25
「駄目だよたっくん! 数字を分解するなんてかわいそうだよ!」
「いやでも因数分解……」
……何を隠そう、僕の妹だ。
「例えばだよ、たっくんがバラバラに分解されたらわたしは悲しいよ!」
「さっちゃん、例えられても……それなら、他の問題からおさらいしようか」
「うん! たっくんはやっぱり優しいね。今まで分解した数字たちも天国で笑ってるよ」
「あ、うん。ありがと……数字……」
あー、駄目だ。これは駄目だ。脳みそが壊滅的に数学に向いていないな。とはいえ、語学や歴史なんかは点数が異様にいいのだけれど。
紗凪七不思議の一つである。
「じゃぁさっちゃん、これはわかる? サイン、コサイン?」
「はっ! サイン会! わたし人ごみがこわくてサイン会に行きたくても行けないんだよね」
「それは勿体ない、木下に連れて行ってもらえばいいのに……じゃなくて!」
金池が柄にもなくノリツッコミを。世も末か。
「ほら、そうじゃなくて、サイン、コサイン、ときたら?」
「はっ! わかった知ってるよそれ!」
うむ、やっと前に進みそうだな。
「タフデ○ト!」
それは小○製薬の入れ歯洗浄剤だよ!
タフタフタフタフ、ターフデント↑
(いやもはや誰も知らんやろこのCM……)
と、冗談はさておき、——本人は至って真剣なのだろうけれど、金池の決死のマンツーマン講義で、それなりに形にはなったようで、紗凪は勉強する僕の前で胸を張り、ふふん、とドヤ顔をかますのであった。どうでもいいけれど、金池にお茶くらい淹れてやれよ、向こうで干からびてるから。
「兄ィの野望、打ち砕けたり!」
こんなに自信に満ち溢れた表情を見たのは何年振りだろう。たしか、紗凪が中学生の時に、アイスの棒にアタリの文字が書いてあった時以来か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます