切断されたのは


 リアの頭部が再び地面へと触れる。――冷たい。

 横向きになった世界で、地面にはみるみるうちに血の池が広がっていく。首が、身体の重みに耐えていないのは自身の首が切り落とされたからだと思った。

 胴体と離れた頭がわずかの時間意識を保っているのは、先日の事件で知っている。目も耳も、まだもう少し聞こえるらしい。痛みは、不思議なほどになかった。


 ――もうすぐ、この世界とお別れだ。

 この世界との別れは、クロとの別れを意味している。


 もう少しだけ、クロのそばにいたかったな……。ごめんね、クロ……。


「ぎゃぁああぁあぁあ! ち、血ダァぁぁ!」


 ――悲鳴?


 鼓膜が、不快な男の声に震える。視界の端に、踊るようにもがく男の足が見える。その足先が何かを蹴り飛ばし、リアの眼前に転がってきた。


 ――腕?


 切られたのは、男の腕のほうだった。信じて、力を込めるとわずかに顔を持ち上げることができた。どうやら、まだ首の皮はつながっているらしい。


 視界には男の腕と、叫び続けるその男と、それと――、


「ゴ、ア……?」


 うっすらとした景色に、黒い鎧の騎士が見えた。黒曜石の剣が握られており、その切っ先が地面にめり込んでいる。ゴアはゆっくりとした所作で持ち直し、一度剣を鞘に収める。


 次いで聞こえたのは――、


「よかった……間に合った……」


 リアの身体が自身の意思とは関係なく持ち上がる。

 首から後ろに腕が回されていた。


「クロ……来てくれたのね……」


 辛うじて言うこと聞いた唇が、自身の召喚主の名前を紡ぐ。


「ごめんな、遅くなって」

「ううん……わたしも、ごめんね。クロから預かっている大切な魔力、少しだけ盗られちゃった。でも、守ったよ……」

「バカ、そんなことっ……」


 言うと、クロは顔を背ける。

 リアは頬に流れる自身の涙を感じた。

 やがて向けてkぃたクロの顔には、リアの大好き柔らかい笑みが浮かべられている。


「――あとは任せろ。少しだけ休んで、辛抱してくれよ。すぐ終わらせるから」


 全身の力が失われ意識も遠くなりつつあったが、そこにいたのはやっぱりクロだった。


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