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 女子と二人でケーキを囲み過ごすクリスマス。

 こんなことが現実に起きるなんて、思ってもいなかったわけで。


「お主、今日は機嫌が良いの〜、のじゃらんらん」

「そういう鸞子もな。えと、色々ありがとな、紗凪のこと」

「む、生徒会長として当然のことをしたまでなのじゃ。い、意中の、と、殿方の、その……妹となれば尚更の……」

「移住してきた殿様?」

「お主、絶対わざとなのじゃ……ぷんすか!」


 普通ぷんすかとか口に出るか? 最近、そんな鸞子が可愛くも見えてきた。

 これも僕の心に幾分かの余裕が出てきたからだろうか。女子の部屋。良い香りがする。

 鸞子の部屋はめちゃくちゃ広くて、ベッドなんか、鸞子が数十人は寝れそうなくらいに大きくて、まさにお嬢様の部屋。何故か電動工具の展示もされていて、そこは理解不能だけれど、それを踏まえても尚、胸が高まるわけだ。


「あ、お、お主いま、い、いやらしい目をしておったのじゃ!」

「ばかやろ! んなわけねー!」

「我の美貌に酔うのは構わんが、あ、あまりジロジロ見るんじゃないのじゃぁ……」


 理性を保つのだ。


「お、飲み物が切れたな。コンビニで買って来てやるから、鸞子は待ってろよ」

「お、おうなのじゃ。我はそろそろ焼き上がるターキーさんの準備をして待っておるのじゃ」


 何とか外に出ることが出来た。

 しかし危なかった。もう少しで鸞子を。思春期の男子高校生なら当然か。もし僕が鸞子を押し倒したとしたら、鸞子は抵抗するだろうか。それとも。

 あー! 僕は何を浮かれている! 馬鹿な思考は捨てるんだ。今日はあくまで紗凪と金池の初デート記念……の……祝、い……え?


 ……何で?


「紗凪……?」


 コンビニの車止めに座り、死んだ魚のような目をした少女が野良猫と戯れていた。


 何を隠そう、僕の妹だ。

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