第二次ドイツ-ソビエト戦争

 マイヤー装甲師団がフランスやスペインの確保に奔走する中、ソビエトとの戦線を構築する東部軍は苦境に立たされていた。


「まだまだ来るのか!? 昔の時と何ら変わりねえじゃねえか!」

「仕方ない! 耐えろ! 耐えるんだ!」

 塹壕の中で肉弾のごとく何十、何百と突撃してくるソ連兵に対して彼らは延々と機関銃の弾を浴びせ続ける。横では機銃弾の嵐を搔い潜り壕内にいる機関銃手に刺突し、直後に近くにいたドイツ兵にハンドガンで射殺されるソ連兵が見える。

「畜生! 撃っても撃ってもまだまだ来やがる!」

 高波のように何度も何度も押し付けてくるそれはついに堤防塹壕を打ち砕く。


「装填手! 銃身を変えたい!」

「わかりました! 発砲を止めてください!」

 一人の機銃手が損耗した銃身を交換しようと発砲を止めた瞬間に一人のソ連兵が塹壕の中に飛び込みPPShペーペーシャを乱射する。あまりにも唐突すぎる出来事に塹壕内では抵抗すらできず僅か数十秒という短い間に一帯は真っ赤な鮮血で染め上げられた。そしてその兵士の突撃が突破口となり続々と壕内にソ連兵が雪崩れ込んでいく。

 あっという間に前線部隊は壊滅し、その崩壊した前線の一部からじわじわと勢力を広げてゆくソ連軍の人海戦術に翻弄され、撤退後に作り上げた防衛戦も次々と破られていきオストラントは完全に喪失し、参謀本部が予想していた以上の被害を被ることになった。そして作戦本部はヴィスワ川までの撤退作戦を立案したが、川まで下がると反転攻勢が難しくなると予想されたためにこの計画は白紙となり、後方で待機していた部隊全てを前線まで移動させ反撃に出ることとなる。

 反撃開始前にはわずか一か月で二か国を捻りつぶしたマイヤーの装甲師団が東部戦線に増援として着任し、着任が確認された日の朝より喪失したオストラントの解放並びにソ連兵の殲滅を目標に軍事行動が開始された。

 数十万もの兵士が迫りくる中、そこに機械化師団が突入して長年の研究の末に完成した毒性の強いガスを流し込む。ガスマスクを持たないソ連兵はその毒ガスに押されるようにズルズルと撤退していき、それを戦車隊は追撃、進路を塞ぎ、半夏く作戦が開始されてからわずか三日でソ連軍を百キロメートルも後ろに追いやり、同時に十五万の敵兵の包囲に成功した。

 そして現地から送られてきた戦闘情報を解析した参謀本部は戦線のソ連軍内で小規模の分裂が起こっていることを発見した。数年前まで各地域はソビエトの独立した司令部が統治していたために各軍の協力性が著しく少いことが要因であると予見を立てた彼らは敵の連携不足に漬け込むような形で攻勢をかける作戦を立案、実行した。

 結果彼らの予見は的中し敵軍は一度後方に進出を許されると援軍の配備などで毎回混乱していた。これは初期の優勢によってドイツ側にソ連兵が殺到し指揮系統の近藤が招いた結果であった。

 ドイツ軍は傷口を抉っていくように奥へ奥へと浸透していき、次々と敵の補給路を遮断していった。火炎瓶を用いて抵抗する赤軍はドイツのE-55に適うはずもなく、南部ではさらに二十五万の敵兵力の包囲、そしてクリミア半島において赤軍に包囲されていた部隊を解放することに成功した。北部地域でも十二万人の部隊包囲に成功し前線に大きな穴が生じたところで反撃のチャンスはここしかないと判断した軍部は大攻勢を始める。

 全ての前線に毒ガスを散布すると同時に攻勢を開始し、マイヤー軍団には無制限に装備と物資の補給が約束され、その場における独自判断も許可された。目標はソ連軍主力部隊の完全撃破。東にいる残りの部隊が西に終結する前に東部戦線を構築している部隊を各個撃破することだ。

 中部の前線部隊を包囲したことで後方に大きな空白地帯が出現し、マイヤー軍団はウクライナの制圧に乗り出した。毒ガスで汚染されたウクライナの穀倉地帯を、市街地を縦横無尽に駆け回り、北部では渡河に成功。四十万以上に上るソ連軍の両翼包囲に成功した。これによって北部地帯の守りは完全に瓦解しバルト三国を奪還。同時に包囲されていたアドルフブルクの奪還にも成功した。

 装甲軍団は留まるところを知らずモスクワの攻略を開始、バルト方面に進出した戦車部隊が一気に南進を開始しソ連軍の前線自体が崩壊し始めていた。

 モスクワの防衛に奔走していたソ連軍であったが北部前線部隊は完全に崩壊しており、ドイツ機甲師団の侵攻を止められるものは誰にもいなかった。彼らは無人の平野を驀進しついにモスクワ正面に到着。第二次世界大戦の時にモスクワを攻略された経験のあるソ連は死に物狂いで市民を動員して防衛させた。約十四万の民兵が様々な建物に立てこもったが、四方から毒ガスを大量に流し込み、さらにはようやく前線投入が可能となったジェット爆撃機で無差別に市街地を爆撃。町に入ると市内に火を付けて回り、二週間という期間を経て無人の廃墟と化したモスクワを占領したのだった。

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