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四月、春になり町を淡紅色が埋め尽くす季節、——入学したてのピカピカの一年生、とまではいかないけれども、それでも希望に眼を輝かせて、いざ高校生活エンジョイだと躍起になる季節に、早速告白と洒落込み、見事にフラれた一年生がいた。
何を隠そう、僕の妹だ。
時は入学式前に遡る——
「
「
カピバラの絵がプリントされたエプロン姿で視線(とは言え前髪で遮られていて視線という視線は皆無だけれども、こちらを向いているのは間違いないので視線と表現する)を向けた妹、紗凪が今にも消えそうな声で答えてくれたわけだけれど。
「デケェな、ハンバーグ。美味そうだけれど」
「す、すぐにし、し、支度、す、するから……手を洗ってきて」
初期のAIかとツッコミたくなるくらいに辿々しい、歯切れの悪い細い声と共に、香ばしいソースの香りが鼻腔をすり抜け、僕の空腹中枢を刺激するものだから、グゥ、と腹の中で飼っているペットが鳴いた。本当に飼っているわけではない。
言われた通り手洗いを済ませ席に座ると、既に用意が完了していた。ご飯は大盛。正面に座る紗凪のお椀には拳分程の白米がよそわれている。ハンバーグのサイズも、僕のソレと比べて小さい。
「もっと食べないと、背、伸びねーぞ?」
「さ、最近は小さな女の子も需要があるし」
「明日から高校生だぞ? そんなモジモジした話し方だと友達出来ねーぞ?」
「よ、よよ、余計なお世話、だもん」
紗凪に言える程、僕に多数の友達がいるわけでもないのだけれど。紗凪は内気で昔から友達を作るのが苦手だ。それでも親友と呼べる友はいる。その子には兄として感謝してもしきれない。
妹をどうぞよろしくお願いします。
さておき、今夜のハンバーグも、美味である。
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