嫌われ者
先導する騎士は雑談に花を咲かせるタイプとも思えないため、クロは黙って後をついていった。その行き先が王城でないことは、大通りを左に曲がったところで気づく。
小雨でぬかるんだ小道を歩きながら、辿り着いたのは一軒の家屋だ。遠目ながらに何故か騎士が一度足を止めるので、黙って後ろをついていたクロは彼の背中に鼻をぶつけそうになった。
目的地はどう見ても普通のタウンハウスだ。変わった箇所を聞かれたら「玄関に二名の兵士が立っている」と的外れな回答をしてしまうほどにいたって平凡な二階建ての佇まいをしている。
その二人の兵士から敬礼を受けながらクロは家に入る。明かりのない廊下に、その先は階段があった。廊下の奥から背後の扉へと寒風が吹き抜け、クロはフードを脱ぐ手を止めた。
二階へとあがると部屋の扉が立ち並び、一番奥の扉だけが開いていた。どうやら空気の流れはそこからのようで、直感的に目的の場所とクロには思われた。不穏な雰囲気とともに、実際に人の気配もする。案の定、入ってみると部屋には二人の人間がいた。それがあまりに対照的で、クロはますます眉の角度をきつくする。
ひとりは、毛布を被った女。何もない床に座っており毛並み越しでもわかるほと震えていた。顔面は蒼白で、寒さからなのか尋常ではない血色だ。
もうひとりは傍に立つ男。予期せぬ人物だったが、残念ながらこちらには見覚えがある。
「ふん、悪魔の仔か」
城の門前ですれ違った際の侮蔑は、どうやらクロ自身に向けられていたらしい。黒髪の短髪に、黒い口ひげを蓄えた屈強そうな男――国宝の調査に当たっているという騎士団長だった。
クロが不快感を隠しもせずに渋い顔をすると、男は改まったように姿勢を正す。
「わざわざ足を運んでもらってかたじけない。第二騎士団長のアルフレッドというものだ」
思いのほか気さくな挨拶。クロは鼻の皺をわずかにだけゆるめて挨拶を返した。
「召喚術師のクロヴィスです。ヴァンフリート殿に呼ばれたのですが――ちなみに彼は?」
「見ての通り今は外している。そこの割れた窓を見ておおよそ察して頂けると助かる」
アルフレッドと名乗る騎士が手で促した先には、大きく割られた窓ガラスに、先ほどの震える女性がいた。
手前に散らばったガラス片が少ないのは、内から外へと衝撃があった証拠。何らか事件なのだろうが、クロは召喚術師であって探偵ではない。呼ばれた理由を求めてぐるりと視線を回すと、ひとつの机で視線が止まる。
正確には、その机の上にあるものに。
「中を見ても?」
近づいて、アルフレッドへと仰ぐ。良くも悪くも堂々たる態度で腕組みをしながら、アルフレッドは黙って頷いた。
クロの見当はどうやら当たりのようで手に取る。かさかさとした肌触りの紙が麻紐で束ねられただけの書き物で、栞らしきものが挟まれていた。
「これは……」
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