26


 期末試験も終了し、夏休みも目前、時にして七月二十日終業式。そしてその式も終えた僕は町内の美容室前である人物を待っていた。

 何を隠そう、僕の妹だ。


 暫く待っていると、紗凪が美容室から出てきたのだけれど、


「紗凪、どういうことか説明しろ」

「……あ、暑いし、ちょっとすいてもらったんだけど、ど、どうかな?」

「すぉぉぉーーっじゃぬぁいどぅぁるおっ!? 何で前髪が据え置きなんだ?」


 約束が違うだろ、と、僕が捲し立てると、紗凪が珍しく反論に出てきた。


「ま、前髪は、やっぱり駄目!」

「紗凪! 約束は約束だろ? 数学の点数、六十点だったじゃないか。八十点以下だったら前髪を切るって言ったはずだ」

「前髪切ったら死ぬもん!」

「死ぬか!」

「兄ィの馬鹿! はげ!」

「このやろ、またはげって言ったか!? よく見ろ、ボーボーだろ!」

「もーっ! なんでわかんないの!?」

「前髪切って、可愛くなるんじゃなかったのか?」

「兄ィはわたしのこと可愛くないんだ! 前髪切ってなかったら可愛くないんだ! 兄ィ嫌い!」

「あ、こら紗凪!?」


 紗凪は僕に学校指定の鞄を投げつけて走り去ってしまった。何だってんだ?


 結局、髪を切ったあとに約束していたスイーツカピパラダイスもおじゃんとなり、僕はというと、一人、ボッチらしくゲームセンターに入り浸り、日が暮れた頃に家に帰った。

 玄関には鍵がかかっている。ポケットから鍵を取り出——


 ——紗凪?


 僕の手には紗凪の鞄。

 僕は慌てて鞄の前ポケットのチャックを開けた。紗凪の家鍵がそこにはあった。

 室内を確認した。当然、紗凪はいないわけで。


 僕は、普段絶対に開けるなと言われている紗凪の鞄を開けた。そこには、一冊のノートがあった。


 ノートと言うには、些か分厚い、そんなノートだ。

 何故今、このタイミングで、僕は鞄を開けたのか。僕は紗凪の気持ちを何もわかっていないのかも知れないと、そう思ったからか。

 これを開けば、紗凪のことを少しは理解出来るのだろうか。違う、理解していないわけじゃない。







 結局、逃げているのは、僕も同じだった

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