第7話「暴食の名前」
ハッキリしない意識の中で声だけは聞こえた。
そしてやっと目を開く。
ショックがあったようで意識を失っていたらしく今
ルーチェがいるのはミトスの腕の中だ。
「大丈夫ですか?…なんて、大丈夫な訳ないですよね」
「ううん。気を使ってくれてありがとう」
人間の心をすべて理解することは出来ない。同じ人間だって
相手の心が全て分かるわけでは無いのだから。ミトスやアランは
人間に仕えるからこそ人間の心を理解しようと努力をしている。
「犯人の目星が付いているの?」
ミトスの表情が少し動く。
「はい。部屋の壁に大きく書かれた名前から吸血鬼かと…」
「名前?」
「…吸血鬼の真祖の一人、テュフォン」
その名前も知っている。ラスボスとして存在する吸血鬼だ。
まぁ四天王の最弱のような立ち位置のつもりで作ったのだが…。
もし、もしもこれから裏ルートを通るとするのなら乱入者も
存在したはずだ。
だがまずはその吸血鬼が誰なのかをハッキリさせなければいけない。
そこも安心してほしい。吸血鬼につい手を色々調べながら
私はこのゲームの製作をしていたんだ。
「明日で良いから、全員を集めてくれる。それと鏡を準備しといて。
手鏡で良いから」
「…?分かりました」
血生臭い。その臭いは染み込んでしまったのだ。
彼女が浴場に入ってから、ミトスとアランは彼女の自室に戻った。
そこである張り紙が目に入った。
『つ ぎ は お ま え だ』
「戻るぞアラン!」
「分かってる!」
その慌てぶりをアインは黙ってみていた。
それなりに面白いことになりそうだ、とほくそ笑んだ。
廊下を駆け、階段を下り、浴場のブレーカーをあげて電気をつける。
体は上手いことタオルで包まれている。それに仰向けで目を閉じていた。
遠くから見ればのぼせているようにも見えるだろうがそれは違う。
「…やられた…ッ!」
ミトスは歯噛みする。彼女の背中を抉るように爪痕がある。
同じだ。同じ輩がやったのだ。
「ミトス…アラ、ン…」
か細い声だが確かに二人の名前を呼んだ。
流血は止まらない。このままだと本当に死んでしまう。
「生きたいか、御嬢」
その言葉に力を振り絞って大きく頷いた。アランはふと笑みを
浮かべた。
「なら呼べよ。それで命令してくれたら“喰ってやる”」
アランの肩を掴み、ルーチェはこういった。
「命令、だよ。アラン…ううん―ベルゼビュートッ…!」
彼の容姿が僅かな時間だが変化したように見えた。藍色の瞳は
金眼に変化し、黒髪は藍色を帯びていた。暴食の悪魔は自身の手を
舐める。舐めたのはルーチェの血液だ。
「傷は俺が“喰った”ぞ。御嬢の命令だからな」
意識はハッキリしてきた。そこにいたのはミトスだった。
横になっていた場所はベッドで、服も着替えがされていた。
「ルーチェ様。そろそろ解決に向かいませんか」
「え?」
「検討は付いているのでしょう。だけど認めたくは無かった。
貴方の父親に一番近くで行動できる人物ならいるではないですか」
エドワード。執事長として彼はナナリーよりも父親と
行動を共にすることが多かったはずだ。
「あれ?アランは何処に行ったの?」
「彼ならナナリーの隠し物を暴きに行きましたよ。彼女は
エドワードさんが犯人であることを証明する物を受け取っているはずです」
アランとナナリーは向かい合っていた。だがナナリーは怯えていた。
それでもどうにかポーカーフェイスを貫いている。
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