第4話 『狂ったAI』
「まったく……とんでもない失態だ……お前の主人をさらわれてしまった……」
「ええ、全てわかっています! スザクさんの方こそ大丈夫ですか!?」
多足歩行ロボットにオロオロとされてスザクはどう対応すればいいのか困ってしまう。
「とにかく、傷の手当てを!」
とトレーラーの後部デッキの片隅に備え付けてあるメディカルカプセルに放り込まれる。
「朝までに……バンデッド・タウンに行かなければ……」
「お任せください。自動航行で行き先を既に登録済みです。すぐに出発いたします」
「ずいぶんと手際がいいな……情報が既に入っているのか?」
「もちろん、あの町での出来事は察知しております。それとケイトからの救難信号を受信しているのです」
ケイトはこんなこともあろうかと、捕まった時に、胸ポケットのリップに仕込んである救難信号を発信していたのだ。
なるほど、それで「全てわかっています」とジョーイは言ったのだ。
「それにより私はあらゆる可能性を考慮して動いております。あと80分経過してもあなたがここに来られない場合は探しに行くところでした」
「そうか……」
「今は少しでもお休みください」
身体の外傷は大したことはなかったが強力な炎術を放出し過ぎたせいで、霊力がすっかりなくなっている。
「なら、少し休ませてもらう……」
「はい……あとはおまかせを……」
ジョーイの声を聞いて、スザクは目を閉じた。
ビーッ! ビーッ!
スザクが目を閉じて数時間が経過した頃、エアトレーラー内に警戒音が響き渡る。
「何事だ!?」
目を覚まして起き上がったスザクは、ジョーイに問うた。
「武装したエアモビルが追尾して来ております」
ジョーイは説明した。
「さっきまでは距離を守っていたのですが、どうやら仕掛けてくるようですね。距離を詰めてきました」
「ちぃっ……積み荷が値打ち物と知って、ぶん捕りに来たのか?」
「向こうのエアモビル内の会話を盗聴しているのですが、どうやらガスパー一味のようです」
「なんでまたヤツらの仲間が?」
「どうやら仲間割れ……いや、いわゆる『下剋上』を狙っての行動のようです」
「つまり……ガスパーの手下でいるのに嫌気が差して、獲物を横取りしようって腹の連中ってことか?」
「お察しの通りです」
しかし盗聴まで出来るとは、ケイトは一体どんなAIをこのロボットに搭載させたのだと甚だ疑問に思う。
本来、人間の『命令』がなければ、他者の盗聴などは行えないはずだ。
そこまでの判断は通常AIの範疇に含まれない。
このような無法者の横行する惑星でも、最低限の人間の権利は、対ロボット的には守られていることになる。
人と人との場合はその限りではないというところが、この惑星の奇妙なところである。
「撒くことは可能なのか?」
「自動航行中ですので、無理ですね。それにもう完全に捕捉域に入っております」
「俺のエアバイクを出せ。直っているのだろう?」
「いえ……あの、それが……」
ジョーイは言いにくそうにして、デッキの一角をマニュピレーターで示した。
「……これが? 俺のバイクか?」
そこにはジャンク品の山があった。カウルがその名残を残してはいるが、それはエアバイクと呼べる物ではなかった。
「ただの残骸に見えるんだが?」
「気のせいか私にもそう見えます」
AIが気のせいって……。
スザクは頭が痛くなってきた。
「なにを考えているんだ! あの女は!」
「私も永年行動を共にしているのですが、よく規格外の行動を起こすので困っております」
と肩をすくめるようにマニュピレーターを動かした。
そういうこのロボットのAIも規格外だった。
「アイツは一晩掛けてなにを直してたんだ!?」
「あー、それはこっちの積み荷の方ですよ」
そこには完璧に整備された可変式のエアファイターが鎮座していた。
「動くのか」
「もちろんです。あの機械狂い《マシンフリーク》が途中でやめると思いますか?」
「それで昼まで寝ていたのか……」
結局それで、ガスパー一味の襲撃を許すことになったのでは本末転倒だが。
しかし、いずれ遅かれ彼らの手はトレーラーには届いていたであろう。その為にメンテナンスを先行させたのは、あながち悪い判断ではなかったのかもしれない。
そんなことを思いながら、スザクは口の端を上げた。
「ふん……面白い……ならコイツの試し運転といくか」
「いえ、お待ちください。今ここで消耗するのは得策ではありません」
「なにか手はあるのか?」
スザクが知る限りのこのトレーラーの武装だけではとても武装エアモビルの相手はつとまらないだろう。
ちなみに、一般的にエアモビルは『空間機動出来る乗り物の総称』ということになり、大別すればこのエアトレーラーもエアモビルと呼ぶことが出来る。
この場合、敵のエアモビルは戦闘用といえた。
こちらも武器を搭載しているとはいえ、所詮は輸送用のトレーラー。機動力に優れ戦闘用に特化したエアモビル相手では分が悪いのだ。
「なにもエアモビル相手にわざわざこれを出す必要はありませんよ。要らぬ消耗は避けるべきと考えます」
ジョーイの言ってることはもっともだ。
ガスパー一味の根城に行くのだ。余計な消耗は出来るだけ避けなくてはならない。
ランチャーの発射音が聞こえた。
ズッズゥウウウン! と地響きがした。
直撃はしていないが近くに着弾してトレーラー全体が大きく揺れた。
「追いつかれてしまいましたね。ここは私が出ます。スザクさん、あなたはこのトレーラーの回避運動をお願い出来ますか?」
「……わかった」
「彼女のことをよろしくお願い致します」
「出来る限りのことはするつもりだ」
「お前……武器は使えるのか?」
「作業用のヒートガンで応戦します」
機械や金属溶接用の工具だ。殺傷能力は上げてはいるだろうが、それはあくまでも近接用の武器にしかならない。
「しかし、それでは……」
「ご安心ください。私は大丈夫ですから……」
「そうか……なら任せた」
「それでは……出ます」
ゴウンと音がしてトレーラーのサイドハッチが開いた。
脚部のローラーを出して、ジョーイは一気に飛び出た。
ハッチを閉めてスザクはメインシートに座って、運転をセミオートに切り替えた。
『聞こえますかスザクさん』
ノイズ混じりの通信にスザクは短く答える。
「ああ……」
『あの人に……ケイトに……後のことはよろしく、とお伝えください』
「お前の冗談に付き合ってる場合じゃない」
「敵のエアモビルを確認……それでは行って参ります!」
「おいっ! 待てっ! お前……それじゃあまるで……」
スザクは言葉を継げなかった……。
ジョーイの行動……。
それはまるで人間の自己犠牲の行動に酷似していた。
カッ! とバックモニターの端に眩い光が見えた。
その直後……。
ズズゥンッ!
爆発音が聞こえ、爆風がトレーラーを揺らす。
「バッカ野郎! 何様のつもりだ! 機械が自己犠牲とか……狂ってるだろうがっ!」
スザクは回線を開く。
「おい、ジョーイ! どうせこれもジョークだろう? 返事をしろ! 死んだふりだなんて……俺は騙せねえぞ! おいっ! おいっ!」
しかし無線からは雑音以外は何も聞こえない……。
「畜生……こいつは約束だ……あの女は必ず救い出してやる!」
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