこが止めた目覚まし時計は我が家で一番最初に鳴る目覚まし時計で、今は5時半というまだ朝日もうっすらと照らし始めている頃。

 どうしてみこはこんなに朝早く起きれてしまうんだ…。


「みこ~、何でこんなに寝起きがいいんだよぉ~。お前、中身はやっぱりお婆ちゃんだろ…」

「―――――なっ!?」


 みこはワナワナと震えながら、枕を頭の上に振り上げる。

 そして、そのまま振り下ろした!


 ボグッ!!!


「雄一のバカァァァァァァァァァァァァッ!!」

「いって――――――――――――――っ!?」


 え? 今、枕で殴られたはずだよね!

 何かすっごい固いもので殴られた感じがするんだけど!?

 目を覚ますと、目の前には、涙を浮かべたみこがいた。


「せ、折角、妾が起こしてやっているというのに…。お主という奴は、妾に対して傷つける言葉しか投げかけられるぬのじゃ…」


 ああ…。しまった…。

 ボクはみこの涙に弱い…。『涙は女の最大の武器だ』なんていう人がいるけど、ボクにとっては『みこの涙は最強の武器だ』だよ…。

 こうなると、ボクはみこの頭を撫でるしかできなくなってしまう。


「ごめんごめん…。そうだよね…。確かにボクが悪かった…。お願いだから機嫌直して…」

「もう、妾に年齢ネタを言わぬか?」

「うん。言わない!」

「もう、妾に対して酷いことを言わぬようにしてくれるか?」

「うん。そうする!」

「もう、妾を酷い目に合わぬよう守ってくれるか?」

「うん。そうする!」

「では、妾が雄一と一緒に高校に行くときに、腕を組んで歩いても良いか?」

「うん。いいよ!」


 ――――――――ん?

 ちょっと待って!? 最後のお願いの部分、何かおかしくなかったか!?

 うつむいていたみこは、顔を上げ、ボクの顔を覗き込む。

 明らかにその顔はニヤニヤとしてやったりの表情だ。


(しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)


 ボクはみこの頭を撫でながら、そのまま硬直してしまった。


「雄一よ…。男に二言はないというよな?」

「ゴクリッ!?(唾を飲む音) 二言はないかもしれないですけど、微妙に訂正とかは無理でしょうか…」

「お主…。それを二言というのではないのか!?」

「うぇ…。ねえねえ、今、『時の砂』とか持ってない?」

「なんじゃ、その怪しげなものは…!?」


 あはは…。さすがにドラクエネタは通じないよなぁ…みこには…。


「お願いだから、数分前に戻して神様!」

「いや、妾が神の遣いみたいなものじゃから、さすがに無理」

「うっ……」

「みこ様、きっとこれは夢でございます。あと30分くらいで起こしますのでどうぞ寝てください」

「お主、その鈍器でまさか妾を殴って記憶喪失にさせようとするのではあるまいな…」

「うっ……」

「はぁ…。そんな事すれば、お主は『可愛らしすぎるアイドルJKを鈍器で殴り、記憶喪失を図った疑いのある犯罪者』として逮捕されるのが目に見えておるぞ…」

「お前なぁ…。自分から可愛らしすぎるアイドルJKっていうか!?」

「妾は別に間違ったことは言ってはおらぬ。さあ、今日から学校じゃろう。急いで朝食とお弁当の準備をするぞ!」


 そう。実は今日はもう5月6日だったりする。

 みんなのゴールデンウィーク期間は終わったわけです。終了です。

 え? ボクらが何をしていたかって?

 そもそも5月2日は役場に行って編入の手続きを行ったり、制服を購入しに行ったりと大変だった。そのあとは、高校入学の準備と4月の段階で進んだ内容を自分の復習も兼ねてみこに教えていた。

 みこの学力は一言で言って、おバカじゃない。

 ちなみにボクがちょうど学年360人中30位くらいになるんだけど、教えている感じだと、50位くらいには入れるだろう。

 教科的にいうと、現代文や古典、日本史は満点に近い。また、数学もセンスは悪くない。あとは理科系の部分だろう。まあ、これに関しては、ボクがまあまあ出来るから彼女のサポートをしてあげれば、十分に成績に繋げていくことが出来ると思う。

 ただ、彼女がどこまでボクの「限定カノジョ」で居続けてくれるのか分からないから、こればかりは何とも言えない。

 ああ、それにしても、もっと自由が欲しかった…。

 明らかにその辺の高校生と過ごし方が異なるぞ、今年のゴールデンウィークは…。

 ボクが気持ちの乗らないまま起き上がり、リビングに出ていく。

 みこはすでに気分良く鼻歌交じりでお弁当箱にご飯を詰めていく。

 あ、でもよくよく考えたら、このお弁当箱、色違いなだけでお揃いじゃないか!?

 これを学校で広げるというのは、ちょっとばかり精神的に辛いかも…。

 その横でボクは卵焼きとウィンナーを焼き始める。

 みこはゴールデンウィーク中に買い揃えた冷凍食品を選び始める。


「全部入れちゃダメだよ。そうしたら、毎日同じお弁当になっちゃうからね」

「あ、あはは! そんなことするわけないじゃん…」


 やろうとしてたな…。

 ボクはみこの左頬を一筋の汗が流れ落ちるのを見逃さなかった。

 みことの協議の結果、今日はコーンクリームコロッケとエビフライに決定した。

 焼きあがった卵焼きとウィンナーを手際よく入れる。


「出来た~~~♪」


 メッチャ嬉しそう。

 なんでお弁当一つでこんなに喜べちゃうんだろう。

 ボクは逆にお揃いの弁当を持つということに恐怖を覚えているのに…。

 お弁当の時の残り物と昨日の夕食の残り物をリビングのテーブルに広げる。

 インスタントの味噌汁を用意して、朝食開始。


「「いただきまーす」」


 手を合わせて、食べ始める。


「今日の朝ってみこはどこに行くことになってるの?」

「うむ…。まずは職員室によってほしいと言われていたぞ」

「職員室か…。ま、上手くやれよ」

「え!? 雄一は付いてきてくれぬのか!?」

「え!? 逆にどうして一緒に行かなきゃいけないの!?」

「い、いや、同居人としてだな…」

「そもそも同居人であることは学校では伏せておくのではないの!?」

「え!? そうだったのか? 妾は住所欄にここの住所を書いてしまったぞ!」

「え!? ど、どうしてそうなるの!?」

「だって、妾の住所と言うのは今はあの山の頂上ではなく、お主の家に同居させてもらっているのだから、ここで問題ないと思うたのだぞ!」

「うーん。まあ、書類上はそういうことなんだけど…。まあ、遠い親戚だから、ルームシェアをすることに問題はないと思うけど…」

「すでに何日も同じ布団で寝ておるしな!」

「それは絶対に学校では言ってはダメだぞ。絶対に色々な問題が出てくると思うから…」

「そ、そうなのか…? 限定カノジョであってもか?」


 不安そうになるみこ。

 いや、あくまでも遠い親戚であって、カノジョであることを公言してしまったら、同居したり同じ布団で寝ていたりするのは、この年齢だとよろしくないでしょ…さすがに。


「いい? 学校では、こういう話はしない方が良いよ…」

「そ、そうなのか…?」

「そういうネタ好きな人が多いから、どんどん聞かれちゃうから、素直に答えたらだめだよ」

「う…うむ…一応、気を付ける…」


 眉をひそめながら、同意するみこ。


(うーん、ある程度は漏れることは承知の上で対応しないといけないんだろうな…)


 朝食を食べ終え、食器を片付け始めるみこ。

 ボクも後に続く。みこが洗い物をしてくれる代わりに、ボクはお弁当箱を包み始める。

 水筒にお茶も入れて、一緒に持っていけるようにまとめておく。


「みこ~、お弁当と水筒を一緒に用意しておいたから、忘れずに鞄に入れておいてね~」

「うん~、分かった~」


 洗い物を終えたみこは自分のリュックを持ってくると、そこにお弁当と水筒をいそいそと仕舞い込む。

 みこはまだ教科書をもらっていないから、リュックの中には、筆記用具とルーズリーフ、お弁当、水筒だけだ。

 ボクは教科書も入っているから、そこそこ重い。

 みこは髪の毛をセットしている。といっても派手なことをしてはいけないので、髪留めでポニーテールにする。

 校則で髪型に関しての制約はかなりあるので、この程度の落ち着いた方がいいのだ。


「妾の髪形はこんなもんで良いのか?」

「うん。落ち着いてて校則的にも問題ないよ」

「ならば、そろそろ行くのか?」


 いや、どうしてそんなにワクワクしてんの!?

 この後、絶対に痛い視線でボクのライフがゼロに近づくんだよ…。

 ボクはそれを想像するだけで少しだけゲンナリする。

 ぜ――――――――――――ったいにボクの予想通りになりそうだ…。

 ボクは一息吐き出して、


「よし! じゃあ、行くか!」

「うむ!」


 早速ボクの腕に抱きつくみこ。

 えっ!? まだ電車も乗って、最寄り駅までまだまだあるのに、もうくっ付くの!?

 ボクのライフを本気でゼロにする気だろ!?

 トホホ…。『限定カノジョ』様に振り回されそうだよ…。

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