56(紗凪視点)


 い、い、いざ、決戦の刻!!

 私は強くなるんだ、兄ィに頼らなくても大丈夫になるんだ、これ以上、兄ィを縛りつけたら駄目!

 だから、自分の敵は自分で、倒さなきゃ!

 こわいけど、ちゃ、ちゃんと話せばわかってくれるよね。と、友達になれる、よね?


 と、意気込んでいたのだけれど、


「おいこらテメー? アタシに楯突こうっての?」

「あわわわわわわわわ」


 よ、呼び出されちゃったよぉ……っ!?

 どどどど、どうしよう? 同学年のこわい系女子数人と、し、知らない男子たち。一年の女子更衣室に何で男子が?

 あの制服、隣町の高校のだよね。


「テメーこら、朝アタシにガン垂れてやがったな? なんか文句あんのかこら!」

「ひぃっ、が、ガムなんて食べてないよ!?」

「ガムじゃねーよバーカ! 脳みそ腐ってんじゃね?」


 酷いこと言うなぁ。何か言わないと。

 でも、喉から言葉が出ない。こわい、こわい、大きな人相の悪い他校の男子たちが私を見てケラケラと笑う。何がおかしいのかな?


「おい烏丸? この女、本当に好きにしていいんだな?」「ぐへへ、可愛いじゃんか。烏丸が嫉妬するだけはあるなぁ」「新品か? この女、新品か?」


 この人たち、何言ってるのかな?


「黙れよクズ男共。嫉妬なんかしてねーし、こんなブスに。アタシはモテねーお前らのためにコイツを用意してやったんだから。好きにしなよ」


 男子たちが寄ってきた。どうしよう、後ろでスマホを取り出した女子たちはそれを私に向けている。何してるのかな? 何が始まるの?

 その時だった。外が騒がしくなったと思うと、門番ちゃんを払い除けたあかりちゃんと黒神君が扉を開けて部屋に飛び込んできた。


「やめなさい!」


 あかりちゃん! と、ついでにトリプルK君! あ、また間違えた。二人は私の前に立ち男子たちを牽制してくれた。黒神君が指を鳴らすと、他校の男子たちが数歩後ずさったのがわかった。


「黒神、アンタ、アタシの邪魔する気?」

「おい烏丸! 聞いてねーぞ、こんなバケモノが登場するなんてよ!?」

「怯んでんじゃないよ! それだけ頭数揃えて何を怯えてんだ! ソイツもやっちまいな。後のことはアタシのママになんとかしてもらうからさ。やりたいんだろ? そのブスと。なら働け」


 烏丸さんの言葉で男子たちの眼の色が変わったみたい。あかりちゃんは私の肩を抱いてくれている。

 けれども、黒神君一人の力は知れていたみたいで。他勢になんとか、黒神君は数人を蹴散らしたあとに羽交い締めにされて何度も何度も殴られて、遂には動かなくなっちゃって……


「や、やや、やめて! く、黒神君は、か、関係な、ないから! もうやめてあげてよ!」

「くっ……そ……オレは蚊帳の外、か? さな、ぎ……オレは、お前が……ただ、す、……ただ、好きな、だけだぁ!」


 へ?


「黒神君! 私は好きじゃないよ!?」

「いや……いま、ここで、言うなっ……ての……ムードって、もん、知らね、の……」


 あわわ!? 気を失っちゃった!


「酷い。黒神君は何も悪くないのに!」

「紗凪ちゃんは、ちょっとだけ酷かったよ?」


 あかりちゃんの言ってることはわかんないけれど、許さない。私が気に食わないなら私と直接話を、と、前に出ようとしたその時、私の肩を押さえて首を横に振るあかりちゃんと目が合った。


「お願い……この子だけは、やめてあげて……わたしなら、す、きにしていいから……お願い」

「へ? あ、あかりちゃん?」


 すると、烏丸さんが高笑いを上げた。


「いいぜ? 男共をテメー一人で満足させられたら、そのブスは助けてやってもいいぞ? ほら、自分から服脱いで、コイツらにお願いしろよ? どうぞ、可愛がってくださいってさ!」

「……っ……先輩……わかった。その代わり、約束は守ってもらうから」

「どうでもいいからさ、はやく懇願しろやメスが」

「……ど、どうぞ……」

「馬鹿! 脱いでからだよ、脳にいく栄養全部その乳に持ってかれたか?」


 駄目……あかりちゃん。

 駄目だ、このままじゃあかりちゃんが酷いことされるんだ。今更、わかるなんて、私、本当に馬鹿だよ。私のせいで、私のせいで、そんなの、


「嫌……あかりちゃんに乱暴しないでよ!」


 私の声なんて聞こえていないかのように、あかりちゃんに群がる男子たち。泣いてる。あかりちゃんが泣いてる。私の、大切な友達が、親友が泣いているのに、私は無力だ。違う、たたかう!

 意を決して飛び込むも、一人の男子に拘束されて壁に押し付けられちゃった。動けない。男の子って、こんなに力、強いの!?


「この女、チビなのにいい乳してるぜ」「はやくブラはいじまえよ?」「焦るなって」


 やめて! あかりちゃんを離して!

 動けない、それにこの人何か臭い!


「なぁ烏丸? おれはこの女が好みだから、いいよな?」

「ん? おう、好きにしなよ? くっはっはっ、残念だな。テメーら二人して、今日で喪失だ」


 ……もう駄目だ。終わるまで耐えるしかない。

 私は弱い。弱いままだったんだ。

 ちゃんと兄ィに頼れば良かったんだ。助けて。


 助けて、兄ィ!

 こわいよ!





 ダン! と、部屋に轟音が鳴り、熱を帯びていた更衣室に静寂とあの声。


「黒神には悪いが、一部始終をカメラで撮らせてもらったのじゃ。烏丸愛、と、その愉快なクズ虫共よ、生徒会長田間鸞子が来たからには、好き勝手は許さんのじゃ!」


 か、か、か、か、か、か、か、


 何を隠そう! 会長だーーーーっ!!!!

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