第6話「地下室に行こう」

ミトスがルーチェと同行し、アランは他の屋敷の住人の目を誤魔化すために

動いていた。


「珍しいなミトスはどうした」


やっぱりか。

執事長エドワードは廊下を歩いてきて灯りを手にしているアランに声を掛ける。


「ほら、殺人事件が起こったばかりだろ。それで御嬢の方が危ないだろうし

ミトスが護衛してるのさ。で、アンタは何してんだ?トイレか?」

「まぁ、そんなところだ」


この男だけがどうにも気にかかる。ミトスもまた同じことを考えていた。

一人では確実性が薄くなりがち。


「お、そういえばエドさん。アンタはよくスプーンとかフォークとかを

手に取るときに手袋をしてるよな?どうしてなんだ?」

「汚さないためですよ。それ以外、何か理由が必要ですかな」

「…いや、ちょっと俺が気になっただけだからさ。ありがとさん」

「…アラン。お前はもう少し言葉遣いをどうにかしなさい」

「御嬢がそう言ったら考えてやるよ」


アランはヒラヒラと手を振り、横を通り抜ける。わざと、自然に見えるように

肩を当てて歩き去った。

どちらも笑っていない。何処か真剣だ。そのやり取りはちょっとした世間話、

というよりもお互いの心を探り合っているように感じた。


裏庭にポツンと置かれた不自然な石像をミトスは動かして見せた。


「…動かせんの!?」

「こう見えても力はあるんですよ。アランには劣りますが、人間よりは

あると自負しています。それに見たところ、何処かに仕掛けがあるようにも

見えませんでした」


やはり人外染みている。というかアランには劣るって言った?アランはミトスよりも

怪力って事なのか!?そういえばそんな裏設定もコソコソ作ったわ…。私の趣味

全開ですね、はい…。

石像の足元には穴があり階段が下に伸びていた。ミトスはルーチェに手を差し出す。


「暗いですから、足元にお気をつけてください」

「ありがとう。気を付けるね」


その手を握り、ゆっくり階段を下っていく。その先に待ち構えていた扉に

血の鍵を差し込む。開いた。瞬間、ルーチェは鼻を摘まんだ。


「長い間人間の死体を集めていたようですね。ここから出たら、しっかりお風呂に

入り体を洗いましょうね御嬢様」

「え、そこなの?どうしてこんなに死体が!?とかここでは何が起こっていたんだ!?

とかじゃないの!?」

「すみません。でも見れば分かりますよ。黒魔術です」


白い線で絵が描かれ、人間の頭が置かれている。父の部屋にあった死体の首。

辺りに目を向けると無造作に置かれた父本人の死体が転がっていた。

三本の鉤爪のような傷だ。


「お父さん…」


ルーチェはその死体の前で膝を折る。ミトスは改めて室内に目を向けた。

ルーチェの父の部屋にも凶器は無かった。この部屋にも凶器は無い。

紐で首を絞める、それも可能だがそれは出来ないと断言する。

首には痕が無いのだ。


「…やはり人間が行った犯行とは思えませんね」


視線をあげると壁には大きく名前が書かれていた。その名前に

ミトスは聞き覚えがあり、人外である事を確信する。この犯行は

人間が行ったのではない。吸血鬼だ。


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