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「駄目だよたっくん! 数字を分解するなんてかわいそうだよ!」

「いやでも因数分解……」



 ……何を隠そう、僕の妹だ。



「例えばだよ、たっくんがバラバラに分解されたらわたしは悲しいよ!」

「さっちゃん、例えられても……それなら、他の問題からおさらいしようか」

「うん! たっくんはやっぱり優しいね。今まで分解した数字たちも天国で笑ってるよ」

「あ、うん。ありがと……数字……」


 あー、駄目だ。これは駄目だ。脳みそが壊滅的に数学に向いていないな。とはいえ、語学や歴史なんかは点数が異様にいいのだけれど。

 紗凪七不思議の一つである。


「じゃぁさっちゃん、これはわかる? サイン、コサイン?」

「はっ! サイン会! わたし人ごみがこわくてサイン会に行きたくても行けないんだよね」

「それは勿体ない、木下に連れて行ってもらえばいいのに……じゃなくて!」


 金池が柄にもなくノリツッコミを。世も末か。


「ほら、そうじゃなくて、サイン、コサイン、ときたら?」

「はっ! わかった知ってるよそれ!」


 うむ、やっと前に進みそうだな。


「タフデ○ト!」


 それは小○製薬の入れ歯洗浄剤だよ!


 タフタフタフタフ、ターフデント↑

(いやもはや誰も知らんやろこのCM……)


 と、冗談はさておき、——本人は至って真剣なのだろうけれど、金池の決死のマンツーマン講義で、それなりに形にはなったようで、紗凪は勉強する僕の前で胸を張り、ふふん、とドヤ顔をかますのであった。どうでもいいけれど、金池にお茶くらい淹れてやれよ、向こうで干からびてるから。


「兄ィの野望、打ち砕けたり!」


 こんなに自信に満ち溢れた表情を見たのは何年振りだろう。たしか、紗凪が中学生の時に、アイスの棒にアタリの文字が書いてあった時以来か。

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