屋上と彼女。

「彼らは特に人が放つ『負のエネルギー』に引き寄せられるの。そのエネルギーが高まるほどに、彼らを人間界に引き寄せやすく。どこかに、あの世とこの世を結ぶ穴も広がって行くわ。そして、負のエネルギーこそが彼らを強くさせるの」


 深刻な表情で話す彼女に思わず息を呑んだ。彼にとっては、あまりにも衝撃的な話だった。信じ難い内容の話に一瞬、話を聞かなければよかったと後悔した。


「邪悪な負のエネルギーは常にこの世に蔓延しているわ。人間の心から生みだされた邪悪な心は、決して消え去る事はないわ。目には見えない力となって、空気のように漂っている。そして、その力に引き寄せられる魔物は、より強い邪悪な魔物と化すの。それを私達は『邪神』と呼ぶの」


『邪神っ!?』


「魔物よりも、邪神がもっと厄介だわ。簡単には倒せないし、簡単には祓う事も出来ないの。それほど迄に邪神は強敵よ」


「――じゃあ、そんなにツエーならお手上げじゃねぇか。どうやって倒すんだよ、俺達人間が邪神に勝てるのか……!?」


 彼の何気ない一言に、かなめは真っすぐな瞳で答えた。


「一つだけ勝てる方法があるわ。邪神を狩る力がある『選ばれた力を持つ特殊な人間』のみ、邪神を祓う事が出来る。普通の人間よりもかけ離れた力があれば、邪神も魑魅魍魎も狩る事も祓う事も出来る。それが唯一の彼らに対抗出来る『力』よ――」


「待てよ。じゃあ、お前があのとき俺に声をかけた理由って……」


「そうよ、キミには『特殊な力』があるから声をかけたの。ハッキリ言ってキミは普通の人間じゃないわ。キミは否定するだろうけど、あたし達と同じ特異体質を持って生れた子供なのよ」


「っつ……!?」


 その言葉に一和は大きな衝撃を受けた。


 は? マジか……? おいおい、嘘だろ!?


「邪神討伐隊はそう言った特殊な力や、特異体質を持って生れた人達で結成された組織部隊。表には決して存在を知られる事も無く、あたし達は自分達の『意識』で邪神や、魑魅魍魎を狩り、人々から災いを浄めて、鎮める者となって影の世界で存在する役目を果たしているの。キミに邪神討伐隊に入る覚悟はある? あるなら、あたしの手を取って答えて――」


 そう言って彼女は、真っすぐな瞳で一和をジッと見つめた。差し出された手を見て、彼はその手を握って握手を交わした。


「ホント、よく分かんねーけど……。まぁ、一度乗りかかった船だ。やるならトコトンやってやるぜ!」


一和は迷う事もなく手を取ると、キリっと男前の顔で彼女に答えた。彼の出した答えに、かなめは表情をパァッと明るくさせると、嬉しそうに抱きついた。


『よーし、よく言ったぞ少年! それでこそ男だ!』


「わっ……! なっ、急に抱きついてくるなよ! てか、胸が当たって…――!」


「あっ、ごめんなさい! 嬉しくてつい……!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る