Ⅴ-Ⅱ ナチズムの真理
叫喚
ハイドリヒとの面談を終えた後、親衛隊本部の地下、親衛隊作戦本部室に一人入ったヘロルトは今にも溢れ出しそうなどうしようもない感情を必死に抑え込みながら「やっぱり……やっぱりそうじゃないか……」壊れたラジオカセットのように何度も何度も繰り返しながらとぶつぶつ呟き続ける。そしてついに抑え込んでいた感情の堤防が崩れ去った。
「ハハハハハッ! ハハハッ! 何が"あの凄惨な事件"だよ! お前がやったんだろ!? ハイドリヒ総統!」
ばんばんと机を叩きながらヘロルトは叫び続ける。
「やるならお前以外に誰がやるっていうんだよ! これがハイドリヒの……いや、国家社会主義ドイツ労働者党の真の姿だ! この国はずーっとそうだ! 1933年、ヒトラー率いる労働者党が政権を確保してから! 見ないふりをしてきた! 関係ないから無視してきた! 全権委任法! ニュルンベルク人種法! 長いナイフの夜! オーストリア首相暗殺! チェコスロヴァキア併合! タンネンベルク作戦もそうだ! 飢餓計画も! それにホロコーストも! ずーっとそうだ! 平気な顔をして人を殺し、奴隷化してきたのがこの国だ! 『神から選ばれたアーリア人だから』? ふざけんじゃねぇ! 何をどうすればそんな理由にたどり着くんだ!? そしてそんな理由を盾にしてさも普通かのように他人の命と財産を奪ってきた! ナチズム国家の中心は暴力性だ! どうしようもないほど腐り切った暴力性なんだ! 突撃隊幹部も政治家も! 時には他国の首相さえも暗殺してきた労働者党が! 今度はドイツの総統を暗殺しようがもはや驚きもしない! 差別と虐殺を公約で掲げ! 奪った土地と! 奴隷化した劣等人種の力で! 豊かな生活を享受してきたのだから! 私たちが心から支持し! 命を懸けて守ってきたこの国の根幹は! ナチズムの根幹は! 虐殺、絶滅、奴隷といった暴力なのだから! 奴がデーニッツを殺したのはそんなナチズムの暴力行為の一部に過ぎない。この国では"死"が日常となっている。この国はこの世に生まれてきたその瞬間から狂っていたんだ! それがナチズムなんだ! 国家社会主義ドイツ労働者党が作ったドイツなのだ! そりゃあ私たちが考えるようなまともな国家になるはずがない! 根幹が狂ってる。二十五年間ずっと狂っている! その狂気に乱舞しているのがドイツ国民であり我々なんだ! ドイツ第三帝国が存在し続ける限り狂った歯車は延々と回り続ける! もはや変わることなんて無いだろう! ハハハッ……民主主義で選ばれた政権が、国家が目指したのが多民族の奴隷化と虐殺だなんて……あほらしいよ……」
がたっと倒れ込むように椅子に座り込んだヘロルトは一度大きく息を吐いてから
「そうだ、ラジオの収録に行かないとダメなんだ……」
そう言いながら重い腰を上げ、よたよたと覚束ない足取りでゲルマニア中心街にあるラジオ局へと向かった。
「ヘロルト司令官! お久しぶりです!」
ラジオ局の入り口を過ぎたのと同時にやや小太りな髭を蓄えた中年の男が話しかけてくる。
「おお、ヴァイトリング君じゃないか! 久しぶりだな! 親衛隊の作戦本部から今日の要件は伝えているはずだが、届いていたか?」
「ええ、もちろん。先に来られた隊員の方が第八スタジオにおられるのでそこに行ってください」
「ああ、わかった。では」
「演説頑張ってくださいね!」
大きく手を振るヴァイトリングに送られながら第八スタジオのある階につながるエレベーターに乗り込んだ。
そして、スタジオに着くと彼の言っていたように他の親衛隊員が先に終結しており、ヘロルトが入るだけで収録ができるような状態になっている。
「遅れてすまなかった。収録を始めよう」
そう言うと周りの隊員は「了解しました」と言って準備に取り掛かる。そしてその間にヘロルトはマイクの前にある席に座り原稿を読む準備をする。
「三……二、一、スタート」
そういう録音手の合図に合わせて原稿を読み上げる
「全ドイツ国民に連絡する! 我々は新たな軍事同盟を立ち上げた。名前は
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