Ⅴ-Ⅳ Letzter Krieg

宣戦布告

「前線部隊は全軍侵攻開始の準備が整ったようです」

 作戦本部にいる一人の隊員がヘロルトにそう言う。

「ああ、わかった」

「ついに絶滅戦争がはじまるのですね……」

「そうなるだろうな。一次大戦敗北後、我々は幾度となく戦争を勝ち続けてきた。それによって得た富と名声が招いた最後の到達点がここだ。必ずドイツは勝利を収めるだろう」

「ハイドリヒ総統に電文を送りました……数時間後には我々は地獄の中に引きずり込まれるのですね……」

 横からオーレンドルフがヘロルトに話しかける。彼の顔はかなり憔悴しているようにも見えた。



 そして1959年6月22日、皮肉にもかつて独ソ戦が開始された日にヘロルトの録音したラジオ放送が全国民に向けて放送され、ドイツは突如英、米、ソ、仏、西という大国に宣戦布告した。

 宣戦布告から三十分後、クルト・マイヤー中将率いる騎士軍第一装甲師団がフランス北部から越境し侵攻を開始。平和主義的外交で戦争を全く持って想定していなかったパリ・コミューンは突如しみ込んできた鉄の塊に混乱状態に陥った。共産党首脳部によってパリ死守防衛が叫ばれるものの、ろくな戦闘訓練を行っていないフランス軍は五年間ずっと戦い続けているドイツ軍には歯が立たず、わずか四日間で首都を明け渡した。命令を受けて出撃したフランス軍は続々と包囲され、壊滅し、騎士軍機甲師団は縦横無尽にフランスの地を駆けまわった。逃走中であったフランス軍司令官や共産党首脳部はオルレアンで逮捕され、即日の内の処刑台の上に立たされた。ここまでわずか一週間足らずの事であった。


 これにより指揮系統が崩壊したフランス軍はもはや連携を主とした防衛戦を展開することができずアメリカ軍の増援が来る間もなく、敗走に敗走を重ねた結果もはや国体を維持することはできなくなり開戦から二週間後にパリ・コミューンはドイツに対し降伏した。


 そして流れるようにマイヤーの機甲師団はスペイン攻略を開始。アメリカ軍に武装解除を行われていたスペインは大した抵抗力を持たず、それの代わりに現地の各都市に駐留していた僅かな数のアメリカ軍が防衛を開始した。M48などを装備した現代的な戦車部隊や騎士軍と同じように暗視装置を装備した現代歩兵が少数ながらもスペインに存在し、騎士軍の進軍を遅らせようとゲリラ戦を展開。しかしここでドイツ軍はヘリコプターをフルで活用し、制空権が整う前に各地を索敵しそして特殊部隊を輸送しスペイン要所の早期確保に乗り出した。装甲よりも機動力を重視した戦車部隊はスペインの各都市を獲物を屠る肉食動物のように食い荒らして行き防衛側が有利になると思われる地点を足早に確保した。七月初めにはイギリス領ジブラルタルを含むイベリア南部の制圧に成功し、アメリカ軍は限られた港のみでしか補給物資の輸送ができなくなり弾薬やレーションと言った物資の不足が深刻化し、抵抗力が一気に減少した。

 そして占領下に置かれたマドリードでは死守命令を出していた共和派の将校やその他の人間を処刑すると、かつてのフランコ政権側についていた軍人が次々に反乱を起こしアメリカ軍の背後から彼らの脇腹に銃弾をねじ込んだ。

 この反乱はアメリカ軍のスペイン統治に終止符を打ち、開戦から一か月後の七月二九日にスペインは全面降伏という選択肢をとった。スペインの裏切りは駐留していたアメリカ軍の退路を塞ぐこととなり援軍として急行していた三十五万のアメリカ兵が騎士軍やフランコ派スペイン軍によって包囲された。そしてその部隊の内二十万人以上が投降を余儀なくされ、徹底抗戦を叫んだアメリカ軍は呆気なく殲滅された。

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