祭典
翌日、建国記念の祭典の日。
変わらず突き抜けるような晴天の下で、街は昨日以上の賑わいを見せていた。露天は賑わいを見せていた市場からそのまま拡大したかのよう。食品を売る店が多く、窯焼きのピザが芳醇な香りを醸し、焼かれたソーセージがぱきっと音を鳴らす。スープが人々の身体を温め、さらにその先ではビアで乾杯する男たちの姿もあった。
「すごい人! 何あれ! あ、ねぇねぇマスター! あれ食べたい! あっちも食べたい! 迷うー! ねぇ、ねぇ! まーすーたーぁーっ! はーやーくーきーてーっ!」
エディスが器用に人の波を掻き分けながら、どんどん先へと進んでいく。頭に乗ったグレムリンを悪魔として忌避する住人は、幸いにしていなさそうだ。たぶんこのお祭り騒ぎでぬいぐるみかせいぜい珍しい小動物としか思われていなさそう。むしろその可愛さに惹かれ女性のほうが寄ってくるほどで、エディスはすっかり懐かせてペットのようにした悪魔共々に黄色い声の的となっていた。
「なるほど、その手があったか」
ポンと手を打つクロ。普段口にしないような冗談が喧騒に後押しされたが、向けられたのは覇気のないリアからのジト目だった。
「バカなこと言ってないでよ……」
端的にそれだけを紡ぐと、リアは口元を押さえた。
「完全に二日酔いだな」
「……クロが悪いんだもの…………あぁ、頭がガンガンするー……」
言い募ろうとして、さすがに他人のせいにし過ぎると思ったのか言葉を切るリア。頭痛に、眉が痙攣めいた動きを見せている。
「ふふっ、クロ。昨日は良い夜だったわ。いろんな意味でご馳走様でした」
「いったい何を話してたのっ……⁉︎」
「アデレード、煽るな。ただくっちゃべってただけで、そのあとはアデレードにいつものタロットをしてもらったんだよ」
昨日散々に言われた意趣返しのつもりだろうか、アデレードが嗜虐的な笑みを浮かべる。
酔っ払いながらにアデレードの占いは――あまり信じたくもない内容で、少なくとも今のような二日酔いのリアに話すようなことでもない。
「ほら、これ飲んでおけ。オニオンスープ。ここでは二日酔いにはこれが効くらしいぞ」
「…………飲ませて」
クロは病人の相手をするようにリアの口へとカップを当てる。リアも手を添えたが、それでもクロからの手ずからのスープにわずかに機嫌を良くしたよう。
それを眺めながら、アデレードが短く息を吐き、クレイパイプからの煙を燻らせる。
「――ていうか半人半妖とはいえ、簡単に二日酔いになるのね。悪魔の係累って」
クロは思わずぱっと顔をあげ、丸くした目をアデレードへと向けた。
「たしかにっ!」
アデレードが先導する先は、祭典の中心部だった。
赤い屋根と白壁の家屋が並ぶ街並みの中に、ぽっかりと空いたような空間。普段ならそこは人が行き交うだけ――この国ならオートマタもそれに含まれるが――のだだっ広い場所でしかないが、今日に限っては催事のための簡易なステージが設営されていた。
一方壇上には貴賓か関係者か、居丈高とも思える面々が腰を据えている。ステージ横にある巨大な物体と関係があるのだろう。白い布に覆われたそれと、おまけにその横には駅から拝借してきたような廃棄処分寸前の車両がひとつ、なぜか置かれている。
車両のほうはともかく、ベールの中身はおそらく祭りの目玉であろう。車掌からの話に、巨大なオートマタが鎮座している姿をクロは思い浮かべた。
「――ここだけは祭りというよりも式典って感じだな」
「
アデレードは事実とも皮肉とも判別できない言葉を煙に混ぜる。
ステージの裏側にはいくつかの機器が設営されているよう。オートマタよりも精密そうな機械の周辺には白衣を纏った研究者が散見され、中にはローブに身を包む人間もいた。直感的に、あれは魔術師側の人間だろうとクロは推測する。
不自然なほど顔を隠しており、クロはどことなく同業者の匂いを感じ取り――、
「――それでは、ご覧いただきましょう!」
壇上の司会者らしき人物が、拡張器につながれたマイクを手に鼻息荒く説明をしていた。気づけばちょうど前置きが終わったよう。巨大物を覆っていた布がするすると背後へと引かれ、本日のメインである巨大機械人形が姿を現した。
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