第5話「実験をしよう」

真夜中になり、屋敷の裏側からアランは父親の部屋の窓を確認する。


「で、俺は何時入ればいいんだ」


隣をフヨフヨする影に言葉を投げかけた。


『今、ナナリーたちの部屋に入ったところだ。僕たち以外の話し声や

足音は聞こえない。メイドたちには悪いけど別の場所で待機してもらってる』


ミトスの声が聞こえる。悪魔同士の通信機的な物だと思ってくれれば良い。

中途半端に割れているのだから全て破壊しても問題ないという結論に

至ったらしい。


『とんでもない破壊魔だね』

「お褒めにあずかり光栄だ。さぁ、ぶち壊すとするか」


何処か楽しそうな声を出す。軽くストレッチのようなことをしてから

アランは地面を蹴り上げて跳躍し、窓ガラスに体当たりした。

一方、ルーチェとミトスがいる部屋。


「え?もう突進したの?」

「正しくは体当たりですが間違いではありませんね。御嬢様、音は

聞こえましたか?」


ミトスの質問にルーチェは首を横に振る。少々条件は変わっているが

今回の実験結果は人間であるルーチェに上の階にある父の部屋の窓が

割れる音は聞こえなかったと言う事だ。


「多少なりとも違う点があるので花瓶を割って貰ったのですが

聞こえなかったようですね」


あ、花瓶はもう使用されていない物を使ったので心配無用ですとミトスは

付け加えた。音は確かに聞こえなかった。


「人間よりも感覚の鋭い種族はいますからね。この中にいるって事ですよ…

が」


聞き捨てならないセリフ。しかし否定できない言葉だ。


「化けの皮を剥がしてマルッと解決!って事だね」

「ハイ、その通りです」


犯人は人間を装って屋敷にいるのではないか。その通りだ。原作でも

ここに存在する化け物が犯人だ。勿論、ルーチェは知っている。

だからこそのアリバイが必要だ。

事件の時に別の場所にいた、または何かしらの理由があって

事件を起こすことが出来ない、起こす必要が無いというものだ。

ミトスとアランは何度も言っているが悪魔という種族が理由になる。

彼らはしっかり契約を結んで動いているので殺人は出来ない。

そしてナナリー、彼女の隠し物によっては共犯者

「ナナリーがあのように完璧な殺人を行えるとは思えませんからね。

彼女よりも背丈があり、人間の首を落とすための」

腕力が必要です」

「腕力云々ならシェリアも難しいと思うけどな。女性の力で

落とせるものなの?」

「見た目で判断は出来ないぜ」


戻ってきたアランは話に割って入る。


「まぁ、シェリアとナナリーは無理だな」


そう断言した。


「…?そういえばあの死体はお父さんじゃないんでしょ。じゃあ本人の

死体は何処にあるの?」


そう聞くと二人は何処か気まずそうな顔をする。話すことを渋っている。


「私、しっかり向き合いたい。二人は、私の事を心配してくれているんでしょう?」

「…良いですか。御嬢様。僕たちは人間では無い。貴方たちよりも長生きで

強い生き物故に人間の死に対しては微塵も悲しみは持たない。貴方は…

貴方はまだまだ幼いのです。本当に覚悟はありますか」


その目は今までに見たことが無いほどに鋭い。ルーチェは息を呑む。

その覚悟は未だに揺らいでいる。


「大丈夫。確かに死んだのかもしれないけど、まだ私には残ってるから。

それにいつかは先にお母さんとお父さんが死んじゃうでしょ。それが

早かったってだけ」


ネガティブになりがちな部分を自分なりにプラスに考えて丸める。


「そうですか。では行きましょうか」


ミトスが見せたのは赤い鍵。それは吸血鬼アインが造ったスペアキー。

つまり彼は一足先に父親の死体を見に行ったと言う事だ。

少しショックもあるが気にしない。

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