60(巧視点)


 珍しいこともあるものだ。木下が計画し、俺とあかりちゃん、さっちゃんに会長のメンバーで遊ぶぞとのこと。毎年クリスマスは兄妹でちんまり過ごすとか言ってたけれど、木下も少し変わったな。


 待ち合わせ場所は確か、このカピバラ噴水前だったはず。そこで待っていたのは、何を隠そう。


 上野あかりちゃんだった。


「や、やぁあかりちゃん。はやいね」

「はっ、はいっ! えっと、き、今日はっ、よよよ、よろしくお願いしますっ!」

「ははは、緊張しなくても。皆んなはまだかな?」

「へ? あの、今日は二人です、よ?」

「二人?」

「はい。紗凪ちゃんが計画してくれたみたいで……あ、その……め、迷惑でした、よね」


 さっちゃんが、俺とあかりちゃんのために?

 そうか。やっぱりさっちゃんは優しい子だな。あかりちゃんのことを本当に大切に想っているんだな。

 俺は、諦めないといけないのだろう。

 木下紗凪の心は、俺には向いていないのだから。


「迷惑だなんてそんな。あかりちゃん、少し街を歩こうか?」

「は、はいっ!」



 これが失恋、か。

 そして今、その穴を埋めるようにあかりちゃんと笑い合っている俺がいる。とても複雑な気待ちになる。けれども、あかりちゃんが俺を想ってくれているのが、ひしひしと伝わってしまうのだ。


 俺は、どうすればいい。

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