大人な時間
「うぅっ……」
「まったく……すぐにムキになるんだから、この子は」
そうため息交じりに呟きながら、アデレードはソファに寝転んだリアに毛布をかけている。
そんな敵意むき出しだったリアを「この子」扱いするあたり、アデレードの女性ながらの度量の深さを感じさせるというもの。
ソファに前では暖炉がぱちぱちと音を立てていた。
季節外れの暖気が街を覆っていたとは言え、夜気が降りてしまえば室内でも冷気が肌に染みる思いがする。
それを和らげるように、クロは残ったワインに口をつけた。
辛うじて飲めるようになったばかりの舌。嗜むというには荷が勝ち過ぎるよう。手振りだけは格好つけてみたものの、口の中の液体は転がす前に早々に呑み下してしまう。
時計に視線を送ると、針は夜半を間近にしていた。子供のエディスは眠たそうな目を擦っていたので、すでに二階へとあがらせていた。
戻ってきたアデレードの口元には、酔いからか微笑が浮かんでいる。
「どうやらエディスを私に押し付ける策略は失敗に終わったようね。御愁傷さま」
「策略とは人聞きが悪い。……でもなんだ、お見通しだったわけか」
腰を下ろし、アデレードもグラスに口をつける。不慣れな自分とは違い、アデレードの所作はどこか優雅だ。
エディスの境遇は駅からアデレード宅への移動中に、掻い摘んで伝えている。
「当たり前でしょ。たぶん
思い返す。考えなしに言葉が転がり出るリアと比べ、エディスの内心は割と強かだ。その強かさは、エディスの場合悪辣であることとは同居しない。たぶん好むと好まざるとに関わらず、アデレードとの梯子を外すためにわざと「おばさん」なんて発言をしたのだろう。
それを見抜くアデレードもさすがといえばさすがというか、妙に達観している。
「――エディスの親も、召喚術師だったらしいしな。しかも、悪魔を使役する」
「だったらなおさら、あの子の師匠になるのはあなたが適任じゃない。本当に弟子にしてもいいんじゃないかしら」
「でもなぁ、俺の年齢で弟子っていうのも――」
「ぶつわよ」
アデレードの半眼に肩を竦め誤魔化すように破顔するクロ。
これは失言。やや自省をしながらも、酔いの場にふさわしく軽口を叩くことにする。
「怖い怖い。『紫焔のアデレード』様はやはり迫力が違いますな」
「『
二人して苦笑。アデレードが三度ワインに口をつけると、ゆっくりと舌のうえで転がしている。香りを楽しんでいるようでもあり、何か考え事でもあるような、そんな沈黙だ。
「さて本題……」とばかりに彼女が息を吐くのを見て、クロも思わず肩を強張らせる。
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