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 体育祭最初の競技で見事に顔面から転倒した一年生が先生方に運ばれていく。

 ……何を隠そう、僕の妹だ。


「大丈夫かなぁ、さっちゃ、あ、紗凪ちゃん」

「ま、まぁ少し転んだだけだし、大丈夫だろ。紗凪だっていつまでも子供じゃな——」

「いや、呼んでるぞ……兄ィって」


 グラウンドの中心、いや、片隅で兄ィと叫ぶ一年生が紗凪なのは言うまでもない。恐らく普段は感情を露わにしていないであろう空気に近い存在が、あそこまで声をあげて泣くのだから、同学年の注目が集まりはじめる。脇目も振らず大泣きするものだから、前髪も流れて可愛いご尊顔もこんにちは、ときた。仕方ない、行ってやるか。


 僕が紗凪の元へ行くと、先生が「木下か。兄ィって木下のことだったんだな」と、僕たちが兄妹なのを初めて知った風なことを言う。


「あ、はい。僕の出番はまだ先ですし、紗凪は僕が保健室へ連れて行きます。先生はやることあるでしょ」

「悪いな木下。しっかし、兄ィとはまた、くくっ」

「まぁ、笑わないでやってくださいよ」


 何も知らないくせに。と、その言葉だけは飲み込み、紗凪を背中に背負う。普段目立つことない僕たちには視線が痛い。その間も次々と、何事もなかったかのように百メートル走は続いているのだけれど。

 紗凪の膝、手のひらには擦り傷。滲む、赤。


「兄ィ……ごめんね、ちょっとびっくりした、だけだから……」

「いいから大人しくしてろ。消毒して絆創膏貼ればそれで万事良しだ」

「……えへへ、兄ィのおんぶ久しぶりだなぁ」


 まだ、——まだ、駄目なんだな。


 視線。


 振り返ると目が合った。そんな気がした。知らない男子だ。一年生の彼はすぐに目を逸らし、スタートの合図と共に駆けて行くのだった。

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