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「兄ィ〜、このコンデ、何だっけ。まぁそれはこの際いいとして、ぜ、全然泡立たないんだけど?」
「コンディショナーな。それでいいんだよ。で、この際だから言っておくけれど、紗凪はもう高校生なんだから、そんな姿で兄の前に出ないこと」
「ん? なんで?」
「それ聞いちゃうのかぁ……」
ほぼ全裸少女(雑ではあるけれど一応タオルで隠すことは隠している)が僕の前に現れ首を傾げる。
何を隠そう、僕の妹だ……
◆◆◆
風呂を済ませてホカホカご満悦な妹、紗凪の髪を乾かしてやる。やはり女性用シャンプーとコンディショナーは偉大だった。まず香り。これだ、これこそ女子の香り。
「兄ィ、どうした、の?」
まさか一瞬でも妹に女子を感じるとは。気を取り直し、昨晩と同じ要領で乾かした髪をとく。くしの通りが頗るいい。
あぁ、何ということでしょう!
まるでマリモの突然変異体みたいだったモリモリの癖っ毛が、艶々のストレートに変貌したではありませんか!
と、まぁ、それだけの変化を遂げたわけで。
「紗凪、見てみろ。艶々のサラサラだ」
僕は紗凪の前髪を手のひらでずらしてやり片眼を出してやる。少しばかり垂れ気味で、それでいて丸みを帯びた大きな瞳が鏡に映る自分の姿をしっかりと捉えているのがわかる。
「はっ! 駄目だよ兄ィ! め、めめ、目に正体不明の埃星人が侵入してくるかも知れないよ!」
「……因みに、その埃星人に侵入されたら、ヒトはどうなるんだ?」
「運が良くて失明、もしくは……死ぬ!」
人類滅亡も秒読みか。
「馬鹿なこと言ってない。せめて家の中ではおでこを出してろ、ほら、ニキビが出来ちまうぞ? 青春ニキビ出来ちまうぞ?」
「ま、まま、眩しいよぉっ!」
僕の妹はモグラか何かか?
結局……かなり抵抗されたが、——数発蹴りを入れられながらも何とかゴムで前髪を結い、意外と立派なおでこを丸出しにしてやった。久しぶりにまともに顔を見た気がする。
紗凪はというと、肉食獣に追われ逃げ遅れた草食獣が如き悲哀全開の表情で僕を睨んでいる。
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