屋上と彼女。
「おや~? おやおや〜顔真っ赤だよ? 見た目よりキミって可愛いね。まさか純朴系男子君?」
『っつせーな、やかましいわ……! てか、お前人に馴れ馴れしいぞ!?』
「何? 怒ったの? ウフフ、可愛い。まーまー怒らない怒らない」
かなめは一和を冷やかすと、悪戯にクスクスと笑った。まるで相手を手玉どる仕草だった。一和がムッと怒ると彼女は『ゴメンゴメン』と平謝りした。
「――さてと、お喋りも済んだし。そろそろキミに話そうか?」
「おい、邪神討伐隊って一体なんだよ?」
「ンー。そーだねぇ、よし! じゃあ、あたしについて来て。多分ここじゃ、術を発動しても見えないと思う」
「は? 術?? てか、なんだソレ?」
かなめは辺りを見渡すと屋上の一番高い所に、彼を案内した。一和は言われるがままに後ろを黙ってついてきた。そして、貯水槽の脇にある梯子に手を掛けて彼女は先に登ろうでした。
「この上でイイもの見せてあげる。きっと、驚くわよ?」
彼女はそう言って梯子に右足を掛けて上ろうとした。その瞬間、一和はゴクッと違う意味で唾を飲んだ。彼女の履いてるスカートが風にフワリと揺れた。そして、梯子を登る彼女の下で、一和は上を見上げながら鼻を伸ばした。『もしかしたら見えるかも……』僅かな期待に、男心は揺れた。すると彼女は登ってる最中に後ろを振り向くと、下にいる一和をジロッと睨んだ。
「アンタ今、あたしのパンツ下から覗こうとしたでしょ?」
「だっ、誰がお前の履いてるパンティなんか覗くかよ……! 俺がそんな事で期待するわけがないだろ!? 小学生かっつーの!」
「――アンタ、見たら殺すわよ?」
ドスをきかせた声で脅すと、登りかけの途中で下に降りた。そして、親指をクイクイさせながら『アンタが先に上れ!』と指示を出した。一和は僅かな期待が破れると、肩を落として渋々とした表情で先に貯水槽のある上へと登った。
「……で、アンタは俺に何を見せてくれるって? まさかと思うが、ここから見える山や、街の景色じゃないだろうな?」
「まーまー焦らないの。焦らないの。まったく、せっかちさんね。ウフフ♡」
「誰がせっかちだ! 誰がっ!!」
彼女は隣でクスクスと笑うと不意に話しを切り出した。
「――ここから目に見える景色は、キミにとって何に見える? 平穏で、のどかな景色?」
「ああ、退屈な景色だ。超、平和って感じだな。それが何?」
「なるほどね……。やっぱキミには見えないか。あたしには二つの景色が見えるよ。意味わかる?」
「は? 何それ? 俺には全然わからねーけど」
「この世界は森羅万象の元に、あらゆるものが巡って対極して存在する。それは、この世界にもたらす朝と夜の顔のように、あるいは光と闇。陰陽といった二つのならわしで出来ている。あたし達がいる世界は『表』の平穏な世界。ここから見える景色は、キミには平和でのどかな景色に見えるかもね。いいえ、普通の人間ならこれが当たり前の世界よ。でも、ここから見える世界は悪までも表であり。『裏』の世界をキミは知らないだけ――」
「は? 裏、表の世界? 朝、夜? 光と闇、陰陽? ゴメン、全然わからねーわ」
「当然よ。普通の人なら、こんなことをいきなりいわれたら混乱するでしょうね。とくにキミは、まだ『普通の人間』であって、あたし達『側』の人間ではない。今ならまだ間に合うわよ? 普通の平凡な人生を送りたいなら、今すぐ手を引く事とも出来る。きっとキミの人生は、180度変わる事になるわ。それでもいいの?」
彼女は急に真剣な表情で話すと、チラッと隣にいる彼の様子を見た。一和は頭をかきながら暫く黙って一言返事をした。
「ん~。なんかよくわからないけどよ、このまま『普通の人生』を歩むよりも、面白い事をしてみたいな。いや、そっちの方が全然楽しそう。自分の人生が180度変わっても俺は後悔なんかしないと思う。いいから続き話せよ?」
「ッ…――! キミって超能天気屋さん。見た目より度胸あるのね、見直したわ」
かなめは彼の能天気な性格に呆気にとられると、少し呆れたように彼を見つめた。
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