44(巧視点)


 夏休みも半ば、高校卒業後、親の仕事を継ぐことが決まっている(木下にはまだ言ってない)俺は、今でも部活に顔を出している。幸い後輩たちにも慕われている(多分)から、早く引退しろオーラはない。最後の大会はあっさり敗退してしまったし、実はもう引退なのだけれど、心がモヤモヤする。

 その理由は、何を隠そう、さっちゃんの告白の件だ。


「金池先輩? ボーッとしてどうしたんです?」


 かわいい後輩たち。この子たちと共に青春するのもあと僅かだ。入学式の時、俺が馬場谷園烈子に告白されている時、さっちゃんが誰かに告白していた事実は思った以上にショックだ。

 あれから美少女フィギュアを眺めていても、好きなアニメを見直しても、どうにも気が晴れない。


 結局、あの約束は子供同士の口約束。さっちゃんがそんなこと、いちいち憶えているわけないか。

 さっちゃんに好きな人が出来て、そのために頑張って色々乗り越えている姿を見ていると、それは俺の為ではないという嫉妬みたいな感情まで込み上げてくる始末だ。

 いかんいかん。さっちゃんは前を向き始めている。


「大人になったら……」

「先輩?」


 ——!!


「おおー! さっすが金池先輩っ!」

「ははは、どうも。なんてことないよ」


 俺の気持ちも、さっちゃんの心のど真ん中に刺さればいいのに。


 その後、部活を終え校門前。


「か、金池先輩? あ、ぐ、偶然ですね〜」

「あかりちゃん?」

「あ、その、はいっ……あのっ……」

「どうしたんだい?」

「せ、せっかくなのでっ、と、途中まで一緒に帰りませんかっ!?」


 さっちゃんの親友、上野あかりちゃん。

 小さくて、それでいて女性的な、少し不思議な雰囲気の女の子。

 この間一緒に海に行った仲だし、やましい事はないから一緒に帰っても問題ないか。


「いいよ。暑いし、アイスでも買ってこうか」

「は、はいっ!」


 元気な子だなぁ。

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